オーガニックカフェで聞く福島のはなし

 2013年6月29日(土)は好天に恵まれました。いよいよ夏が本格化する気配です。
 この日14時から、下北沢で「オーガニックカフェで聞く福島のはなし」というイベントが開催されました。
130629_8_convert_20130702071852.png 主催はNPO法人「コミュニティスクール・まちデザイン(CSまちデザイン)」。
 「食農共育(しょくのうともいく)」をコンセプトに、総合的な学習の時間のプロデュースと講師派遣、研修・セミナーによる人材育成、クッキングスタジオ等の幅広い活動をされている団体です。
 理事長の近藤惠津子さん(食育プロデューサー)は、フード・マイレージを素材にした市民講座も担当されており、2009年の「伝統野菜サミット」(北陸農政局主催)の際には金沢まで基調講演に来て頂きました。
 この日の会場は「ふくしまオルガン堂」です。
 ここは、有機農産物や特産加工品の直売所とカフェを兼ね、同時に福島と東京を結ぶ交流・体験の窓口、さらには東京に避難している方達の集う広場として、NPO法人福島県有機農業ネットワークが今年3月に開設したところです。
 「オルガン堂」という名称には、オーガニック(有機)と、対話・交流のハーモニーを奏でるという意味がこめられているとのこと。
 ようやく初めて訪ねることができました。
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 小田急線の下北沢駅から徒歩12分ほど。
 普通の人たちの日々の食事に福島産の農産物を使ってもらいたいと、あえて繁華街ではなく住宅街の中に店舗を構えたそうです。
 店頭には「野菜の日」と記した幟が立てられていました。毎週水、土曜日は、福島から新鮮な野菜等が届く日だそうです。
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 入ると右側は直売コーナー。
 野菜や米などの農産物(すべて放射線検査結果が記されています。)のほか、特産の加工品などが並べられています。
 左側には食事ができるテーブルが3卓。奥にはカウンターもあります。
 そして壁には、福島の現状を伝えるポスターや写真のパネル。パンフレット等も多数置かれています。
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 せっかくなので早めに伺い、評判の「ふくしま定食」(日替わりの郷土料理)を頂くことにしました。
 この日のメニューは、ゴロゴロ野菜とにしんの煮物、新鮮サラダ(人参ニンジンドレッシング)、切干大根炒め、福島の漬物、具だくさんの味噌汁と、野菜が中心です。
 珍しかったのは生きくらげ(わさび醤油で頂きます。)。デザートに佐藤錦も添えられています。ご飯はお代わり自由。これで800円とは、お得です。
 なお、数は限定ですので、行かれる方は予約した方がいいかも知れません。
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 14時、イベントが始まる頃には、さほど広くない店内は30名ほどの参加者で一杯に。補助椅子を並べ、ようやく全員が座ることができました。
 近藤惠津子理事長の司会・コーディネートにより開会
130629_5_convert_20130702010730.png 講師の一人目は、福島県有機農業ネットワーク理事長の菅野正寿(すげのせいじ)さん。
 阿武隈山地の山間(やまあい)にある二本松市・東和地区で農業を営んでおられます。2.5haの農地は40枚に分かれているとのこと。
 2005年にNPO法人「ゆうきの里東和 ふるさとづくり協議会」を設立し、資源循環型の農業と地域づくりが軌道に乗り始めた時に原発事故に見舞われました。
 「大きな揺れとその後の降雪、3500人もの避難者の受け入れ、野菜等の出荷制限により他の地区で自殺者が出るなど、未曾有の混乱状態に。
 それでも作付けができることとなり、仲間と顔を合わせた時には、ほっとした。」
 そして、研究者と農家が一緒になって綿密な実態調査をするなかで、耕された農地では土壌がセシウムを固着させ農作物への移行が抑制されているというメカニズム(「福島の奇跡」)が明らかになっていること等を紹介して下さいました。
 もう一人の講師は、出版社・コモンズ代表でジャーナリストの大江正章(おおえただあき)さん。
 「問われているのは消費者。原発事故が起こり、年配者を含めて「提携」に熱心だった人ほど「さっさと」離れていった。有機生産者は少なくとも3割の消費者を失い、今も回復していない。
 子どもを持つ若いお母さん達の気持ちはよく分かるが、結局、消費者は、自分たちの安全のことしか考えてこなかったのではないか。この一番厳しい時こそ、提携で生産者を支えるべきではないか。」
 近藤さん。
 「正に消費者も問われているということですね。気づいている人間が諦めてしまっては終わり。私たちは何をしていけばいいか。」
 菅野さんの口調は穏やかで抑制されたものながら、発言からは怒りが伝わってきます。
 「原発で死者は一人も出ていない、あるいは再稼働させようという政治家の言動には怒りを覚える。
 東京に来るたびに違和感がある。オリンピック等で騒いでいる場合ではないだろう。
 東京の人ほど、なぜ原発事故が起こったかという根本的な問題について向き合って欲しい。そして一緒に語り合い、学んでいきたい。私たちも、もっともっと伝えていかなければならない。」
130629_7_convert_20130702010822.png 「福島産の農産物は食べないというお母さん達の選択は理解できる。しかし、一方で「耕す権利」も認めて欲しい。
 世田谷にも600人、東京全体では7000人の福島県からの避難者がいる。避難してきている人が一番辛い。楢葉町出身のある女性は、ここに来て泣きながら食事していた。今までずっと一人で食事してきたそうだ。」
 「宮城や南相馬では、大規模・大型開発による復興を目指している。そうではなく、住民やコミュニティが主体となった復興が必要ではないか。
 たった1杯35円のご飯だが、生き物や景観まで育てている。農業の現場、生産者の顔の見えるところまで足を運んで欲しい。」
 自らも茨城で仲間とともに米作りをしているという大江さんからは、
 「マスメディアでは、いびつな情報しか伝わらない。福島の真実について集まって話を聞く、あるいは足を運ぶことが必要。消費者も少しでも耕す、育てるようことを暮らしの中に取り入れるようにすれば、生産者の気持ちが分かるようになる。」
 「長い歴史の中でみると、ここ50年の高度経済成長の時代が異常だった。本来の地域や暮らしのあり方を考え、その延長線上に復興がある。小規模分散、脱成長が基本」との話。
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 途中、米粉や桑パウダーを使ったケーキと、福島市・菱沼農園のジュースも出して頂きました。美味です。
 最後には会場の参加者との熱心な質疑応答があり、16時の閉会後も多くの方たちが残られ、あちらこちらで立ち話が続きます。
 一段落して、ようやく菅野さん、大江さんもテーブルにつくことができました。菅野さんは昼食抜きだったとのこと。
 引き続き残っておられた数名の方たちとともに、お昼の定食にも出して頂いた郷土料理と、猪苗代ビールと大和川酒造(喜多方)の純米酒を頂きました。
 夜も5人以上なら予約でき、郷土料理や地酒が頂けるそうです。
 「ふくしまオルガン堂」では、随時、イベント等が行われています。農産物や特産の加工品を求めることもでき、食事もお酒も美味です。
 貴重な場所です。ぜひ、多くの方に足を運んで頂きたいと思います。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 ◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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