【F.M.Letter No.104】

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◇◆◇ F. M.Letter −フード・マイレージ資料室通信 ◇◆◇

     No.104; 2016.10/15(土)[和暦 長月十五日]発行

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 カレンダーでは10月も半ば、和暦では長月半ばです。ようやく秋めい

てきました。一昨日は栗名月。ふっくらとした十三夜の月は黄色い栗の

形に似ています。いよいよ実りの秋が到来の予感です。

 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満

月の日)に配信している本メルマガ、今回は長月十五日の配信です。

 

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  F.M.豆知識

  食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるい

 は考えるヒントになるような話題を、具体的なデータに即して紹介し

 ていきます。

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 「近年における失業率の上昇とたんぱく質摂取量の減少」

 

 前回は近年、たんぼく質の摂取量が大きく減少している状況を説明し

ました。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/59_tanpaku.pdf

 

 ただし前回使用したデータは供給ベース(農林水産省「食料需給表」)

の数値でしたので、今回は、まず、改めて摂取ベースの数値(厚生労働

省「国民健康栄養調査」)を確認しておきます。

 これがリンク先の図60の上半分の折れ線グラフです。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/60_situgyo.pdf

 

 たんばく質の摂取量(1955=100)は、1995年には113.8まで増加した

後、2013年には94.0へと大きく減少しています(なお、2014年には94.7

へとやや増加に転じています)。

 これら近年におけるたんばく質摂取量の大幅な減少は、前回みた供給

ベースとほぼ同様の傾向を示しています(エネルギー摂取量についても

同様です)

 

 さて、前回紹介したように、近年におけるたんばく質摂取量(及び摂

取熱量)の推移が失業率と関連があるとの論評があります。

 そこで、試みに完全失業率のグラフを併記してみたのが図の下半分の

折れ線グラフです。

 

 196070年代はおおむね1%台で推移していた完全失業率は、80年代に

入って2%台へと上昇、さらに2000年代入ると45%台という高い水準で

推移しています。

 年齢階層別にみると、2024歳層では89%台、2530歳では67%

と、これら若い世代で特に失業率が高くなっています。

 

 これを先ほどのたんばく質摂取量等のグラフと見比べると、確かに、

完全失業率が上昇している1995年以降、たんばく質やエネルギー摂取量

が減少に転じていることが分かります。

 特に栄養摂取量が総じて多い若年層において失業率が上昇しているこ

とは、近年の経済情勢が栄養摂取にも影響を与えているという論調を補

強するデータのようにみえます。

 次回は、さらに詳しく考察してみたいと思います。

 

[出典、参考等]

 厚生労働省「国民健康・栄養調査」

  http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkou_eiyou_chousa_tokubetsushuukei_h26.pdf

 総務省「労働力調査」

  http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm

 FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)

  http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html

 

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  オーシャン・カレント 潮目を変える

  食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおら

 れる方達や、トピックスを紹介していきます。

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 農的社会デザイン研究所代表の蔦谷栄一先生については、前回のご著

書(「農的社会をひらく」2014.6、創森社)を含め、これまで本メルマガ

でも何度か紹介させて頂いていますが、今回は、蔦谷先生が山梨市牧丘

町で運営されている「みんなの家・農土香(のどか)」を取り上げさせ

て頂きます。

 

 ブドウ畑に囲まれた農業体験・田舎体験の拠点として「農土香」をオ

ープンされたのは2005年夏のこと。

 建物は3階建てで、元養蚕農家を改築したものを借り受けているそうで

す。1階には4部屋とダイニングルーム・台所があり、自炊ができます。

23階は間仕切りなしのオープンスペースで、雑魚寝であれば3040

の宿泊も可能とのこと。ちなみに3階は天井が低く宿泊専用スペースです。

 

 ここを蔦谷先生は、いつでも誰でも気軽に利用できるみんなの家

として運営されているのです。

 風呂やシャワーも完備していますが近隣には温泉もたくさんあります。

 

 ここでは様々な活動が行われています。

 例えば「いなか体験教室」は、隔月で子どもを対象に開かれているプ

ログラム。3月のジャガイモ植え、5月の田植え、7月のジャガイモ掘り、

9月のブドウ狩り・稲刈り、11月の森遊び、1月の餅つきなど、1年を通じ

て様々な農業体験や料理等の生活体験を行います。

 色々な経験・学びを通じて子ども達が自立していくことを期待してお

られるそうです。

 

 また、大人を対象にした「大人の農土香」は、地元ワイナリーの応援

も兼ねて“PIZZA & WINE”という形で毎月開催しています。

 これは、ワイン片手に石窯で焼いたピザを食べながら懇談・交流する

もので、時には地域医療等についての勉強会や演劇、自然散策等を織り

込んだ幅広い内容となっているそうです。

 

