福島・広野町に咲いたコットンの花

2013年8月24日(土)。
 前日は雨模様で心配したのですが、第3回「JKSKボランティアバスツアー」が無事に実施されました。
 NPO法人女子教育奨励会(JKSK)が主催し、福島・いわき市周辺でオーガニックコットンの栽培をお手伝いするツアーの3回目です。

 早朝の新宿駅西口は、夏休み最後の土曜日のせいか各地に向かう人たちですごい混雑です。世界遺産に登録された富士山に向かうツアーもありました。
 定刻7時に私たちのバスは出発。行き先は福島です。

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JKSK理事の大和田順子さんからご挨拶。
 事務局の方から行程などの説明に続き、参加者から一人ずつ自己紹介。今回も20名ほど、学生さんやファッション関係の方など若い方が比較的多いです。

 渋滞もなく順調です。
 途中、休憩した友部サービスエリアの表示板には、常磐道の広野から先は通行止めとの表示。これは震災以降、変わっていません。

 福島県に入る頃から、車窓には美しい田園風景が広がります。
10時30分過ぎに広野インターを降りると、目の前には、今や原発事故の対応拠点となっているJビレッジに向かう看板。
 国道沿いには、除染作業をされている人の姿もありました。

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ほどなく、オーガニックコットンの栽培地に到着。
 前回は生憎の雨にたたられましたが、この日は「幸い」好天に恵まれました。パスを降りると、残暑の日差しはじりじりと強く、気温も30度を超えているようです。

 振り向くと広大な資材置き場。津波で被災した水田の跡地で、県が買い上げて消波ブロック等の製造・保管場所になっています。
 その向こうの煙突はフル稼働中の東電・広野火力発電所。原発が止まっても、福島県は首都圏への電力供給基地であることに変わりはありません。

 「いわきおてんとSUNプロジェクト」代表の吉田恵美子さん、同理事でコミュニティ電力担当の島村守彦さんとスタッフの若い女性、それに栽培を指導して下さっている松本公一さんが出迎えて下さいました。
 楢葉町で冬期湛水稲作(白鳥が飛来していたそうです。)に取り組んでおられた松本さん、現在はいわき市の仮設住まいです(バケツで稲を栽培されているそうです)。
 コットン栽培は、松本さんの技術指導無くしては実現しなかったそうです。

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徒歩でコットン畑へ。驚きました。
 5月に植えた2枚葉が出たばかり。6月に補植と草取りに来た時も、葉はまだ数枚で頼りなかったコットンが、たくましく、大人の腰から胸くらいまで成長していたのです。
 私達はたまに来て2時間ほど作業をするだけですが、その合間に、吉田さんや松本さん達が手入れをして下さった賜物です。

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最初に松本さんから、この日の作業内容(除草と摘芯)について説明がありました。
 除草は簡単ですが、摘芯は難しそうです。効率よく実が付くように茎の先端を摘むのですが、松本さんが実地で指導して下さるものの、当然ながら株ごとに姿は異なります。
 みんな戸惑いつつも、それぞれ作業に取り掛かりました。

 ところどころにコットンの黄色い花が割いています。
 はっとするほどの、清楚で鮮やかな黄色い花です。初めて見ました。

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 雑草はコットン以上に成長しています。
 途中、何度か除草をして下さっているそうですが、ジャングル「大抵にせーよ」状態です。
 作業に集中し、次第にみんな無口になります。
 ただ、「幸い」雲が出てきて陽射しが遮られたので、吹く風が気持ちよく感じられるようになりました。たくさんの赤とんぼが畑の上を舞っています。
 確実に季節が移りつつあることが実感されます。

 熱中症予防のため、時計をみて確実に30分ごとに休憩が入りました。
 ところが「みなさーん、休憩でーす」と大きな声をかける吉田さん自身が、みんなが日除けのテントに向かってもなかなか手を休めません。見かねた松本さんが「一休みした方が効率が上がるから」と声をかけます。

 畑のすぐ近くにはJR常磐線が通っています。
 通過する4両編成の電車は広野駅までの折り返し。そこから北は、現在も不通のままです。
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 2時間ほどで作業は終了です。
 人海戦術でかなり雑草は片付いて、畝の間の地面が見えるようになりました。暑い中、これ位が限度ということでしたが、線路の向こうと対岸の畑までは手が回りませんでした。

 バスに戻り、いわき市方面に向かいます。
 吉田さんが同乗して下さり、避難者と住民との間であつれきが生じていることなど、色々と現地の状況を説明して下さいました。
 また、テレビのニュースも福島と他県では内容が全然違う、東京等では震災関連のニュースが少ない、とも仰っていました。

