リスク社会に生きる-日本社会科教育学会大会から-

0930-1_convert_20121001045835.png 9月最後の日は、強い台風が日本列島を縦断。
 関東地方も夕方から強い風と雨、仲秋の名月どころではないと思い早々に布団に入りましたが、夜半に嵐は過ぎたようで、明け方の西の空には見事な満月が望めました。虫の声も盛んです。
 さて、9月29日(土)から30日(日)にかけて、東京都小金井市の東京学芸大学において、日本社会科教育学会第62回全国研究大会が開催されました。
 1951(昭和26)年に創立されたこの学会は、社会科教育に関する研究・調査と、その発達と普及をはかる全国的な学会とのこと。以前に食育の関係でお世話になった小学校の先生から紹介頂き、今回、初めて参加しました。
 多くの幅広いテーマについての自由研究、課題研究とともに、1日目の午後にはシンポジウム「リスク社会における社会科のあり方(存在意義)を考える」が開催されました。
 大きな教室は、補助椅子まで持ち込んで満席です。
 最初に、シンポジウムのテーマについて、共同司会の坂井俊樹先生(東京学芸大)から説明がありました。
 原発事故など「想定外」といわれるような危機に翻弄される現代は、その一方で、「個人」が経済や社会に一人でさらされ自己責任が基本原理となってきている時代でもあり、例えば放射能に対しても、個人の判断、個々の対応が求められている状況にあること、そのようななか、情報に批判的に対応し自己の意見を発信していく能力の育成等について実践的に議論していくことが必要であること、というのが本シンポジウムの趣旨とのことです。
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 三石初雄先生(東京学芸大)から「環境教育から今日の実践課題を探る」と題する第1報告。
 現代日本の教育においては「一方的な価値観の押しつけとならない」ことが求められており、原子力発電についても「両論併記」となってきたことが一つの到達点と評価されつつも、「リスク論」的視点を加味した英国の教科書についての紹介がありました。
 続いて、中妻雅彦先生(愛知教育大)から「リスク社会の中の現代若者像―つながりとかかわりを求めて―」。
 リスク社会における子ども達には、「学びからの逃走」と学力の二極化、不登校が生活の自立を妨げている現状がみられるなか、人間同士のつながりを紡いでいくことが社会科の課題であり、同時に「希望」でもあるとの報告がありました。
 第3報告として登壇されたのは、福島県有機農業ネットワークの菅野正寿(すげのせいじ)代表です。
 
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 3月に福島県郡山市での同ネットワーク主催「福島視察・全国集会-農から復興の光が見える!」に参加したこともあり、改めて興味深く話を伺いました。
 
 「ふくしまからのアピール 有機農業が拓く持続可能な地域づくりへの道」と題した報告は、7月に宮城県気仙沼で開催された「社会イノベーター公志園」において発表されたという動画から始まりました。
 農業者大学校卒業後、有機農業に取り組んできた菅野さんは、2005年にNPO法人「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」を設立、消費者との交流、耕作放棄地の活用と特産品開発、新規就農者の受入等に取り組み、2009年には福島県有機農業ネットワークも発足し、地域循環型のふるさとづくりが軌道に乗ってきた時に原発事故が発生。
 ふくしまの豊かな里山を汚染した放射能。
 しかし、菅野さん達は絶望の瀬戸際で種をまき続け、大学との共同研究等により、粘土質と有機質の多い土壌ほど放射性物質の作物への移行が低減されること等を証明されました。つまり、有機農業による土づくりにこそ、復興への光があるのです。
 また、原発事故で改めて、「田んぼ」から飛び立つ「とんぼ」の羽根の美しさや、地域毎の旬の食生活の豊かさを教えてくれたと語る菅野代表。山林の除染など、まだまだ問題は山積していますが、元に戻すのではなく、生産者と消費者がともに新しい社会を作り上げて行きたい、と力強く決意を述べられていました。
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 続いて、福島県立田村高等学校の小田賢二先生から「教育実践からリスク社会に迫る―「正当にこわがる」資質をどう育むか ―」と題する現場からの報告。
 まず、雑草が生い茂る警戒区域内の風景や、リアルタイム線量計測システムによる「見える化」の様子をスライドで紹介されまた後、「正しく怖がることが大切」と言われるが、リスクが解明されていない以上「正解の」怖がり方というのは理論的には成立しない、それでも、過度に恐れるのでもなく無自覚になることもない「正当にこわがる」資質を育むことが課題である等の報告が行われました。
 指定討論者の浅野智彦先生(東京学芸大)からは、「個人化」に対抗するための連帯の作法を学校で教育できるか等の問題提起がなされ、会場からのメディアリテラシーをどのように育んでいくか等についての質問も受けての全体討論。
 最後に、共同司会の木村博一先生(広島大学)からは、福島から避難してきた若い女性から「子どもを産んで大丈夫か」と相談された広島で被爆された高齢の女性は「産んでみたら」とアドバイスされたというエピソードを紹介されつつ、社会科教育の課題は「共感」「客観」「俯瞰」「如何(いかに教えるか)」の4つ、との取りまとめが行われました。
 放射能問題を始め、新型インフルエンザやBSEなど、既存の科学的知見だけでは解決し得ない多くのリスクにさらされている複雑な現代社会。望ましい食のあり方や循環型の社会形成についても、合意を形成していくことは、ますます難しくなっています。そのようななか、社会学や、それを子どもたちにどのように教えて行くかという社会科教育は、ますます重要性を増していることは間違いないようです。
 今まであまり勉強してこなかった分野ですが、今後、注目していきたいと思います。
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