【ほんのさわり】大江正章「地域に希望あり」


-大江正章「地域に希望あり:まち・人・仕事を創る」(2015.5、岩波新書)-

大江正章(ただあき)さんは行動派のジャーナリストにして出版社コモンズ代表。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表、全国有機農業推進協議会理事、NPO法人コミュニティスクール(CS)まちデザイン理事等も務められています。
去る11月5~6日のCSまちデザイン主催「福島県沿岸の有機農業生産者を訪ねる旅~原発事故を乗り越えて農の復興へ」の際には、同行して様々な解説をして下さいました。

本書には、その大江さんが「消滅する」とさえ言われている全国の中山間地域等に実際に足を運び、そこに住み、活動されている方たちから聞き取り調査をされた内容のエッセンスが凝縮されています。

大江さんは、「私たちはこれまでの社会のあり方と生き方を変えるしかない」とします。
すなわち「都市と第二次・第三次産業に偏重した経済成長路線から、農山漁村と第一次産業を重視した内発的発展路線」への転換です。セルジュ・ラトゥーシュのいう「脱成長」(経済成長のみを絶対的な指標としない考え方)と共通するもののようです。
なお、これら取組みは決して「もうひとつの社会」を目指すものではなく、自然と共生して生きてきた本来の社会を新たな知見や技のもとに発展させる営みとのこと。

そして、各地における住民主体の地域づくり活動、「地域に暮らしのセーフティネットをはりめぐらし、『お金の秩序と論理』から『いのちと暮らしの秩序と論理』へ転換する人々」の実例が豊富に紹介されています。

例えば群馬・南牧村(移住が増えてきた「消滅市町村」第一位の村)、島根・邑南町、旧弥栄村、旧柿木村(「A級グルメの取組み」等)、福島・会津地方と岐阜・石徹白地区(自然エネルギー)、宮城・旧北上町と福島・相馬市(漁業者とNGOの協働)、福島・旧東和町(ゆうきの里)、埼玉・小川町(地域循環型経済の誕生)等々。

さらに、これら地域を取材する過程で出会った印象的な言葉として、 「都会にしかないものは何もない。でも、田舎にしかないものはたくさんある」
「役割が明確になってきた。それはいろいろな人たちと新しい仕組みをつくっていくこと」
「私たちは新しい自治組織の創生をめざして、まちのルールを自分たちで決めてきた」
「地元の人が主役となってIターン者が入ってくる。そして両者の相乗効果が生まれている」等が紹介されています。

詳細なレポートを読んでいくと、これら成功している地域に共通しているのは多様な人たちがつながっていることであり、また、献身的なコーディネータが存在していることのようです。
地域づくり等に関心のある方にとっては、多くの具体的な示唆に富む好著です。

[参考]
コモンズ
http://www.commonsonline.co.jp/
【F.M.Letter No.108, 2016.12/13 掲載】
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