杉本鉞子『武士の娘』から異文化交流を考える会

 天候不順が続きますが、2014年6月24日(火)には東京・三鷹市等で大粒の雹(ひょう)が降りました。
 夏の都会に出現した銀世界のニュース映像を、信じられない思いで見ました。
140623_0_convert_20140627070948.png 農作物にも大きな被害が出たと報道されています。2月の大雪に続き、被害に遭われた生産者の方たちにお見舞い申し上げます。
 気候の変動が、年々、激しくなってきているような気がします。
 さて、先日、初めてフェイスブックのイベントを立てました。
 様々なイベントに参加させて頂く機会は多いのですが、自ら主催したのは初めてです。
 タイトルは「杉本鉞子『武士の娘』を手掛かりに異文化交流を考える会(第1回)」。
 2014年6月23日(月)の19時から、会場は都営三田線・三田駅すぐの東京都障害者福祉会館の和室集会室です。
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 2年ほど前、「三田の家」で開催された「共奏キッチン♪」において初めて釘島浩子さんという方にお会いし、『武士の娘』という本があると教えてもらいました。
 興味を持ったもののしばらくそのままだったのですが、今年になって港区・芝で開催されたブックチェンジのイベントでようやく本を入手し、読んでみたところ、これが期待した以上の面白さです。さらに、改めて釘島さんに本には書かれていない時代背景などを解説してもらうと、とんでもなく面白い。
 ということで、このような話をより多くの方に聞いてもらいたいと思い、イベントを開催することとなったのです。
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 講師(話し手)の釘島浩子さんは、大学、大学院で『武士の娘』を研究テーマとし、自ら米国、ヨーロッパ等に足を運んで資料収集に努めるなどして論文にまとめ、国内外の学会等で発表された経験をお持ちの市民研究家の方です。
 会場に着くと、釘島さんはすでに資料を並べて準備を始めておられました(釘島さんは毎週月曜午後、ここで異文化交流のための場を設けられています)。
 畳の上に大量に並べられた文献のコピー等は、国内は(長岡も)もちろん、ニューヨークの図書館等まで自ら足を運んで集められた貴重なものです。「今みたいにインターネットが発達していれば、こんな苦労は無かったのにね」と笑っておられいました。
 テーブルには、以前に公共施設での展示会で使ったという手作りのポスターが何枚も重ねられています。
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 この日、集まって下さったのは7名。全員で9名という小じんまりとした会です。
 越後(新潟県)長岡藩家老の家に生まれ、武士の娘として厳格に育てられた杉本鉞子(ヱツ子)は、戊辰戦争・維新という激動を経た明治という時代に、結婚によりアメリカに移住します。
 全てが珍しく慣れない異文化の中でも、凛とした姿勢を失うことなく、大学にも職を得て、英文で “A Daughter of the Samurai”(武士の娘)を出版しました。
 これがヨーロッパの各国語にも翻訳され、新渡戸稲造の『武士道』等と並び、当時の国際社会の日本に対する理解を深める上で大きな役割を果たしたとされています。
140623_4_convert_20140627071122.png 「今日に通じる女性の生き方を見る上にも、当時の風俗や生活のありさまを知るためにも、高い価値をもつ」と、出版社の説明文にもあります。
 全くその通りの内容で私も興味深く読んだのですが、実は本に書かれていない時代背景等に照らして読むと、さらに深い意味があるというのが釘島さんの解説です。
 鉞子が渡米したのは1898(明治31)年、25歳の頃。夫が亡くなり一時帰国した後に再渡米したのが1916(大正5)年、『武士の娘』が出版されたのが1925年です。
 年表をひも解くと、日露戦争の講和(ポーツマス条約)が1905年。これをきっかけに日本は大陸への進出を始め、1914年からの第1次世界大戦を経て勢力を拡大していく日本に、アメリカが強い警戒感を高めていく時代に当たるのです。
 そして「排日移民法」の成立が1924年、『武士の娘』が出版される前年です。
 また、『武士の娘』出版の背景には日米友好を進めようという米国人達の支援があったこと、肝心の日本で(日本語訳して)出版されたのは皮肉にも日米開戦後の1943(昭和18)年だったということも、釘島さんの話によって知ることができました。
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 予定の21時を過ぎて別の場所に移っての延長戦も、鉄漿(おはぐろ)の起源から、本の行商でなぜ目が良くなったかといった周辺のトリビアな話題を含め、話は尽きません。
 現在、近隣国との緊張が高まっているなかで日本の伝統や「武士」等を強調することは、いわゆる右傾化の風潮を助長するのに利用される恐れもあるのでは、と懸念される参加者の方もおられました。
 人数的にはささやかな集まりでしたが、その分、濃密な意見交換ができたと思います。
 近隣国との緊張が高まり、日米関係についても様々な議論が行われている現在、国際交流、異文化交流を考えていく上で、『武士の娘』は多くの示唆に富んでいる本です。しかし、それほど知られているとは言えません。
 また、プロの研究者でも評論家でもない「普通の市民」である釘島さんのような方がおられることは、この国にとって貴重な財産と言えます。釘島さんには、これからもぜひ多くの場で、『武士の娘』を紹介していって下さることを期待しています。
 とり合えず今回の会合は「第1回」と銘打って行いましたが、2回目をどうするか、考えたいと思っています。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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