中村医師の情熱

大田区蒲田で中村哲さんの講演を聞いてきました。

ペシャワール会現地代表の中村医師といえば、アフガニスタンにおいて本業の医療のみならず、井戸掘りや用水路建設等に文字通り身命を賭している方として、多くのマスコミにも取り上げられています。単身、戦火の地で復興事業の先頭に立たれるとは、どんなにバイタリティ溢れる方かと思っていると、ステージに出てこられた中村医師は、小柄で、話し方も訥々としておられることに少々驚きました。アフガンの風景を映写しつつ始まった講演は、そのあまりにも偉大な功績に似合わず、もちろんそれを誇るようなそぶりは一切見せられず、また、部下の日本人ワーカーを亡くすという惨劇を経験されたにも関わらず、淡々と進み、感情的に大きく盛り上がるということもなく、終了しました。

講演後の質疑応答で、会場の若い男性から「先生の活動の原動力は何ですか」と聞かれた中村医師、「古い言葉だけど、ここで引いたら男がすたる、と思った。現実に困っている人がいて、自分にできることがあるにも関わらず、それをしないのでは気持ちが悪かった」と、誠実な人柄そのままに答えられていたのが印象的でした。そうなのです。声高に叫ぶことが世の中を変えるわけではないのです。他にも多くの有名ではない(マスコミ等では取り上げられない)方たちが、世界中で、日本の中でも、献身的に活動されているのです。

澤地久枝さん(当日も講演前に挨拶されました。)が聞き手になった「人は愛するに足り、真心は信ずるに足る」(2010.2、岩波書店)は、中村医師の秘めた熱い思いを澤地さんの筆が迫力をもって引き出しており、さらに、それを引き出そうと生い立ちから体重まで聞き洩らさない澤地さんの気迫も感じられる、素晴らしい一冊です。