日本農業経済学会大会(東京農業大学)

 2013年3月29日(金)は好天。気温も上昇。
 この日から翌日にかけ、日本農業経済学会の2013年度大会が東京・世田谷の東京農業大学で開催されました。
 キャンパス内も周辺も、桜が満開です。
 開花は記録的に早かったものの、寒気が戻ったせいか、年度末になっても引き続き見頃です。
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 初日の会場は、百周年記念講堂という大きなホールです。
 東京農業大・友田清彦先生からの開催校挨拶に続き、 新山陽子先生(京都大)からの会長講演。
 フル論文数、投稿数ともに減少していること等の学会が直面している課題と、議論や研究成果を政策や社会的な意見形成につなぐ方策の検討の必要性等について指摘されました。
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 続く全体シンポジウムのテーマは「農業経済学の分析力-農業経済学は市場をどう捉えてきたか-」。
 今年度は時事問題ではなく、市場の実証分析について成果と限界を整理しようという内容が取り上げられました。
 座長は、福田晋先生(九州大・院)と近藤巧(北海道大・院)先生です。
 最初の報告は、有本寛先生(一橋大)から「農地集積と農地市場」として、農地の流動化と団地化・集団化という農地集積問題に焦点を当て、事例研究的なアプローチと計量経済学的なアプローチのコラボレーションの有益性等について報告がありました。
 続いて、森高正博先生(九州大・院)から「実需者市場としての農産物市場-農業と食品産業の関係性-」と題し、取引主体の大型化、垂直的調整の進展、情報の不完備という不完全競争にかかわる分析枠組みの必要性等について指摘がなされました。
 さらに、斎藤勝宏先生(東京大・院)から「通商規律と市場機能-農産物国際市場の変容-」として、現行の国際規律は完全競争市場を前提としたものであり、外部経済の存在や国内保護政策をモデルに取り民で行くことの必要性等について報告がありました。
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 午前中は以上の報告で終了。
 午後からは、共同討論者及びフロアとの間で議論が深められる予定でしたが、生憎とこの日の午後は用務が入り、私は午前中だけの参加となりました。
 翌2日目は、一転してどんよりとした天候。気温も大きく下がりました。
 今年は気温の変動が激しいようです。
 午前中は個別口頭報告。
 お世話になった先生の報告等、いくつかをお聞きすることができました。
 自分も「フード・マイレージ指標の活用可能性に関する考察」と題して報告させて頂き、内容については限界感を覚えつつも、座長の廣政幸生先生(明治大)、フロアの複数の方から有益なコメント・アドバイスを頂戴することができました。
 昼食後、さらに個別報告を1件聞かせて頂いた後は、ミニシンポジウム「食品の放射能汚染の実態と流通業者・消費者の対応」を傍聴。
 座長には平尾正之先生(東京農業大)と清水みゆき先生(日本大)。
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 最初の報告は菊地昌弥先生(東京農業大)から「卸売市場動向からみた福島県農産物の被害状況」と題し、2011年から2012年にかけて多くの主要野菜の市況が悪化(被害が深化)している状況等について報告がなされました。
 続いて、大木茂先生(麻布大)から「流通業者による食品の放射性物質問題への対応」として、業種や業態等によって様々な対応が取られており、とりわけこれまで生産者と消費者の提携を掲げてきた生協は事態を深刻に受け止めている状況等について報告がありました。
 さらに、氏家清和先生(筑被大・院)から「農産物の放射性物質汚染に対する消費者評価の推移」として、事故後2年が経過しても消費者の忌避感はなくなっていないが、これは健康リスクを評価した上で買い控えるという一種の合理性があること(全てを根拠のない風評と捉えることは適当ではないこと)等を明らかにされました。
 最後に、半杭真一先生(福島県農業短期大学校)から「食品の放射性物質汚染に関する情報提供と消費者の対応」と題し、インタビュー調査とインターネット調査の結果から、リスクコミュニケーションによって不安が低下することが明らかとなったこと等についての報告がありました。
 後半は、リスクコミュニケーションのあり方等についてフロアとの間で討論。
 食品の放射能汚染の問題は、多くの参加者にとって最も関心の高いテーマであり、対立する意見や評価も表明されるなど、活発な議論がなされました。食品や農地の広範な放射能汚染という未曽有の事態は、学会においてもまだまだ整理しきれない状況が続いていることが実感されました。
 ところで東京農業大学には、「『食と農』の博物館」が設置されています。
 卒業生による全国の蔵元の日本酒の展示等は圧巻です。また、農具や剥製の生き物の展示、温室など、子どもも楽しめる体験型の博物館です。
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 1日目の昼休みに立ち寄ってみました。
 今回の大会に併せて「農業経済学の先駆者・横井時敬の生涯と業績」と題する特別展示が開催されています(4月26日(金)まで)。
 横井時敬(ときよし、1860-1927)は熊本の出身、熊本洋学校を経て駒場農学校を卒業、後に東京農業大学の初代学長を務めました。
 パネルや書籍の展示の奥に、吹き抜けの天井から大きな旗が吊るされています。
 これは時敬が没した時、足尾鉱毒事件の被害民が恩人に捧げ奉った「弔旗」とのこと。足尾鉱毒事件と言えば田中正造が著名ですが、新聞論説等で警鐘を鳴らした時敬の貢献も、大きかったそうです。
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 横井時敬は「稲のことは稲に聞け、農業のことは農民に聞け」「農学栄えて農業滅ぶ」という名言を残しました。
 現場から学び、学問のための学問を排した実学主義を表した言葉です。
 今日、改めて心に銘記すべき言葉です。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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