想像力、感性、寄り沿うということ。

 今年の花粉飛散量は少ないそうですが、始まりが遅かった分のせいか、私の花粉症は昨年よりも酷い状況。そのような中ですが、3.11を前に開催された2つの勉強会に参加しました。
 3月7日(水)は、NPO法人銀座農業環境イニシアティブと戦略経営研究会の主催による「銀座農業政策塾」が開催されました。
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 全6回シリーズの3回目は、農林中金総研の蔦谷栄一先生をお迎えしての「水田を中心とした日本農業の構造と課題」。タイトルだけ見ると堅苦しいですが、詳しい資料を提供頂き、分かりやすい語り口で丁寧に説明して下さいました。
 米消費が半減している中で水田を有効活用していくことが農政の最大の課題。
 これまでの農政は作目毎(稲作、園芸、畜産等)の縦割りであったことが問題で、地域循環の視点から作目をバランスよく組み合わせる「地域社会農業」まの観点が重要で、特に有畜複合経営の観点から、飼料米(米粒として豚、鶏等に与える)、飼料稲(ホールクロップサイレージ(WCS)など、茎や葉も含めて牛等に家畜に与える)の取組の重要性を訴えておられました。
 私は単発の参加でしたが、塾生の皆さんは最後に政策提案をまとめるとのこと。
 塾生の職業は弁護士、行政書士、生ゴミリサイクル機械製造、造園業、ITや財務関係のコンサルタント、シンクタンクの研究員、地方自治体の職員など。農業、農政の「プロ」ではありませんが、食べものや農業に強い思いを持っておられる方達です。
 若い方も多く、どのような斬新な想像力によるアイディアが出てくるか楽しみです。
 終了後は、茨城県産にこだわった近くのお店で懇親会。
 翌日10時からの長野でのご講演を控える蔦谷先生も付き合って下さいました。
 翌3月8日(木)は、19時から神田のNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)事務室で「福島農家の“今”に触れる~福島視察・全国集会事前勉強会」で開催されました。
 3月24日(土)~25日(日)、郡山市で福島有機農業者ネットワークの主催で「福島視察・全国集会」が開催されます。
 報道のみでは伝わりにくい福島の現状と、土と共に生きる有機農業者たちの苦悩と努力を少しでも知ってもらう機会として企画されたものとのこと。
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 この日の神田での勉強会は「全国集会」に先立ち、東京側賛同団体が自主的に企画したもので、講師は茨城大学の中島紀一先生、農業ジャーナリストの大野和興さん、それに出版社・コモンズの大江正章さんという錚々たるメンバーです。
 いずれの方も、原発事故以前から日本の農業や地域のあり方について鋭い論陣を張ってこられた方達ですが、最近は福島の現場にしばしば入られ、様々な活動をされているそうです。
 中島先生によると、福島の農業者の中には色々な考えがあるものの、1年が経過し、総じて大丈夫、前に進めるという感覚の人が強いのではないか、とのことです。農地の土壌には、放射性物質を吸着し固定化する性格があり、宅地や道路に比べても線量は低く、実際にも、検査体制の整備が進む中、規制値を超える野菜等はほとんどないとのことです。
 この辺りの状況は、コモンズの新著「放射能に克つ農の営み」にも詳しく紹介されています。
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 ところが意見交換が進むうち、選ぶ側の都市と選ばれる側の農村の構造は変わらず、対立は避けられないような話になりかけたので、慌てて手を挙げて質問しました。自分は取りあえず今は都会の消費者であって、お金を出して食べものを買う立場であるけれども、被災地の生産者の方たちと同じ立場に立てないのでしょうか、どうすればいいのでしょうか、と。
 長く社会問題や差別問題に取り組んでこられた大野さんの回答は、想像力を及ぼすことしかない、最後は感性の問題、というものでした。そこで現実に生きている人たちのことに寄り添うことが重要であると。
 難しいなと思っていたら、大江さんが助け船を出して下さいました。
 それは、自ら少しでも農作業に携わってみること。都会でもできるし、半農半X的なライフスタイルも拡がっている。まずは自らの手で食料を生産してみることが、生産者の心を理解するきっかけになる、と。
 大江さんが代表理事をされているPARCでは学びの場である「自由学校」を開催されていますが、「東京で農業」コースは好評で、すぐに満員になるとのこと。
 
 実際に被災地に入って活動されている3人のお話は、当然ながら具体的で、福島の農業者や住民の方たちの思いの実態に、少しは触れられたような気がしました。背筋が伸びる思いがしました。
 東京のような大都会において、農と切り離された日常を送っているからこそ、農業や食べものに強い関心を持つ人が増えてきていることは事実のようです。
 そのような人たち一人ひとりが、福島を含む生産者の人たちとつながっていき、顔の見える関係を構築していくことの重要性を改めて感じさせてくれた2つの勉強会でした。
 明日はいよいよ3月11日。
 その前日の今日、3月10日は10万人が犠牲となったとされる東京大空襲の日です。東京のローカルニュースによると、今も行方不明者の捜索は続いており、昨年新たに判明した223人の氏名が犠牲者名簿に追加されたとのことです。