ジャーナリズムとヒューマニズム

 2015年4月25日(土)は、東京・小金井で「坂下まつり!春のむすび市」に参加した後、JR中央線で武蔵小金井から四ツ谷へ。
 桜の名所・真田堤は緑が茂り、すっかり初夏の装いです。
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 この日午後、上智大学で「公共哲学を学ぶ会 シンポジウム」が開催されました。
 テーマは「報道被害から考えるジャーナリズムとヒューマニズム~「世田谷事件」報道をきっかけとして~」。
 主催は「ベグライテン」(Begleiten)と「ミシュカの森」
 広い教室が多くの参加者で埋まる中、14時に開会。
 最初に、「ミシュカの森」代表の入江杏(いりえ あん)さんから、本日のシンポジウムの趣旨を含めて発言がありました。
 (注:以下の内容は私が勝手にまとめたもので、誤解等もあるかも知れません。文責は全て中田にあります)。
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 「幼い子ども2人を含む妹一家4人が犠牲となった『世田谷事件』から15年。絵本創作や追悼会の開催など再生に向けた活動を続けてこられたのは、メディアを含む多くの方たちのお陰で感謝している」
 「一方、人権的な配慮を欠いた報道により、遺族として苦しめられることもあった。昨年末に放映された特別番組では、移映さないと約束した映像が放映されたり、発言の一部に思わせぶりな『ピー音』をかぶせたり、恣意的な編集に傷つけられた。テレビには大きな影響力がある。これまでの自分の活動が否定されるような内容で、しばらく声さえ出なくなった」
 「事件の解決のためにも、これからもメディアと手を携えていく必要を感じているからこそ、報道の自由と人権がともに保障される社会を作っていかなければならない。そのような思いで、今日のシンポジウムを企画した」
 最初の報告者は、池上正樹さん
 通信社等の勤務を経たフリーのジャーナリスト。「大人のひきこもり」問題等を追及、被災地支援も続けられています。
 報告のタイトルは「当事者の目線を通して」。
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 「ネットで『引きこもりするオトナたち』を連載しているが、当事者を始め多くの人から『自分の思いを聞いてほしい』とのメールを頂いた。外部との関わりが途絶え、社会から孤立する中高年が増えている」
 「今の日本はワンチャンス社会。現行の施策は若者の就労支援等が中心で現実とミスマッチ。当事者の思いを丁寧に受け止めていくという仕組みが足らない。
 もう一度、関係性を築いていける社会を作っていくため、各地ではフューチャーセッション「庵 -IORI-」、「ひきこもり大学」等の取組も進められている」
 「テレビからの取材に、デリケートな問題なので丁寧にやりましょう、と言うと露骨に嫌がられる。協力した家族の発言が恣意的に編集され、父子間の溝が深くなってしまった事例もあった。
 『テレビに出て名前が売れて、いいじゃないですか』というのがテレビ局の言い分」
 続いての報告者は下村健一さん
 テレビの報道局アナ、キャスター等を経て、現在はジャーナリスト・市民メディアアドバイザー、慶應大・特別招聘教授。民間登用で内閣審議官も務められました。
 新著『10代からの情報キャッチボール入門』(岩波書店)は、情報受発信のリテラシーについて分かりやすくまとめられた好著です。
 報告のタイトルは「ジャーナリストは、ヒューマニストか」。
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 「応報的司法、修復的司法という考えがある。
 これになぞらえると、『応報的報道』とは断罪・血祭り型。しかし、これらは本来、報道に期待されている役割ではない。そうではなく、被害者の回復、加害者の更生、コミュニティの修復まで視野に入れ目的とする『修復的報道』の考え方が重要」
 「報道は鉄器の製造プロセスに例えることができる。燃え上がる『加熱期』に続き枠にはめようとする『成形期』。続く『冷却期』になれば、共同発信者としての関係を構築していける可能性も出てきて、次の『活用期』につなげられる」
 「ネット配信している『知ってる?この話』(注:リンク先は音声が出ます。)で、昨年12月、世田谷事件を取り上げた。
 今も訪問者がある。派手な打ち上げ花火のようなテレビとは違うネットの特性にも注目している」
 「結論から言うと100%のヒューマニストも、100%人非人もいない。全ての人がそれぞれ何%ずつか持っている。様々な手段により、ジャーナリズムの中にヒューマニズムを育てていきたい」
 最後の報告者は水島宏明さん
 ドキュメンタリー制作などテレビ報道の第一線で、生活保護制度やネットカフェ難民の問題を追及されてきた方。現在は法政大学教授でもあります。
 報告のタイトルは「テレビ人の“人権感覚”の欠如」。
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 「テレビ界から大学に転じて4年。報道の加害性について考えることが多い。
 「あるワイドショーでは延々と生活保護バッシング。ところが内容は、街頭インタビューなど伝聞情報の垂れ流し。裏を取るという報道の原則が無視されている。
 人気タレントの『ホームレスは好きでやっている』『生活保護はもらい得』等の発言、番組が打ち切りになった『セシウムさん』字幕。
 児童養護施設を舞台にしたドラマでは、辛い記憶がフラッシュバックする等の視聴者からの苦情に対し、『最後まで見てほしい』との回答。
 いずれも弱い立場にある人達への共感、想像力が欠如している」
 「今のテレビ局には、ジャーナリストを育てていこうという意識が欠如。
 ジャーナリストに必要な資質は、弱者への視線(想像力)、現場取材で勝負する気概等だが、成果主義・効率主義の前でサラリーマン化している」
 「大事なことは、テレビカメラの向こう側にいる視聴者を想像すること。再現ドラマ等でも『品位』が不可欠」。
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 第2部は、下村さんを司会役にパネルディスカッション。
 入江さん
 「今回の放送について訂正等を求めてもキョトンとしていた。テレビは物語や分かりやすい被害者像を求め、映像的に分かりにくいことは無視される。それでも無償で協力してきた。悲しみや痛みを持つ人に対する想像力を持ってほしい」
 池上さん
 「『引きこもり』は矯正されるべきこと、というスタンスが間違っている。自らはネット等で配信しつつ、当事者の思いを中心に据えて一緒に考えていけるような身近なコミュニティ作りを続けていきたい」
 水島さん
 「マスコミは常に結論を、しかもドラマ性を求める。いま、自分が大学で教えているのは、正解は簡単に見つかるものではなく、時間がかかるということ。
 一方、現在はSNSの発達により誰もが発信者になれる。マスコミ情報を鵜呑みにして拡散すると、被害を増幅させることにつながる恐れがあることへの自覚も必要」 
 最後に下村さんは、
 「受信者の側も、マスコミの情報を主体的に補い消化することが必要では。マスコミに対する社会全体の眼差しを育てていくことが、ジャーナリズムの中にヒューマニズムを実現していくことにつながる。マスコミ情報にどう対応していくかは、参加者皆さんへの締め切りのない宿題としたい」とまとめられました。
 終了後は、四ツ谷駅近くで懇親会。
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 グリーフケアの活動(悲嘆の中にある人へのサポート)をされている方、対話の場やコミュニティ作りに取り組んでおられる方、医師、出版関係の方など。
 それぞれの経験やお立場のなかで、多彩な活動をされている方ばかりです。
 まずは、入江さんの声が出るようになったことには、ひと安心でした。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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