研究会2題-FCPと持続可能な未来-

 11月17日(土)、自宅を出る時はほとんど降っていなかったのですが、13時前にメトロ東大前駅を出た時には本格的な雨になっていました。
 この日、東京大学農学部の弥生講堂において、日本フードシステム学会秋期研究会が開催されました。
 テーマは「フード・コミュニケーションの未来」です。
 フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)とは、食品事業者、関連事業者、行政、消費者等の連携により、消費者の「食」に対する信頼の向上に取り組むプロジェクトです。
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 佐藤和憲先生(岩手大学)の司会により開会。
 斎藤修会長(千葉大学大学院)からは、今回は斬新なテーマであり、後半にはワークショップを初めて実施するので、ぜひ積極的な発言を、等の開会挨拶がありました。
 最初の報告は、中嶋康博先生(東京大大学院)から「フード・コミュニケーション:FCPから発展した新たな概念」についてです。
 これまでの成果として、食の安心に関しては「懸念の連鎖」(不信の玉突き構造)が生じる構造があること、安心と信頼のパラドックスが発見されたこと、消費者の「安心」のためには、コミュニケーションを通じた「信頼」の重要性が明らかとなったこと等の報告がありました。
 また、今後の発展方向として、新しい消費社会において情報を隠さない・囲い込まない、全ての関係者が参加する「社会技術」としての新しいコミュニケーションの可能性等について報告されました。
 
 続いて、農林水産省食料産業局・西室長から、「FCP研究会・勉強会の活動について」と題し、食品産業の将来ビジョンとの関わりの中でのFCPの位置づけ等について説明がありました。
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 また、塩谷未知先生(青森中央学院大学)からは「FCP地域ブランチにおける産学官連携」というテーマで、風評被害からシイタケ産地を守ろうという岩手県における取組についての紹介等がありました。
FS_3_convert_20121120225315.png 細野ひろみ先生(東京大学大学院)からは「企業の信頼指標構築の取組:FCP協働の着眼点を利用して」というテーマで、ウェブ調査結果により消費者が高信頼グループと低信頼グループに分類できること、POP媒体を用いた店頭における信頼向上実験等について報告がありました。
 最後は神井弘之氏(政策研究大学院大学)から「FCPにおける協働の枠組みの構造と発展可能性」について。協働の着眼点の入門マニュアル「ベーシック16」等について説明がありました。
 グローバル化の進行等により、食品が食卓に届くまでのフードチェーンが長く複雑になっている中、食の信頼を確保・回復していくためには、食に関わる各主体(ステークホルダー)の主体的な参画が不可欠です。この中には、当然、消費者も含まれます。
 協働とコミュニケーションをキーワードとしたFCPのさらなる発展が期待されます。
 後半は、新しい取組として「産学官連携による食信頼向上へ向けた新たな取組の可能性」と題したワークショップが予定されていたのですが、前半だけで中座させて頂きました。
 強い雨が降り続いています。メトロで東大前から表参道へ。さらに徒歩で國學院大学に向かいました。
 國學院大学の渋谷キャンパスでは、この日から翌18日(日)にかけ、エントロピー学会の秋の研究集会「原発事故から1年8ヶ月、持続可能な未来をどう創り出すか」が開催されています。
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 1日目は2部構成のシンポジウムです。
 16時前に会場に入ると、第1部(4種類の事故調報告を踏まえた原発事故に関する技術的問題)の最後の部分で、田中三彦先生(科学ジャーナリスト、国会事故調委員)、後藤政志先生(現代技術史研究会会員、APAST理事長)、菅井益郎先生(國學院大)、井野博満先生(東京大名誉教授)による討論が行われていました。
 間もなく休憩に入り、予定より20分遅れの16時20分から第2部の開始。まず、金子勝先生(慶応義塾大)からの講演です。
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 経済学者である金子先生は、企業会計の観点等から、原発問題は電力不足の問題でもコストの問題でもなく、電力会社の経営問題であるという認識が不可欠と主張されます。
 つまり、原発を停止すると減価償却費、メンテナンス費用等で巨額の赤字が発生し「不良債権」に化けてしまう。だからこそ、電力会社は安全性を軽視しても再稼働しようとする、とのこと。
 一方、省エネや節電は「やせ我慢」を強いることではなく、「スマート化」、地域分散型のネットワークによって、電気料金負担を抑えながら新しい輸出産業を生みだしていくもの。この産業転換のダイナミズムに、低迷する日本産業の活路がある。脱原発を進めなければ経済成長を妨げることになる、等と力強く主張されていました。
 続いて、藤堂史明先生(新潟大)からは、原発の立地地元への交付金額と事故の損害額等を紹介しつつ、エントロピー経済学の視点から、もともと原発は持続可能な経済活動ではなかったのではないか、との問題提起がありました。
ENT_4_convert_20121120225404.png 最後に、古沢広祐先生(國學院大)の司会による総合討論。
 会場からも活発な質問が出され、金子先生達が丁寧に回答されていました。
 まとめにもありましたが、現在は、持続可能な社会を構築する上での正念場にあることは間違いないようです。
 帰り際に古沢先生にご挨拶したところ、新著『共存学』(2012.3、弘文堂)と、「個人リスクと社会リスクを克服するために」(農文協ブックレット『脱原発の大義』所収、2012.5)の抜刷りコピーを頂戴しました。
 後者においては、自然支配・都市文明からの脱却と第一次産業への復権の重要性が強調されているなど、大変、参考となる資料です。有難いことです。
 会場を出ると、ますます雨は強くなり、風も出てきました。
 バスが来たので乗ろうとポケットを探ると、定期入れがありません。もう一度建物の中に戻り、鞄の中も捜しましたが、どこかで落としてしまったようです。
 暗澹とした思いで過ごした週末が開けた月曜日、國學院大學の事務から携帯に電話が入りました。
 どなたかが拾って届けて下さったようです。有難うございました。
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