ひご野菜見学会(1)

 2013年12月23日(月)午前は、ひご野菜ブランド協議会の役員の方たちによる見学会に同行させて頂きました。
 この協議会は本年7月、ひご野菜の継承・普及等を目的に民間主導で発足。生産者・生産者団体、市場関係、百貨店、知財関係の専門家の方たちが構成員となっています。
 まず、熊本市の北東隣にある菊陽町(きくようまち)へ。
 曇り空に煙る雄大な阿蘇の山容が望める畑で待っていて下さったのは、野菜農家の矢野敏也さんです。
 ここで、最初に見学させて頂くひご野菜は「芋の芽」(いものめ)。
 サトイモの仲間である「赤芽ミヤコイモ」の茎を、籾殻の中で軟化栽培するという珍しい野菜です。
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 畑には、深さ・幅それぞれ1メートルほどの大きな溝が掘られています。
 この底部に親イモが植え付けられ、上から大量の籾殻を被せて埋めてあります。籾殻は山になって盛り上がっており、ところどころから芋の芽の先端が覗いています。
 今頃から来年5月頃までが収穫時期とのこと。
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 胴まであるゴム長をつけた矢野さんが溝の端に降り、両手で籾殻をかき分けていくと、淡いピンク色をした芋の芽が姿を現しました。
 長さは30cmほどもあるのを、大きなナイフで根本からざくざくと切って収穫していきます。
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 よく見ると溝の下の方からは湯気が出ており、手を近づけてみると暖かく感じます。
 発芽する時に発生する熱を籾殻の中に閉じ込めることで、冬季でも自然に加温栽培されているのです。ビニールハウスやボイラーなど人工的な施設は使われていません。
 ただし、適温(25~28 ℃)に保たないと色や味が悪くなるとのことで、差し込まれた温度計でチェックしつつ、籾殻の量で温度調節しているそうです。
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 外観はほんのり桜色で、独特の食感(軽く茹でるとシャキシャキ、煮込むとトロトロ)が楽しめる芋の芽、かつては熊本市内でも多く栽培されていましたが、現在では生産農家は矢野さんを含めて2戸のみとのこと。
 出荷のために1本ずつ水洗いする手間等を考えると、経営的には有利な作物とは言い難いようです(矢野さんの経営も、主力はニンジンとのこと)。
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 車は熊本市内に戻り、次の目的地である画図(えず)地区へ。
 広々とした土色の農地の中に、そこだけ鮮やかな緑色の絨毯に被われているようなほ場が点在しています。ここが水前寺セリの栽培地です。
 JA熊本市画図支店の方と農家の方が、ほ場の脇で説明して下さいました。
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 太いパイプから自噴している清らかで豊富な地下水が、セリ田に引き込まれて流れています。水面には浮き草が繁茂しています。
 真冬にも関わらず青々としているのは、水温が年間を通して18℃度前後で安定しているため。
 また、地下水はミネラル分等も豊富で、化学肥料や化学合成農薬は使用していないそうです。
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 生産者の方がほ場に入り、数株、抜いて見せて下さいました。葉と茎は鮮やかな緑色、泥をすすぐと対照的に根は真っ白です。
 熊本では正月料理に欠かせない食材ですが、関西や名古屋圏のみならず、セリ根を鍋物にして食べる仙台までも出荷されているそうです。
 悩みの1つは野鳥の食害とのこと。
 何しろ鴨等が多数生息する江津湖は目と鼻の先、駆除するわけにもいかず、ほ場の上に釣り糸を張るなどして被害を最小限に食い止める工夫をしているそうです。
 水に入って中腰での収穫作業は楽ではありません。現在、10数戸の農家の方により生産されているそうですが、ここでも後継者不足が問題となっているとのことです。
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 続いて、午前中最後の目的地、熊本市南隣の嘉島町(かしままち)へ。
 この辺りも水の豊富なところで、民家の間を縫うようにクリーク(水路)が巡っています。そこで洗いものをされている方もおられました。
 住宅地の合間に2棟のガラス室のような施設があります。車を降りて覗いてみると、中には野菜はなく、プールのようになっています。
 ここが「幻の水前寺ノリ」の生産地、丹生(たんせい)慶次郎さんが出迎えて下さいました。
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 水前寺ノリとは、淡水に生息する褐色・不定形の藻類の一種。
 江戸時代には肥後細川藩から幕府への献上品とされ、大正13(1924)年には国の天然記念物に指定されたものの、現在は絶滅危惧種とされています。
 ミネラルを含む一定水温の清流でしか生育できない水前寺ノリを、丹生さんが、永年の研究と技術開発を経て人工養殖に成功したのです。
 丹正さんがハウスの側面を開け、中を見学させて下さいました。
 プールはブロック等で区画されていますが、水は自由に流れるように工夫されています。水底や、ゆらゆらと水の中を漂っている水前寺ノリの姿が見えます。水草にまとわりついているものもあります。
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 害虫を食べてもらうため小魚も同居。それを狙って、時にはカワセミが来るそうです。
 湯通ししたものを、試食させて下さいました。
 寒天質で、ぷるぷるとした独特の食感です。一般的な海苔とは全く違います。
 丹生さんのお陰で、現在、水前寺ノリは熊本市内の一部料理店等でも食べられるようになっているそうですが、生産者は丹生さんだけという現状です。
 なお、最近は保水力が高いという機能性が注目され、化粧品など新しい活用方法も開発されているそうです。
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 以上のように、貴重な3種類のひご野菜を見学させて頂いて午前中のスケジュールは終了。
131224_9_convert_20131228083028.png 熊本市青年会館に戻り、研修室でお弁当を頂きました。
 午後からは一般参加者も含めた「ひご野菜セミナリオ」として、水前寺もやしの見学、熊本農業高校の生徒さん達による取組の発表とともに、私からは「フード・マイレージから伝統野菜を考える」というテーマで報告させて頂くことになっています。
(さらに次回に続く。)
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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