 農土香とは別に26年前に開墾された畑もあり、ご自身も奥様とともに

毎週末、自宅(西東京市)から通われ、自然農法による野菜作り等に取

り組んでおられるとのこと。

 

 先日(1089日)には「銀座農業政策塾」の皆さんとともに「農土

香」を訪問し、宿泊もさせて頂きました。

 丘の上から葡萄畑を畑を望む素晴らしいロケーションの中、先生がふ

だんお付き合いされ、ご著書の中にも登場される地域の方たちとお会い

して直接お話を伺うこともできるなど、得がたい貴重な経験をさせて頂

きました。

 

[参考] 

 農的社会デザイン研究所

  http://www.nouteki-design.com/

 みんなの家・農土香

  http://www.nouteki-design.com/business/417.html

 

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  ほんのさわり

  食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」

 だけを紹介します。

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 中村靖彦「日本の食糧が危ない」(2011.5、岩波新書)

 

 著者は1935年仙台市の生まれ。

 NHKの解説委員等として永く食や農業の分野について一般消費者等にも

分かりやすく情報発信してこられた方です。

 内閣府・食品安全委員会の初代委員を始めとする様々な公職も歴任され、

NPO法人「食材の寺子屋」の代表も務められています。

 

 その著者が東日本大震災を経験して、日本の食糧や農業の現状につい

て、強い危機感とともに考察したのが本書です。

 

 著者の「危機感」は日本農業の様々な面に及んでいます。

 例えば、担い手が不足し外国人労働者(研修生)に依存している野菜

の大産地、コメの「政治財」化(特別扱い)、農地面積の減少と「土地

公有化の議論」の欠如、食料自給率に対する圧倒的無関心など。

 

 そして「大災害が世の中を変えた。国内の食料供給についてきちんと

考えておく必要がある。日本をどんな国にしたいのかという議論が必要。

 食料について、エネルギーについて、日本にとって真の国益は何か、

悩みながら考えるべき時が来ているように思う」としています。

 

 さらに、日本の食料をどうするかは「政治家だけに任せておくことは

できない」とし「食料の安全保障は、私たち一人一人の心の中にあると

思う。政治家、官僚、企業人、そして消費者それぞれがいまどれだけ農

業への思いを抱いているだろうか」と訴えられているのです。

 

 本書で丹念に考察されている日本の食料と農業の「危機的な状況」は、

本書が書かれてから5年後の現在も全く解決されていません。

 むしろ状況はさらに深刻化しているとも言えます。

 

 新書という読みやすいスタイルですが、マスコミ等の立場で永く日本

農業について考察し情報発信してこられた著者ならではの、深く、かつ

バランスの取れた内容となっています。

 日本の食糧や農業について考える「入門書」としても有用な好著です。

 

 中村靖彦「日本の食糧が危ない」(2011.5、岩波新書)

https://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1105/sin_k591.html

 

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  情報ひろば

  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント

 の開催情報等をお届します。

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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報

 寺田本家蔵出しNight@フロマエカフェ(東京・西日暮里)

  http://food-mileage.jp/2016/10/02/

 

 ナツハゼ収穫祭
@
東京・檜原村 (10/04)

  http://food-mileage.jp/2016/10/04/

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には

 必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

 

 喜多方・山都フェア

 日時:(1010日(月)11:00)〜16日(日)17:00

 場所:農民カフェ/下北沢店(東京・世田谷区北沢2

 主催:農民カフェ/下北沢店

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/1811903185707200

 

 第10 土と平和の祭典

 日時:(1014日(金)17:0020:30、)

    15日(土)12:0020:0016日(日)10:0017:00

 場所:日比谷公園(東京・千代田区)

 主催:種まき大作戦
実行委員会

 (詳細、お問合せ等

  http://www.tanemaki.jp/

 

 SJFアドボカシーカフェ第46

  難民と生きるヨルダンと日本の支援現場から

 日時:1018日(火)18:3021:00

 場所:文京シビックセンター(東京・文京区春日14F

 主催:ソーシャル・ジャスティス基金(SJF

 (詳細、お問合せ等

  http://socialjustice.jp/p/20161018/

 

 poco a
poco
農園さんのサツマイモ掘り

 日時:1029日(土)9:49 16:24JR水郡線
静駅集合・解散

 場所: poco a poco農園(茨城・那珂市)

 主催:週末農風

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/1184996294895806/

 

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* 今夜のコツコツ小咄。

 「人をおだてるなら、ゴマの3粒も渡せばいいよ」

 「えっ、そうなの?」

 「ゴマ、スリーなんちゃって」

 

  注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、

   絶賛(?)投稿中です。

   https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7

 

* 次号No.105は、1030日(土)[神無月朔日]の配信予定です。

  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えています。

 読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

 

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて

 頂いています。いつもありがとうございます。

  http://www.lunaworks.jp/

 

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

 

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F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信ID;0001579997】 

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  発行者:中田哲也