新しい食と農のモデル @ 東京・八王子

 2015年6月27日(土)。前夜来の雨は上がりましたが、どんよりとした曇り空です。
 多摩都市モノレールで多摩センターで乗り換えて京王堀之内駅へ。ニュータウンの駅にふさわしい(?)ガウディ風のオブジェも。
 石川敏之さんが、車で迎えに来て下さいました。
 八王子協同エネルギー(はちエネ)の理事で、ジュニア野菜ソムリエ、江戸東京野菜コンシェルジュでもある石川さんは、食やエネルギーの分野を中心とした市民活動に積極的に取り組んでおられる方です。
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 住宅団地や商業施設のなかを走ること5分ほど、車窓からの風景ががらりと変わりました。農地と里山、牛舎まであります。
 1964年に八王子市に編入されるまでは、南多摩郡由木村(ゆぎむら)と呼ばれていた地域です。
 到着した農家には、ユギムラ牧場の看板。
 オーナーである鈴木亨(とおる)さんと、この地で新規就農されている舩木翔平さん(FIO代表)が出迎えて下さいました。
 鈴木さんご自身は健康上の理由から数年前に酪農は廃業されましたが、現在も近隣の酪農家に代わって堆肥を生産されています。
 たい肥舎の前には、たくさんの水稲の苗。この翌日、田植えのイベントを予定しているそうです。
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 そのお忙しい時にお邪魔して、農場等を見学させて頂きました。
 すぐ向こうの高台の上にはびっしりとニュータウンの住宅が並んでいます。
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 農場を見学させて頂きながら、鈴木さんが色々と説明して下さいました。
 八王子、多摩、稲城、町田にまたがる区域に大規模開発(多摩ニュータウン)の構想が立てられたのは、1960年代半ばのこと。
 この農地や里山が広がる地域も開発区域に編入され、土地収用等が行われようとしたのに、農家の方たちは抵抗運動を繰り広げたそうです。その中心となって活動された方の一人が、鈴木さんのご夫君(鈴木昇氏)でした。
150627_15_convert_20150703070404.jpg 1980年代には市街化調整区域への逆線引き(都市計画の変更)を実現。「由木の農業と自然を守る会」(ユギ・ファーマーズ・クラブ)を立ち上げ、都市住民等に農業・農地の多面的な価値を理解してもらうためにの交流活動等に取り組んでこられたそうです。
 その様子は、「『農』はいつでもワンダーランド-都市の素敵な田舎ぐらし」(ユギ・ファーマーズ・クラブ編、1994)にも詳しく紹介されています。
 農地の一画は、八王子初の農業体験農園方式(経営主の計画と指導に沿って農作業を体験する方式)として運営されているそうです。
 ヤギ牧場もありました。
 ここは、舩木さんがクラウドファンディングを活用して資金調達し、設置されたそうです(目標額を大幅に上回ったとのこと。)。
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 交通量の多い平山通り沿いには、農産物の無人直売所が設置されていました。
 通りがかりの人が覗いています。立派なズッキーニが並んでいました。
 この少し先に、社会福祉法人由木かたくりの会があります。鈴木さんのご父君が、障害のある方との交流をすすめるなかで設置された施設とのこと。
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 通りを離れ、農地の間の道を戻ります。
 地域の高齢者のグループ、福祉施設の方たちが除草作業等をされています。
 大きな建物は、鈴木牧場の牛舎だった建物。
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 元・牛舎は、100人規模で農業体験イベント等に活用できる施設に改築されています。
 木材をふんだんに使った気持ちのいい空間。お手洗い等も新しく設置したそうです。たくさんのタマネギが吊るされていました。
 先ほどのたい肥舎の屋根の上には、太陽光パネルが設置されていました。
 はちエネが最初に建設した市民発電所で、昨年9月から発電・売電事業が行われています。
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 高度経済成長期におけるニュータウン建設という「国策」に対抗し、都市住民とも協力しながら、この地域の農地の里山を残すことは大変なご苦労だったかと思います。
 そのご尽力のお陰で、現在、この地域はニュータウンの住民や学生達(八王子は大学街です。)にとって、かけがえのない場所となっています。現在でこそ都市農業の重要性が見直されつつありますが、ようやく世の中が、この地域に追いついてきたかのようです。
