「耕せば分かる」-二本松・菅野正寿さんの思い

 11月21日(水)18:30から東京麻布台において、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)のアドボカシーカフェが開催されました。
121121_1_convert_20121123021601.png SJFとは、認定NPO法人「まちぽっと」の一事業である市民団体活動への助成を目的にした市民ファンドであり、その活動の一環として、様々な社会課題とその解決策を議論し提案に繋げていくための「アドボカシーカフェ」を、年数回、開催しているそうです。
 この日のテーマは「有機農業の力と市民の力で新しい共生を考える」。
 登壇されるのは、福島県有機農業ネットワーク理事長の菅野正寿(すげのせいじ)さんと、SJF 副運営委員長でCSO ネットワーク常務理事・事務局長の黒田かをりさんです。
 菅野さんのお話は、3月の福島県有機農業ネットワーク主催「福島視察・全国集会-農から復興の光が見える!」の際と、9月の東京学芸大学(小金井市)における日本社会科教育学会大会の場でお聞きしていましたが、その後の現地の状況等について改めて詳しくお伺いしたいと思ったのです。
 30名ほどの参加者が、5名ずつ位に分かれてテーブルに着席。
 菅野さんからの講演から始まりました。
 福島県の二本松市(旧東和町)、阿武隈山地のなかで家族を中心に農業を営んでこられた菅野さん。ある夏の日の朝、田んぼから多くのトンボが飛びたつのをみて、地域の環境や景観を守る農業の大切さと、人間も自然の一部であることに気づき、循環型の農業に取り組まれるようになられたそうです。
 そして、仲間と協力してNPO法人を立ち上げ、「桑薬」等の加工・販売、道の駅の受託管理等による地域作りが軌道に乗りかけたところに、原発事故が起こったのでした。
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 そして1年8か月が過ぎた現在も、避難者17万人という異常な事態が続く福島では、進まない除染、損害賠償により地域が分断されつつあるそうです。
 さらに、行政による一方的な作付け制限は、農家のやりがい、生きがいを奪うものであり、その結果として廃業する農家や耕作放棄地が増加しているといった厳しい批判もありました。
 その一方で、表土を剥いで除染するのではなく、農の営み、土づくりによって放射性物質を土壌に固定させる方法の有効性が証明されつつあるとのこと。独自検査でも玄米や野菜はほとんどが不検出だそうです。
 茨城大学の中島紀一名誉教授は、「福島の奇跡」と称されているとのこと。
 ただ、果樹やきのこは、現在も出荷制限がかけられているそうです。
 まずはきめ細かな実態調査を行って、目に見えない放射能を「見える化」することが必要。これは農家だけでは無理で、行政、研究機関等が総力を挙げて行うべき、と訴えられます。
 そして、再生産可能な農林漁業こそが持続可能な社会をつくること、経済成長から脱却して、いのちを育む「人間復興の経済」への転換を強く訴えられました。
121121_3_convert_20121123021647.png その後、参加者が5名程度のグループに分かれ、話し合って菅野さんに対する質問を一つにまとめました。そして代表者が順番に発表(質問)、それを受けて菅野さんが回答されました。以下は主なやりとりです。
(質問:これからの地域づくりの課題について)
 地域づくりそのものが問われている。広域合併によって役場職員と住民とのつながりが希薄になっている。農業も地域も協働でしか成り立たず、対策も地域の人と一緒に立てていくべき。
 また、農業は子どもから高齢者まで働くことができる。避難者もほとんどは高齢農家。このような高齢の方も含め、雇用の場を農村地域で生みだしていくことが必要。
(質問:農家自身の被ばくについて)
 それが一番心配な問題。最近就農した私の娘が、昨日もホールボディーカウンターでの検査を受けて問題ないと言われたが、低線量被ばく等については科学的に解明されておらず不安がある。
(質問:消費者として、現地の方とどのように繋がっていけばよいか)
 色々と支援があった昨年より今年の方が厳しく、売上げは落ちている。産直をしていた消費者の多くが離れていったが、食べものや農業の問題を「安全、安心」だけに矮小化してほしくない。
 ともにリスク軽減のための取組を進めていければと思う。そのためにも、少しでも多くの方に現地の実情を見に来てもらいたい。
 第3部は、黒田かをりさんとの対談形式による総括的な議論です。
(黒田さん:首都圏における新たな動きや取組について紹介を)
 以前からの縁もあって、荒川区は毎週水曜日に区役所で直売を行ってくれている。
 また、東京圏での新しいアンテナショップの立ち上げを計画している。単に販売するだけではなく、情報発信の拠点として、また、首都圏に避難している人たちが集える場ともしたい。
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(黒田さん:都市住民の中でも農業に対する関心が高まり、市民農園等が盛んになっていることについて)
 最近、仲間内で合い言葉がある。それは『耕せば分かる』。
 スーパーに並んだ人参を見ただけでは、農家の顔までは想像できない。さらに農業は、生き物を育み、美しい環境や景観も守っている。それでご飯が茶碗1杯で35円なら全然高くない。想像力を働かせてもらいたい。
 そのために、東京の人も、ぜひ現地に来て頂きたい。
 以上は、菅野さんのお話の10分の1も伝えられていないと思います。
 しかし、未曾有の深刻な状況の中で、時に腸が煮えくりかえるような思いもされているはずであるにも関わらず、穏やかに、時にはユーモアさえ交えつつ話される菅野さんのたくましい姿に、逆に励まされるような気がしました。
 私たち都会の消費者は、これまで電力も食料も一方的に消費するばかりでした。
 その私たちに、菅野さんは恨みごと一つ言われることなく、新しい前向きの関係を創っていこうと訴えられたのです。農業生産の現場に対する想像力を働かせて下さい、自ら耕せば分かる、と。
 しっかりと腹に納めておく必要がある言葉です。
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