脱成長ミーティング・公開研究会 (第10回)

 2016年4月17日(日)の東京地方は雨模様。
 熊本・九州では依然として余震が収まりません。犠牲者の数はさらに増加。ライフラインは途絶、水や食料も十分に行き渡っていない様子。さらに南阿蘇では大規模な山崩れ、阿蘇神社や熊本城も大きな被害。
 テレビの映像に胸が苦しくなります。
 雨の合間を縫って自宅近くに借りている市民農園の一画へ。すごい風です。
 ネガタ等のジャガイモが芽を出していました。
 
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 種採り用に一株だけ残してあった仙台雪菜は、風でなぎ倒されていました。植え直して補強。
 先日、JA直売所で購入してきた茶豆をまき、ネットをベタ掛けしたところで強い雨が落ちてきて、今週の農作業は終了。
 土をいじっている間は少し気持ちが紛れました。
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 午後は都心へ。
 メトロ有楽町線・江戸川橋駅を地上に出るとすごい雨と風。傘が飛ばされないように苦労しながら、何とかPP研にたどり着きました。ここで13時30分から開催されたのは、脱成長ミーティングの公開研究会(第10回)。
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 発起人の一人・髙坂勝さん(オーガニックバー・たまにはTSUKIでも眺めましょ店主)から、 「2ヶ月に1回程度のペースで活動してきた脱成長ミーティングも2年になる。公開研究会は10回目。経済成長一辺倒ではないオルタナティブを探っていきたい」と開会の挨拶。
 続いて、もう一人の発起人・自川真澄さん(ピープルズ・プラン研究所(PP研))から、この日の講師である古沢広祐先生(國學院大)と、研究会のテーマについて紹介がありました。
 「古沢先生は、これまで脱成長に関して先駆的に研究・活動されてきた。今日は改めて脱成長の理論等について歴史的に振り返って頂きたい」。
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 古沢先生は、「脱成長論を歴史的に振り返る」というタイトルのスライドを用いて、ご自身の経歴を交えつつ、説明を始められました。
 (以下は古沢先生のご講演の一部です。なお、文責は中田にあります。当日の講演部分の動画はこちら)。
 「1969年、大学紛争の盛んな時代に大学に入学。公害問題を学ぶうちに、日本の開発の波がアジアに拡がり色んな問題を起こしていることに着目するようになった。また、アメリカ農業も家族経営が中心であり、農民運動があることを知った。
 一方、1972年にはストックホルムで国連人間環境会議が開催されるなど、地球規模での環境問題が次第に注目されるようになってきた。
 そのようななか、1981年(大学院生時代)にはホームステイをしながら1ケ月ほどアメリカのオルタナティブを訪ねる旅をした」
 「この間には研究成果等をまとめ、『共生社会の論理』(1988、学陽書房)、『共生時代の食と農』(1990、家の光協会)、『地球文明ビジョン』(1995、日本放送出版協会)を上梓。 
 その後は考える以上に現実の方が早く進み、著作としてはまとめられていない。理論的に改めて整理する必要は感じており、今日は色んな問題意識や切り口を提示して議論できればと思う」
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 「脱成長論には大きく2つの潮流がある。
 1つはローマクラブ等による『成長の限界論』。もう1つは『疎外論』的な問題提起でイリイチ、シューマッハー、ゴルツ、ラトゥーシ ュ等の系譜。1970年代には「宇宙船地球号」に象徴されるエコロジー論が盛んに」
 「現在、人間社会が直面する危機には3つの局面がある。
 1つ目は『生存環境の危機』。環境、エネルギー、生物多様性等を含む。2つ目は『経済的危機と社会編成の危機』。資本主義経済の矛盾が現れつつある。そして3つめは『精神的(実存的)危機』。人間性が疎外されつつあり、生きる意味が問い直されている。これらが相互に関連し合って危機が増しているのが現状」
 「現代のグローバル経済は、商業資本主義から産業資本主義、そして金融資本主義(マネー、情報)へと歴史的に発展してきた。
 この間、一方では国連人間環境会議(1972、ストックホルム)、地球サミット(1992、リオデジャネイロ)等が開催され、地球環境問題に関する枠組みが提示されてきている」
 いったん説明はここまでとし、休憩を挟んで参加者との質疑応答、意見交換が行われました。
 参加者からは、資本主義の発展過程と脱成長論との関わりについて、あるいは気候変動枠組条約など環境レジームとの関連についても伺いたい等の質問。