 そして現在は、舩木さんたち若い方達が中心となって、様々な交流事業が展開されているのです。
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 鈴木さんや舩木さんの熱い思いに触れて火照った頭と体を車に押し込み、八王子市の中心部へ向かいます。
 JR八王子駅にほど近い建物脇に駐車。壁にはアミダステーションの看板。ここは延立寺の別院で、はちエネの事務所が置かれているほか市民団体のセミナー等も開催されているそうです。
 鉄板焼き屋さんで昼食(美味!)の後、クリエイトホール(生涯学習センター)へ。
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 八王子市では、市民が自主的に「八王子市民のがっこう・まなびつなぐ広場」という講座等を企画・運営しています。
 その講座の一つが「地域から考える持続可能な食と農」。石川さんがナビゲーターを務められています。
 5月30日(土)に開催された第1回(川口エンドウを食べて味わう)に続くこの日は第2回目。参加者は20名ほどです。
 前半は私から、「フード・マイレージと地産地消」と題して、日本の食や農の現状、フード・マイレージの考え方、地産地消や伝統野菜の意義等について説明させて頂きました。 
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 後半は、4~5人ずつの4グループに分かれてのワークショップ。
 食材のカードを選んで献立をつくり、その食事1食分のフード・マイレージ、食材の輸送に伴い排出される二酸化炭素の量、自給率、食事バランスガイドの「つ(SV数)」を計算、模造紙に書き出します。
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 そして、「未来のより豊かな『食』のために私たちにできること」についてグループで話し合い、最後に1つのキャッチフレーズにまとめて発表です。
 最初の若い女性を含むグループからは、家族団らんを大切にし「地産地消でご飯を食べる」。
 続くシニアの方が多いグループからは、「精神論かもしれないが」とされつつ、日本食文化を守ることなど「食は生き方」というキャッチフレーズが発表されました。
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 壮年の男女からなるグループからは「八王子にあるものでつくる」。日頃から直売所に通っておられる男性もおられました。
 あえてフード・マイレージが高くなりそうな食材を選んでみたという最後のグループからは、「フードマイレージは『風土』マイレー土」というキャッチフレーズ。確かに、フード(食)はその土地の風土と切り離せないものです。
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 食は、誰かに与えられるものではなくて自ら選択するものです。
 そのような思いて開催したグループワークでしたが、皆さん、熱心に参加して下さいました。
 最後に若干の質疑応答を行い、17時過ぎに終了。
 石川さんに誘って頂き、何人かの方と懇親会へ。
 会場は徒歩数分、駅にも近い「北前廻船紀行 けいのや」。八王子の野菜を使ったメニューが売り物の一つだそうです。午前中にお邪魔したFIOの野菜も取り扱っておられるそうです。
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 席に着いてすぐ、店長さんが挨拶に来て下さいました。何と、先ほどの講座に参加して下さっていた方です。
 「川口エンドウ祭」を開催されていたとのこと。川口エンドウとは、八王子市川口町を中心に栽培されている貴重な江戸東京野菜です。
 その川口エンドウが入ったメンチカツのほか、八王子野菜のサラダ、ナスが入ったチーズ焼き等を頂きました。
 さらには、珍しいシシャモやハッカクの刺身も。もちろん(^_^;)、美味しい日本酒なども。
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 ニュータウン開発という荒波の中で地域の農業と農地・里山を守ってこられた方、都市住民や学生達との交流に取り組む新規就農者の方、市民講座を企画・開催し、あるいはそこに参加された方たち、そして地元の食材を積極的に使われている飲食店の方。
 首都圏にあって人口60万人を有する大都会でありながら、同時に豊かな農業が展開されいる八王子市の取組が、これからの日本の新しい食と農のモデルとなっていくことが期待されます。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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