図38 米の相対取引価格の推移


◆ F.M.豆知識
 食や農について、(特に私たち消費者にとって)ちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を、毎回こつこつと取り上げていきます。
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 本欄では、ここ数回にわたって総務省『家計調査』結果を基に食料消費の地域的な特徴を取り上げてきました。まだ紹介したいトピックもあるのですが、今回は別の話題を取り上げます。

 先日、ある尊敬する東北地方の農家の方が、何ともやりきれないとの思いをフェイスブックに投稿されていました。その内容は、10月5日付けの毎日新聞朝刊の社説に関してです。
 早速、原文を読んでみました。
 http://mainichi.jp/opinion/news/20151005k0000m070099000c.html

 「コメの補助金 農業の強化を妨げるな」と題する社説は、今年の新米が昨年より高い価格で出回り始めたことを取り上げ、「米価の高止まりは生産性の低い零細農家の温存につながる」「コメの値段が下がれば零細農家の退場が促され、出てきた農地を担い手に集約すれば一段の競争力強化を図れる」とし、「農業強化を図るためには補助金政策の見直しが必要」と主張しています。

 農業(特に稲作)の構造改革や補助金制度の不断の見直しの必要性といった結論の是非はともかく、その結論に至る事実認識や理論展開については、率直に言って粗雑かつステレオタイプと言わざるを得ません。
おそらくは、食料や農業についてきちんと勉強されたことのない方が書かれたのでしょう。
 本欄では数回に分けて、この社説の問題点を事実関係に照らして明らかにしていきたいと思います。

 まずは簡単な点からです。
 米の価格については、以前は生産種米価等のかたちで国が決定していましたが、現在は民間ベースの相対の取引に委ねられています(食糧管理法は1995年に廃止)。

 本年9月の新米(2015年産米)の相対取引価格(JA全農等が卸売業者等に販売する際の取引価格)は、全国・全銘柄平均で13,178円(60kg当たり)と、前年産米に比べて1,000円ほどが高くなっています。

 社説はこのことを捉えて「米価の高止まり」との表現を使っているのですが、実際には米価格はどのような水準にあるのでしょうか。
 リンク先の図は、近年の米の相対取引価格の推移を示したものです(実際には前年産米(いわゆる古米)等も取引されていますが、当該年産の価格のみを表示しています)。

 このグラフから明かな通り、2015年産米は前年産米より上昇しているものの、2013年産米以前の水準までは回復していません。2014年産米の価格は史上もっとも低い水準で推移し、生産者の方々の深刻な悩みとなっていました。
 それから若干上がったからといって、あたかも米価が「高止まり」しているかのような表現は、読者に誤解を与える恐れがあるものです。
 これでは、心ある生産者の方が怒りを覚えるのも当然です。

 なお、米価は短期的な需給事情により変動しているものの、長期的には下落傾向にあることも事実です。この背景には、米の消費量が一貫して減少し続けているという構造的な要因があります。
 次回に続きます。

[出典等]
 農林水産省「米穀の取引に関する報告」
 (農林水産省ホームページ「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」)
  http://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/aitaikakaku.html

 FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)
  http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html

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