「本当の価値」とは-有機野菜生産者・久松達央氏

各地の鮮やかな紅葉がニュースになっていますが、昼休み時の日比谷公園でも、多くの人がカメラを構えています。石蕗(ツワブキ)も満開です。
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日比谷図書文化館2F 奥のコーナーでは、「江戸っ子と「食」」の特別展示が始まりました。
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hibiya_2_2_convert_20121129231946.png 関連する文献のほか、大竹道茂さんのブログ「江戸東京野菜通信」の紹介、先日の朝日新聞の江戸東京野菜に関する記事のスクラップも展示されています。
「落語と「食」」というコーナーもあります。
2月頃まで展示は続くそうですので、何度か訪ねてみようと思っています。
さて、11月28日(水)19時からは、東京・竹橋のちよだプラットフォームスクウェアにおいて「農業ビジネス研究会」が開催されました。
主催は、戦略経営研究会グループの農業情報総合研究所です。
戦略経営研究会(戦略研)とは、現在の閉塞状況を克服するための企業及び国家の「戦略」について、様々な観点から議論及び活動を行うビジネスパーソンによる研究会。560名が登録されているそうです。
農業情報総合研究所は戦略研の一分科会で、FMラジオによる消費者への情報発信や研究会開催等を行っています。
この日は約30名が参加、農業関係者は少なく、公認会計士、会社経営者、IT関係や映像・出版関係、大学生など多彩な方たち。
農業情報総合研究所のU理事長の進行により、戦略研のMさん(行政書士・司法書士)の挨拶に続いて研究会がスタートしました。

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この日の講師は、茨城県土浦市の野菜農家、久松達央(ひさまつたつおう)さん
昨年6月の「食生活ジャーナリストの会」主催の勉強会で、「生産者の立場から考える放射能汚染」というテーマで話を伺って以来です。
この日のテーマは「有機野菜の生産・販売の強みとマーケティング~久松農園の具体的事例から~」。
作り込まれたアニメーションつきのスライドを使いながら、大きな身振りで話される久松さんの話はエキサイティングで面白く、何度も目からウロコが落ちる思いがしました。
1970年生まれの久松さんは、有名私学の経済学部を卒業後、大手繊維メーカーに就職。田舎暮らし志向だったこともあり、親の大反対を押し切って4年半で退職し、茨城県の農業法人で1年間の研修後、99年に独立して新治村(現土浦市)で農業を始められたそうです。
独立する時には「一人でやる」と決めたため、奥様は現在も農業に従事されておらず、したがって農家(ファミリービジネス)ではない。3年間は赤字だったが、現在は社員2人とパートを雇用されているとのこと。
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経営内容は、約3haの農地で年間約50種類の露地野菜を有機栽培。全量が直販(宅配個人客70%、飲食店等30%)で、加工にも取り組んでおられます。
久松さんにとっての有機野菜とは、「安全な」野菜ではなく「美味しい」野菜。
滋味のある(しみじみと美味しい)野菜づくりのためには、土づくりと健康な生育が不可欠であり、そのための手段の一つが有機栽培という位置づけです。
また、適した時期に適した品種を、鮮度よく届けることができることから、直販という形態を選択されたとのこと。「大きな家庭菜園」で多品種を栽培、配達し、「畑を丸ごと食べてもらう」のがコンセプト。
さらに、土づくりから販売まで、最後まで責任を持つことができるのも直販のメリットであり、一般流通のように、規格に縛られることも安売りの土俵に乗せられることもなく、無駄も少ないそうです。
講演の最後、まだモヤモヤしていて固まった考えではないけれども、と久松さんが話し始めました。
「本当の価値は機能性(美味しさ等)の外にあるのではないか」と。
「これどうよ!」と自慢できるものをきちんと作り、食べた人は「これ美味くない?」と深く満足して、回りにも勧めてくれる。それで経済的にも成り立つ。
このようなモデルに、農業が進むべき道のヒント、経済合理性から抜け出せる可能性があるのではないか、とのことです。
質疑応答では、会場から次々と手が挙がりました。それらに対する久松さんの回答。
hisamatu_3_convert_20121129232142.png 美味しい野菜を作る生産者は全国に何千といる。そのようになかで、久松農園の野菜ならと信頼し買ってくれるファン(共感してくれるお客様)を地道に増やしていくしかない。そのためには自分自身が目立つことも必要。
農業はマーケティング等の面でまだまだ甘いと思う。細かい話だが、名刺のデザインも、新しく雇用した若い女性からダサいと言われて作り直した。このようなものに金をかけている。
(注:写真の左は昨年9月に、右はこの日に頂いた名刺です。)
23時頃まで続いた懇親会にも最後までつき合って下さり、さらに色々と話を伺うことができました。
前向きで、聞いている方が勇気づけられるような内容ばかりでしたが、昨年の原発事故直後は、いわゆる風評被害で3割も売上げが減り、本気で廃業を考えたそうです。
以上、スペースと筆力に限りがあり、久松さんの話のごく一部しか紹介できませんでした。そのパワーと、ちょっととんがった人柄も、とても表現し切れていません。
機会がありましたら、ぜひ、直接お話しを伺ってみて下さい。
あるいは、先日の講演会で二本松の菅野さんが強調されていたように、現場を訪ねて行くことも大事かもしれません。
(ご参考)
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