 先ほどのコットン畑を貸して下さっていた農家の方(資材置き場になっている水田の持ち主でもありました。)は、先日、亡くなられたとのこと。
 仮設住宅に避難されていましたが、お元気な頃はコットン畑に耕耘機を運んできて一緒に作業されていたそうです。ご高齢で病気だったそうですが、今年収穫したコットンをお見せしたかったと、吉田さんの声が震えました。

 いわき市久ノ浜地区を通過します。

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 津波被害の大きかった地区で、コンクリートの土台だけが、ここに多くの住宅があったという事実を伝えています。
 津波の後に火災も起こり、停電が続いて真っ暗だった地区に、島村さんが太陽光パネルで発電する街灯を設置されたそうです。震災後、地区を照らした最初の灯だったそうです。

 海岸沿いを四倉漁港へ。「道の駅よつくら港」で昼食です。
 再建されたばかりの建物は清潔で綺麗で、港も全体に復興が進んでいます。ただ、一画に積み重ねられている被災・廃棄された漁船が、大きな災害があったことを伝えています。
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 道の駅の1階は直売スペースになっていて、旬の地場産の野菜や加工品が並べられ、多くの人たちで賑わっていました。
 桃が8~11個入って1箱850円も魅力的でしたが、この日は地酒と海苔ウニ等を買い求めました。ただし、地元メーカーの水産加工品も、地場の原料は使われていません。

 2階は天井が高く明るい飲食スペース。テラス席もあり、ここも大勢の人たちで賑わっています。
 あえて名物の「海鮮丼」を頂きました。丼から溢れるように盛られている刺身等も、残念ながら地場産ではありません。窓から外を見ると、すぐ目の前は海なのです。汚染水漏れで試験操業も取りやめになってしまいました。
 豪華で美味しい海鮮丼だけに、無念さが余計に募る思いがしました。
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バスに戻って薄磯地区へ。
 ここも津波で多くの犠牲者を出した地区で、今は子どもがいない小学校の校庭はがれき置き場になっています。住宅の基礎だったコンクリートには、ボランティアや遺族の方による花の絵が描かれています。

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 かつて海水浴場として賑わっていた砂浜は、私たち以外に人影はありません。
 この地区は高台移転することが決まっており、海岸沿いに「防災緑地」を建設する計画になっているそうです。
 枠組みだけの模型が設置されていましたが、その巨大さに驚かされます。防災のためとはいえ、この地区の景観は大きく変わってしまうことになります。

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塩屋崎灯台の麓まで行き、美空ひばりの歌碑(津波被害後も歌が流れたという奇跡の碑だそうです。)を車窓からみて、いわき湯本温泉に向かいました。
 いつもの古滝屋さん(社長さんは「いわきおてんとSUNプロジェクト」の理事でもあります。)で温泉に入浴。何度来ても、本当に温かい、いいお湯です。

 その後は、ロビーでワークショップ。
 「震災の風化を防ぐ」をテーマに、まず、8人ずつ3グループに分かれてアイディアをカードに書き出し、模造紙に貼り付けていきます。

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東京にメモリアル施設を作る、3月11日を記念日として毎年シンポジウムを開催する、バレンタインにコットン製品を送ることを習慣にする、被災地への教育・研修旅行を盛んにする等、様々なアイディアが出されました。

 その後、自分達ができること、しようと思うことについて、一人1分ずつで発表。家族や友人に伝える、SNSで発信する、グループを作って具体的なボランティア活動を始める、等々。
 私は、この日求めたTシャツ(3着目です。)をとにかく着て、人に見せまくることを約束しました。

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最後に、コーディネータの大和田さんは「このプロジェクトを共生型社会の先進モデルとして位置づけていきたい」とまとめられ、吉田さんは「いわきの未来を創っていく活動に、これからも外部の皆様の支援をお願いしたい」と挨拶されました。

 議論の中では、風化するのは仕方がないとの意見があった一方、地元の方からは、風化どころか現在進行形だ、との言葉もありました。
 確かに、原発災害による被災と避難等に伴う地域でのあつれき等は現在進行形です。さらに汚染水漏れなど、新たな問題が出てきているのです。

130824_14_convert_20130826230655.png このような状況の中で、オーガニックコットンなど「いわきおてんとSUNプロジェクト」は奮闘しています。

 オーガニックコットンのTシャツはいささか高価ですが、通信販売もあり、独自のマークやロゴを入れたオリジナルTシャツも作れるそうです。
手ぬぐいやハンカチなど、より求めやすい製品への加工も検討されているとのこと。
 淡く茶色かがった生成り(きなり)色で、手触りや着心地はあくまで柔らかく優しいオーガニックコットンのTシャツ。

 ここにも、福島の未来のための新しい産業や仕事が生まれています。