福島学トークショー in 駒場・番來舎

 2016年6月13日(月)。朝からの強い雨は夕方にはほぼ上がりました。
 東京・駒場東大前の一般社団法人 番來舎(ばんらいしゃ)へ。
160613_1_convert_20160614224811.jpg この日19時から開催されたのは、福島学 in 駒場・第6弾。開沼博先生と吉川彰浩さんによるトークショーです。
 お二人と竜田一人さん(漫画家)の共著による『福島第一原発図鑑』の出版記念も兼ねています。この日はお二人のサイン入りの本も購入することもできました。
 19時過ぎ、番場さち子さんの司会により開会(以下、文責は中田にあります)。
 まずは開沼先生から、
 「今回の本は3月頃の出版を想定していたが、事態が想定を超えて動き続けたため刊行が今まで遅れた。今日は本の説明は概略に留め質疑を中心にしたい。まずは吉川さんから自己紹介を」
吉川さん
 「元東電社員。社会に知られていることと実際に現場で起きていることの垂離を埋めたいと思い、東京電力を退職。現在は一般社団法人AFW(Appreciate FUKUSHIMA Workers)の代表として住民の方と一緒に廃炉に向き合う活動をしている。座学だけではなく視察の活動も継続的に行っている。
 現場は今も厳しい状況にあるが、良いこともある。それを外部に伝えていくため集大成の一つが今回の本」
開沼先生
 「自分は、この春から立命館大学准教授。東日本国際大学の客員教授、福島大学の客員研究員等を兼ねている。 2011年の『「フクシマ」論』以降、民間事故調での議論も含め、この問題に関わってきている」
 「現在行っているのは、課題の設定と解決を促す作業。その一つが福島学ゼミの取組み。できれは研究者を育てていきたいと考えているが、まずは行政やNP0職員等を対象に高いレベルで冷静に議論できる場を設定していきたい」
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 「今回の本はかなりのボリュームになった。なお足りない部分はあると思うが、取りあえずステレオタイプでない議論のスタート台に立つことができる本になった。言わば『エンサイクロペディア・オブ・イチエフ』」
160613_3_convert_20160614224911.jpg 「福島第一原発(イチエフ)については、これまでずっと理系の言葉で語られてきた。記者会見等で分厚い資料が配られても伝わらない。難しいことを分かりやすく説明していくことが不可欠」
 「本のポイントは、廃炉そのもの(オンサイト)と周辺地域(オフサイト)の未来を考えること。
 これまでの議論では、Opinion (意見) やJustice (正義) が、Fact (事実) やFairness (公正) に先行していた。何が起きているかを分かりやすく解説し、それをどう解釈し、どう伝えていくかを示すことによって、タブー化された言葉の空白地帯を埋めていきたい」
 「廃炉問題はやたら難しい。しかし、池の周りをぐるぐる回って石を投げるようなことではなく、自ら水の中に入って泳いで、水中がどうなっているかを見ていくことが必要。
  前著『はじめての福島学』が目指したものは、学問化、脱魔術化。ステレオタイプではないイメージを作るためのデータの整理から始めた。それを今回の本でも、知ってもらいたい『15の数字』 としてまとめてある」
 「残された課題はたくさんある。
 まず廃炉自体が困難な作業。中期的にはポスト復興バブルの12市町村をどうしていくか。長期的には汚染水の処理方法など社会的合意の形成」
160613_4_convert_20160614224933.jpg 「クラウドファンディングを活用した動画版の作成も考えている。多くの人にとって廃炉の問題は遠くにあり過ぎる。例えば500円でも寄付することで廃炉促進に関わることができることになれば、自分が立っている足元がイチエフと地続きであることを認識してもらえるのではないか。
 廃炉と関われる様々な回路を作っていくことが重要」
吉川さん
 「今も帰ることができない多くの避難者がいることが前提。自分もその1人。当事者として情緒的、感情的にはならず、忘れて欲しくないことを伝えていきたい。
 一方で、元東電社員として現場を預かり、事故を防げなかった人間としての責任は背負い続けていかなければならない。何とか双葉郡を、再び子ども達が笑える場所にしていきたいと思っている」
 「自分がやるべきことは、まず知る機会をつくること。今は答はないが、見つけていくことはできるという手応えは感じている。今回の本はボリュームもあり読み応えがありすぎるかも知れないが、じっくりと時間をかけて読んで、ぜひ感想や批判を頂きたい」
  その後、会場の参加者との間で意見交換。
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 前書きに『批評の本』とあるが誤解を生むのでは、との問に対する開沼先生の回答は、
160613_9_convert_20160614225512.jpg 「批評という言葉には、当事者性がなく批判ばかりしているというイメージがあるが、福島第一原発についてはこれまでステレオタイプ化された否定の言葉が多く、(本来の)批評的な言葉が必要」
 チェルノブイリと比較してどうかとの開沼先生に対する質問には、
 「当時の旧ソ連は途上国。周辺地域の状況は福島とは大きく異なる」との回答。
 煙突が倒れる危険性があるという話があるが、との問には吉川さんから、
 「実際に見てもらえば分かるが、格子状に補強されており直ちに安全性に問題はない。しかし錯びて一部切断している部分があるというリスクは認識されており、上部から解体することになっている」との答え。
160613_6_convert_20160614225017.jpg また、マスコミ関係者からの「吉川さんが伝えなければならないことを3つに絞ると何か」との問には、
 「数は限定できないが、まずは通常の廃炉の作業ではなく事故から始まったということ。それと当事者は複数いるということ(働いている人、被災者、規制当局など)。一部だけを切り出すべきではない。どれだけ人と向き合い、相手側に寄り添えるかが重要」
 廃炉に携わる人材育成についての質問には、吉川さんから、
  「高線量下の作業という特殊性を別にすれば、一般の工事と大きく変わらない。 特殊技術というよりは、廃炉は絶対に必要な仕事であるというマインドセットと、より良い未来のためにがんばれる人たちを育成していくことが重要ではないか」との回答。
 今回も熱心な質疑が行われました。
 引き続き、懇親会に。開沼先生も吉川さんも、多くの方が名刺交換等の列を作ってなかなか近づけません。
 何とか吉川さんには、先日の「視察」のお礼だけ申し上げることができました。
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 この日は、開沼先生と吉川さんのサイン入りの『福島第一原発廃炉辞典』(2016.6、大田出版)を入手することもできました。
 400頁ほどのほとんどがカラー刷り、豊富なイラストに漫画まで掲載されています。
 
 帯には、以下のように書かれています。
 「福島について考えることは、世界と日本の現在を考えることだ。福島第一原発(1F=いちえふ)を考えることは、私たちの家族や友だちの未来を考えることだ。私たちは考えることを放棄してはならない。だから私たちはまず調べることにした」
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 通読することで複雑な廃炉問題の全貌を把握できるだけではなく、座右に置き、ニュース等があれば関連する箇所を開くことによって、廃炉作業と周辺地域の現状についての理解を深めることができるという必携の本です。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなっていることから、現在、移行作業を検討中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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