160417_6_convert_20160419003835.jpg これらに対して古沢先生からは、
 「果てしない成長・拡大を目指す経済政策は、多様性を破壊し格差を拡大させる。
 経済の価値には GDP以外の要素がある。各論レベルでは資本主義の問題に警鐘が鳴らされ、シェアエコノミーや共生経済等が模索されているが、トータルなのオルタナティブの提示までは至っていない。
 環境・経済・社会の3つをバランスさせ、環境的適正と社会的公正を踏まえた経済発展が必要」との回答。
 「中国の経済成長志向を考えると、パリ協定には実効性があるか疑問」との質問には、
 「京都議定書にはペナルティの規定があったため、結局守れずに離脱がする国が相次いだ。今回のパリ協定は全加盟国が参加し、自主的に頑張ろう、定期的に発表し合おうという枠組み。自分だけ知りませんよ、という訳にはいかない」との評価。
 別の参加者からは「格差と貧困の問題を、どう脱成長の議論と結びつけていくか。貧困に苦しんでいる若者からすると、脱成長など勘弁してくれという思いもあるのではないか」との意見も。
 関連して私からは「諸外国と比べても日本は脱成長先進国。社会福祉や防災対策のために は一定の経済成長と税収増が必要では。アベノミクスの目標も実質2%に過ぎないことを考えると、「脱成長」は対抗軸になり得ないのではないか」と問題提起。
 これに対して高坂氏からは、「経済成長さえすれば何でも解決できるといった経済成長至上主義ではないものを目指すこと、価値観を転換することの重要性を『脱成長』という言葉で代表させている」とのコメント。
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 他にも会場からは様々な意見が出されました。
 「市民が勉強して主権を取り戻すことが必要。物々交換など暮らしも変えていくべき」とする女性。
 「これまで、このように概論的に学ぶ機会がなかったので有り難かった」とする若い女性と、「勉強だけではなく何か行動に移さないと世の中は変わらない。やれることからやっていきたい」とする若い男性(ご夫婦のようです)。
 被災地・東北で活動されているお二人の方も参加。
 「自ら勉強しようとしない人、勉強するきっかけのない人も多いのでは」との意見の一方、「都会と違い、被災地では人と人との繋がりを大事にする意識の高い人が多い」とのコメントも。
 「環境問題で自分たちでできることからと、東京で星空を見る運動をしている」という若い男性。
 アースデーに関連する取組の実行委員をされている女性からは、「牛肉は食材にするのに大量のエネルギーを使い、温暖化ガスも出すと聞くが」との質問。
 これに対して古沢先生からは「牛はゲップすることでメタンガスを出す。メタンガスはCO2より温室効果は高いものの量としては少ない」等のコメント。
 関連で私からは、「牛は本来、草で飼われていた。今回、大きな被害を受けている阿蘇の景観も放牧により支えられてきた。しかし効率性を求めるため海外からの輸入飼料で飼養されるようになり、環境面でも大きな負荷となっている。食べ物の由来に着目し食ベ物を選択することが、自分たちでできることのきっかけになるのではないか」との捕捉(この日は喋りすぎました)。
160417_8_convert_20160419003911.jpg 一方、長野のリンゴ農家の方からは「農村に入ってくる都会の若者もいる。二極分解しているのでは。農業が見直されている面もあるのでは」との意見。
 質問と意見交換を受けて、古沢先生からはまとめの説明。
 「K.ポランニーは社会経済システムの3類型を提示している。市場経済(自由・競争)システム、計画経済(調整、統制)システム、それに非貨幣(利潤)的経済システム。これら3類型をこれからの社会経済システムに適用することで、経済システムの根幹を再構築する必要がある」とのまとめがなされました。
 終了後は、古沢先生も交え有志数名で近くの中華理屋さんで議論の続き。
 本気で社会を変えようと活動されている方達ばかりで、迫力に圧倒されます。
 次回の脱成長ミーティング公開研究会は、5月中下旬頃、経済政策をテーマに開催する予定とのことです。
追記
 関連して、古沢先生から以下について情報提供がありましたので、リンクを貼らせて頂きます。
  資本主義再考研究会 公開研究会「資本主義はどこへ向かうか?」(2016.2/11)
   古沢先生報告「資本主義が転換する契機とは- 環境・開発レジーム形成の視点から」
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなったことから、現在、移行作業中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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