農山村と都市の新しい結びつきを考える

 2014年9月6日(土)。前日に続き、夏が戻ってきたような陽気です。
 午後から國學院大学渋谷キャンパスへ。渋谷駅から徒歩でも10分ほどなのですが都営バスに。よく効いた冷房にほっとします。私たちは、何と便利で快適な生活を送っていることでしょう。
 この日、國學院大・常磐松ホールで開催されたのは、 「農山村と都市の新しい結びつきを考える -3.11後から見える有機農業の価値と地域のカ」 と題するシンポジウム。
 國學院大学共存学プロジェクト、地域の力フォーラム委員会(CSOネットワーク)、共存社会システム学会の共催です。
 会場には100名ほどの参加者。
 定刻の13時半、黒田かをりさん(CSOネットワーク事務局長・理事、「地域の力フォーラム」事務局)の全体司会により開会。
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 まず、古沢広祐先生(國學院大學経済学部教授/共存学プロジェクト)から挨拶。
 「3.11で私たちの社会、文明のあり方そのものが変っていくのではないかと期待したが、残念ながら、20世紀末の深刻な時代に戻りつつある。このような時代に抗して、農のあり方、地域のあり方を再生していこうという趣旨で開催することとした。状況は深刻だが、新しい可能性は開けつつある」とのこと。
 第一部は特別基調報告として、星寛治さん(山形県高畠町有機農家/たかはた共生塾顧問/農民作家)からの講演です。
 「輝く農の時代へ ~都市市民と共に~」と題する講演は、「農の現場で近年の気象変動による大きなダメージを実感している。イノシシが増え、ブナや針葉樹が枯れ始めている。想定を超える様々な異変にどう向き合っていくかが課題」という話から始まりました。
 また、「近未来に食料危機が予見されるにも関わらず、TPP参加や規模拡大が推進される一方、足元では高齢化と耕作放棄地の増加、シャッター通り化など、日本の農業と地域社会の崩壊が危惧されている」とも。
 「このような状況のなかで、ブックレットにも紹介されている埼玉・小川町の金子美登さんの取組など、地域に足を据えた住民自治と協働の力が、新しい道を切り拓いていくのではないかと期待している」
 
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 「山形県では「置賜自給圏構想」がスタートした。食と農とエネルギーの自給を基軸に、新しい循環型の地域づくりに取り組んでいる。自給圏とは閉鎖的なものではなく、あくまで開かれたローカリズム。
 また、「たかはた共生プロジェクト」も立ち上げ、毎月第3木曜日には東京・竹橋で「青鬼サロン」という取組も始めている」
 そして最後に、「地域の資源は宝。これを発掘して磨き、外部に頼らない内発的な復興・発展に取り組んでいきたい。地域住民の力だけでは達成できない。都市と農村という枠組みを超えて、価値観を共有する人同士が双方向で関係づくりを進め、新しい生命共同体を作り上げていきたい」と、力強く語られました。
 休憩の後の第二部は、3名の方からの報告とパネルディスカッションです。
 まず、菅野正寿(すげのせいじ)さん(有機農家/福島県有機農業ネットワーク理事長)から、「原発事故から見えてきた農の価値と地域の力」と題して報告。
 「震災から3年半になるが、福島では今も震災関連死が増え、損害賠償も復興住宅建設も遅れている。除染の目安を個人の被ばく線量を重視する方針に変更するというのは、国の責任を曖昧にするもの。自分の娘も地元で農業をしているが、畑に出ると線量が上がる。若い農業者の健康管理が重要な問題」
 「双葉地区での中間貯蔵施設の計画は地元町民が納得しないまま進められている。押し付けでしかない。
 昨年秋、南相馬市の米からセシウムが検出され、私の友人の農家も戸惑っていた。それが福島第1原発のがれき撤去作業で飛散した粉じんの影響だったということを、国も東電も半年以上隠していた。情報隠しの体質は変わっていない。
 水俣、原発、米軍基地など様々な問題は地方に押し付けて、東京では五輪を開催。どこが『地方再生』か。」
 「農地や森林の汚染実態調査を行っているが、これも本来は国が責任を持って行うべきこと。その中で肥沃な土壌はセシウムを吸着固定化することが明らかとなった。有機的な土づくりこそが農地再生の光。残念ながら山林の汚染は深刻」
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 「二本松市の神社には、230年前の天明の大飢饉を後世に伝える石碑が残されている。多くの災害の教訓が、現在の多様な阿武隈山系の食文化を生み出してきた。都市の住民とともに本来の農林漁業を守っていきたいという思いから、『耕せ!ふくしまプロジェクト』『里山再生プロジェクト』等を立ち上げた。
 最後に、環境活動家のバンダナ・シバ氏の言葉「単一の社会は支配をつくり、多様な社会は共生をつくる」との言葉を紹介されました。
 続いて、古沢広祐先生(國學院大學)から 「生物多様性の危機と有機農業・家族農業の可能性~国際有機農業運動連盟(IFOAM)世界大会に向けて~」と題する報告。
 冒頭、10月にイスタンブールで開催されるIFOAM世界大会には、菅野さんも参加されることが紹介されました。
 「1992年に地球サミットが開かれたが、地球温暖化については今や予防の段階はあきらめ、緩和のレベルもなかなか難しく、どう適応していくか(損害に対応していくか)を検討するレベルの議論になっているのが現状」
 
