ドキュメンタリ映画 『紫』-千年の色-

 2013年11月30日(土)も冬晴れでした。
 前夜のグリーンスマイルのパーティーでは、そんなに飲み過ぎたつもりは無かったのですが、昼まで布団から出られませんでした。加齢という紛れない現実に一抹の哀しさ。
 昼もあまり食欲のないまま、外出。
 毎日通過している西武新宿線・沼袋駅ですが、下りたのは初めてかも知れません。
 下町風の商店街を北に進むと、すぐに「シルクラブ」の看板が。赤い鳥居をくぐったところに、その建物はありました。
 老舗呉服店が「お誂えのための空間」として建築された和風かつモダンな建物です。
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 ここで14時から、ここでドキュメンタリ映画『紫』の上映会が開催されました。
 50名は入れる地下の立派な映写室は、ほぼ満席です。
 主催者の高月美樹さん(和暦研究家。『和暦日々是好日』は、私も毎年愛用しています。)の簡単な挨拶に続き、早速、上映が始まりました。
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 この映画の主役は、日本古来の天然の「色」。
 紫草、紅花、山梔子(くちなし)、藍などの植物から得られる色です。
 そして、その古来の色の復活に尽力を続けてこられたのが、京都の「染司(そめつかさ)よしおか」五代目当主の吉岡幸雄(よしおかさちお)さんです。
 冒頭、一番好きな色はと聞かれ、即座に「紫。一番苦労するから」と答えられたのが、映画のタイトルになっています。
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 映画は、奈良・薬師寺における伎楽装束の再現、東大寺の修二会(お水取り)のための紅花染和紙の製作と献上、大英博物館など海外における講演活動等の様子が描かれていきます。
 いずれも、鮮やかな色、色。
 そして、「人のやらない難儀なことに挑戦するのは、むちゃくちゃ面白い」と言う寡黙な染め職人の方、染料になる植物を「誰も作らなくて困っているんなら作りましょうか、と引き受けた」と言う農家の方達も登場。
 しかし、農家の方は「最近の気候変動で植物が育ちにくくなっている」、職人の方は「昔の染料に比べて質が劣化している」と指摘されます。
 
 そして吉岡さんの「人間は自然のほんの一部、地球の中の一員にすぎない。自然に対しもっと謙虚でないとあかん」という言葉が、深く印象に残りました。
 京都、伊賀上野、大分、山形等の四季の風景も目に染みるような美しさです。
 竹林が風に吹かれ光の陰影が交錯するシーンは、息を飲みました。
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 上映終了後、吉岡さんと川瀬美香監督が登場してトークショーが行われました(何と贅沢な上映会)。
 1946年生まれという吉岡さん、若い頃は家業を継ぐのが嫌で上京し、早稲田大に在学中はこの沿線に下宿していて懐かしい、しかし当時の東京の公害の酷さには驚いた、とおっしゃっておられました。
 大学卒業後は美術図書の編集や展覧会の企画、監修に携わっておられましたが、後を継ぐ者がいなかったので、41歳の時に五代目当主を継がれたとのことです。
 「昔の人に挑戦している。現在は科学が発達しているといっても同じものができない。自然にも、昔の人にもかなわない。東大寺の修二会が1200年以上続いているのに比べれば、自分の仕事は大したことはない」等と話されていました。
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 終了後、1階の広間に上がると、映画の中で紹介されていた染料となる植物や反物、修二会の造り花等が展示されているなか、行列をなす人たちに気さくに一人ひとりサインをされている吉岡さんの姿が印象的でした。
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 なお、12月3日(火)から18日(水)の間、神田駿河台の「ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)」で、『吉岡幸男「全仕事」展』が開催中です。
 7日(土)には吉岡さんと川瀬監督のトークショーも予定されているとのことです。
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 私も初日の夕方に足を運んでみました。
 JR・メトロお茶ノ水駅から徒歩5分ほど、地下1階にある瀟洒なギャラリーです。
 吉岡さんの様々な作品や著作のほか、貴重な古布や染め物に関わる古書等も展示されていました。
131131_8_convert_20131203233721.png 昼間は吉岡先生も見えられていたそうですが、残念ながらお会いすることはかなわず。
 サイン入りの著作を1冊、求めさせて頂きました。
 その中での吉岡先生は、
 「日本など先進地域では衣食住という人間生活の根本が軽んじられ、うわべばかりのことに浮かれている。衣食住の根本も自然に訊ねなければならない。本来の「和」を尊ぶようにしたい」
 等と述べられています。
 化学染料では決して出せない色。
 この国の風土と環境が育んだ植物から、生産者や職人の手を経て、初めて表現されうる色。
 食べものもそうですが、「色」も自然(植物の花や実、樹皮、根)から恵んで頂くものであることが、この映画を見て実感できた気がしました。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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