【ほんのさわり】宇根豊「農本主義のすすめ」

宇根豊『農本主義のすすめ』(2016.10、ちくま新書)
 
 著者は1950年生まれ。福岡県・農業改良普及員を経て二丈町(現糸島市)で新規就農、NPO法人 農と自然の研究所を設立して全国に先駆けて実施された「生きもの調査」を実施されるとともに、「百姓学」の提唱者としても著名な方です。

 その宇根さんが、農本主義の入門書を著されました。
 宇根さんは「そもそも農を進歩・発展させるという発想自体が間違い。農の価値は、在所で、天地自然の下で、百姓として生きていること自体にある」と断言されます。
 そして「農」を「天地に浮かぶ大きな舟」に例え、天地自然の恵みは農を土台(本)にしてこそ、受け取ることができるとしています。

 その農本主義の三大原理とは、近代化批判・脱資本主義化、国(愛国心)よりも在所(愛郷心)を優先、自然への没入こそが百姓仕事の本質という気付き、とのこと。

 また、「天地有情」が本書のキーワードの一つです。
 すなわち世の中は命あるもの、生き物で満ちており、人間も含め依存しあって一つの共同体で生きているということ。そもそも江戸時代にはNatureに当たる日本語はなく、「私たちの祖先は人間と自然を分けることがなく、人間も自然も含む『天地』という言葉しか持たなかった」とされます。
 それに対して、限りない成長を必要とする資本主義の傲慢さが「さまざまなところで天地自然を傷つけている」と批判しています。

 本書では橘孝三郎、権藤成卿、松田喜一ら代表的な農本主義者の事跡や言葉も豊富に紹介されています。
 ちなみに農本主義にあるファシズム等の印象は、戦後のレッテル貼りとのこと。

 本書は、農(「農業」ではなく)の本質をあぶりだしつつ、私たちの経済社会のあり方、あるいは文明そのものの未来を構想する真摯かつ痛切な問題を提起している好著です。
 果たして私たちは、宇根さんの言われるように「天地有情のあふれる生の流れに身を任せられる」でしょうか。

(参考)NPO法人 農と自然の研究所
   http://hb7.seikyou.ne.jp/home/N-une/