 「モノカルチャー型で発展してきた文明は、今後、文化多様性というもう一つの領域と融合させていくことが必要。食と農の分野においても、単一・極大化という展開方向ではなく、複合・バランス調整の展開が重要になっている」
 「未来のシナリオは、グローバル化-ローカル化/技術志向-自然志向の4つの展開方向があるが、自然環境の共生社会を目指していくべき」と締めくくられました。
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 最後は、浜口真理子さん(CSOピースシード代表/人々とたねの未来フォーラム事務局)から、「タネを通して食と農、地域と世界をつなぐ~生物多様性:COP10からCOP12へ(日本・インド・韓国)」と題する報告。
 韓国での生物多様性関係の会議の帰り、成田空港から直行されたそうです。
 「もともと、世界から飢餓と貧困をなくしたいという思いで各国を訪ね活動してきた。その中で種採りを始め、種と向き合うことで、種は、自然科学から国家間の条約など、様々な問題に関わっていることを知った」
 「インドで種の交換会に出た時、ある人がGMは一つもないと自慢していた。ないこと自慢しなくていい私たちの状況がいつまで続くか。また、オーガニックという言葉は、南米では付加価値をつけて海外に売るものというイメージがある」
 
 「成田空港近くの自宅では51種類の稲を植えている。15年ほど採り続けている種もあり、周りの人にも分けている。種は本来みんなのもののはずだが、パテントをとり、単にモノとして流通している面に危惧を覚える。
 長い時間をかけて現在の栽培作物がある。その大切なものを未来に向けてどう扱うか。限られている資源を分かち合う仕組みを作れば、争いは無くなり平和が実現するのではないか」等と述べられました。
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 引き続いてパネルディスカッションです。
 進行の大江正章さん(コモンズ代表/アジア太平洋資料センター共同代表/「地域の力フォーラム」委員長)が、様々な話題を3名の報告者に投げかけます。
 新規就農について、菅野さんから。
 「今の社会はおかしいと若者は気づき始めている。これは一過性のものではない。人間らしい生き方を求めて二本松・東和地区でも新規就農者が増えている。地域に受け皿となるNPO(ゆうきの里 東和ふるさとづくり協議会)があることが強み。行政やJAは手が回らない」
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 種採りについて、まずは古沢先生。
 「グローバル企業に任せておくと、品種はせいぜい数十種類。もっとローカルに考えれば数万もの多様な品種がある。モノカルチャー路線で大量廃棄でいくのか、大事に食べるようにするのか、どのような食べ方を選ぶかで世界の農のあり方が変わってくる。私たちのライフスタイルの問題」
 菅野さんからは、 
 「福島有機農業ネットワークでも伝統種を守ろうという動きは出てきた。まだあまり進んでいないが、特に豆などは、非常に多くの品種がある」
 浜口さんは、
 「今は種子がブームで伝統品種のブランド化等が進められているが、本来、種とは地域で自給するもの。一方、自分のところにも社員食堂に使いたい等の大口の相談はあるが、大口の規格等に合うものは小さな農家はつくりにくい。小規模な家庭菜園が生物多様性を守る重要な要素になっていることも注目される」 
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 また、会場には、農家との共同作業で農地や山林の汚染度を調査されている大学の先生、被災地支援に取り組んでおられる長野県の医師、福島と提携している千葉の生協の理事長さん等も見えられており、それぞれ、取組内容等について報告して頂きました。
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 パネルディスカッションの最後に、星さんが指名されました。
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 「今、若い人たちを中心に多くの人が自然、土、農の豊かさに目覚めつつある。自分の高三の孫も農業を継ぎたいと言っており、孫に引き継げるのは大きな喜び。若い世代の農村回帰のうねりに、大きな希望を抱いている。その流れを育成、助長していくことが大事」と、取りまとめて下さいました。
 予定の17時を少々過ぎて終了。このようなシンポジウムは、どうしても時間が足らなくなります。
 ところで最近、錦織圭選手が全米テニス準優勝という嬉しいニュースがありました。
 これ自体は、むろん喜ばしく誇らしい出来事ですが、一方で「にわか」テニスファンが急増し、スポンサーのウェアが売り切れたり、慌てて衛星放送を契約したり、あるいは関連銘柄の株価がストップ高をつけたと思ったら急落したりといったニュースに接すると、私たちの社会は一体どうなっているのかと、うそ寒ささえ感じます。
 このブログを書き起こしながら、星さんや菅野さんの話の内容と、現実の社会との間にあるあまりに大きなギャップに、違和感を覚えざるを得ませんでした。どうも五輪誘致が決定した頃から、日本の社会は何となく浮ついてきたような気がしてなりません。
 今日(2014年9月11日)は東日本大震災から3年半。今も24万人以上が避難を続けています。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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