Let it be –そこに存在させること–

5月7日(土)の夜、新宿のライブハウス Naked Loft で開催された Jazz HIKESHI のトーク & ジャズ ライブのテーマは「故郷を捨てさせない」。

 ジャズ・ヒケシとは、東京外大教授で国連平和維持活動等に携わってこられた伊勢崎賢治さん(トランペッター)とメディアクリエーターのマエキタミヤコさんを中心に、これまで国際情勢や途上国問題をテーマにライブ活動をされてきました。しかし、今回のテーマは専門外(?)の国内、つまり東日本大震災と、特に福島の復興の問題。

いつものメンバーによる2曲の演奏の後に登場されゲストの1人目は広島大学平和研究センター准教授の篠田英朗さん
伊勢崎先生とともに国連平和維持活動に携わってこられ、現在はNPO法人ピースビルダーズの理事として、被爆地・広島を拠点に活動されています。

そして今回は、3月下旬、原発事故の影響であまり人が入らなかった福島県に、ガイガーカウンター片手に支援に入った際の報告。行程を示した地図が貼り出されました。

また、単純な円を描いた政府の避難区域等の設定と立入制限は、もはや緊急の域を超えており人権侵害であること、「風評差別」が問題である等の話がありました。

2人目のゲストは福島県浪江町出身のシンガーソングライター、門馬よし彦さん

海岸近くの実家は津波に流され基礎しか残っていないこと、福島第2原発で働いている父君は、地震発生後実家の祖母を迎えに行く途中、防風林を越えてきた津波に車ごと流され、運よく山際で飛び移って九死に一生を得た話など。幸いご家族は皆さん無事だったようですが、周囲には亡くなった方、今も行方不明の方も多く、何より原発から10km以内の実家には、今は戻ることもできません。

そのような中、現在は避難所を回って歌う活動をされているとのこと。
この日、披露して頂いた3曲は、いずれも心を打つ素晴らしい歌でした。

篠田先生が、「伊勢崎さんに言われたから」と一曲披露されたのはビートルズの名曲「Let it be」。この曲名は「あるがままに」等と訳されているけれども、そうではなく、「そこに存在させる」という意味とのこと。世界の紛争地も原発被災地の福島も同じように、「そこに存在させること」がまず重要という意味を込められての熱唱です。

普段のライブではあまり喋らずマエキタさんに突っ込まれることが多い伊勢崎先生もこの日は多弁で、復興の基本は住民主体(Local onership)であること等を強く訴えられていました。
東チモール、シエラレオネ、アフガニスタンといった紛争地で、武装解除と復興のための活動をされてきた経験からの言葉には、重みがあります。国際協力で培った復興のノウハウを、何とか東北・福島でも活かしたいとの強い思いが伝わってきます。

演奏の最後には、めったにやらないアンコールを2曲も。盛り上がりました。

 終了後、マエキタさんから「エネシフジャパン(エネルギーシフト勉強会)」という活動を立ち上げられたことを紹介されました。原発にも石油石炭天然ガスにも頼らない日本を創るための、国民の議員の協働イニシアティブだそうです。確かに今、求められていることは「500年後も1000年後も、安心な国づくり」です。
 帰り際、伊勢崎先生の新著「紛争屋の外交論」(NHK出版新書)と門馬さんの新作CD「ひとひら」を購入。ミーハー的ですがいずれもサインをしてもらいました。
 翌8日(日)は前日の雨から一転して晴れ、東京地方はどんどん気温も上がりました。猫の額のような市民農園の一区画に、今年もトマト、きゅうり、なす、ピーマン、おくら、枝豆等の苗を植え付けました。
 ところで園芸店のご主人によると、今年はニガウリの苗が品薄とのことで、夏の節電のためのグリーンカーテン用に購入する人が増えているそうです。こんなところにも原発事故の影響が。

夕方、ベランダのソファに寝そべり、ぼんやりと空を眺めていました。雲の形がどんどん変わっていくのが面白く、考えてみると雲を眺めるなど子どもの時以来無かったことです。空は毎日出ているのですけどね。