◇フード・マイレージ資料室 通信 No.118◇
5月10日(水)[卯月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 若返る林業就業者
◆ O. カレント 舘野廣幸さん(舘野かえる農場)
◆ ほんのさわり 飯田泰之ほか『地域再生の失敗学』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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季節は立夏(5/5)を過ぎ、いよいよ夏の訪れです。緑は濃くなり花々は咲き誇り、鳥たちは競うようにさえずる季節です。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は卯月十五日の配信です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。
-若返る林業就業者-
前回は、食料自給率が長期的に低下傾向にあるのに対し、木材自給率は近年、上昇に転じていることを紹介しました(もっとも水準としては、カロリーベース食料自給率よりも低いものとなっています)。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/04/72_mokuzai.pdf
今回は、林業に関するユニークな動きを示している指標を、もう一つ紹介します。
リンク先の図73は、産業別の就業者数に占める40歳未満の者の割合の推移を示したものです。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/05/73_40saimiman.pdf
総務省「国勢調査」によると、全産業の就業者に占める40歳未満の者の割合は、1985年には47%でしたが、その後は徐々に低下し、2015年には34%となっています。このように、日本は全体として就業者の高齢化が進んでいるのです。
農業については、1985年には16%と、もともと全産業平均に比べて低い水準でしたが、同様に低下傾向で推移し、2015年には12%となっています(なお、2005年以降は、農業の就業者数全体が減少する中でやや上昇)。漁業就業者についても同様の動きとなっています。なお、就業者には管理者や事務職等を含んでいることに留意が必要です。
これらに対して、林業の就業者に占める40歳未満の者の割合は、1985年の16%から2015年には26%にまで上昇しているのです。
この背景には、意欲ある若者を対象に林業に必要な基本的技術の習得を支援する「「緑の雇用」事業」が2003年から実施されていることもあると考えられます。
[参考]
総務省「国勢調査」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do?tocd=00200521
林野庁「「緑の雇用」事業」
http://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/koyou/03.html
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
http://food-mileage.jp/category/mame/
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。
-舘野廣幸さん(舘野かえる農場)-
舘野廣幸(たてのひろゆき)さんは1954年、栃木・野木町生まれ。
山形大学農学部を卒業後に実家の農業を継ぎ、1992年頃から稲作と原木しいたけを中心とした有機農業に取り組んでおられます(原木しいたけは2011年以降休止中)。現在、日本有機農業研究会理事、埼玉大学非常勤講師等を務められ、『有機農業・みんなの疑問』(2007、筑波書房)等の著作もあります。
農家の長男に生まれた舘野さんは、実はもともと農業が好きではなかったとのこと。
家業を継ぐのが運命と半ばあきらめながら漠然と農作業を続けていたある年(約30年前)、病気が発生して稲の育苗に失敗。その翌年には何種類もの農薬を使用して消毒したものの、またも苗は壊滅。それで必死に勉強し、病気の原因は菌ではなく育てる環境にあることを知り、わらにもすがる思いで農薬を使わずに栽培したところ、病気が少なくなり光明が射してきたとそうです。
これが、舘野さんが有機農業に取り組むきっかけとなったとのこと。
一般的に有機農業とは、「科学的に合成された肥料や農薬、あるいは遺伝子組換え技術を使用しない」農業のことです(「有機農業の推進に関する法律」第2条)。
しかし舘野さんによると、有機農業とは「いのちの働きによっていのちを生み出す農業」です。それは、単に農業分野にとどまるものではなく、「いのちが本来持っている共生原理という、分かち合いによって生かされる道を選択しようとするもの」であり、「生命の法則と宇宙(自然)の法則に沿った世界に、農業や社会や生き方を変えることにもつながる、広大で深遠な世界観の転換」を促すものとのことです。
つまり有機農業とは、哲学(生き方)そのものなのです。
また、舘野さんは、田中正造や宮沢賢治の研究者でもあり、栃木や東京で連続講座等も開催されています。
去る4月28日(金)には東京・本郷で「みんなの有機農業公開講座-宮沢賢治の有機世界を求めて」(日本有機農業研究会主催)が開催されました。これまで毎月、宮沢賢治の童話を1話ずつ取り上げてきた連続講座も100回目の区切りを迎え、最終回のテキストは『農民芸術概論綱要』でした。
舘野さんは「世界がぜんたい平和にならないうちは個人の幸福はありえない」「個人の意識は、集団、社会、さらには宇宙と進化する」「永久の未完成、これ完成である」「人生にも農業には完成はない。完成に近づくために永続的に努力する、人事を尽くすことこそ永遠の未完成」等について解説されながら、「100年前の賢治の主張は、これからの100年の道しるべである」と説明されました。
なお、東京での連続講座は一区切りとのことですが、今後も不定期に開催して頂けることを期待しています。
舘野さんは、ご自身が経営する農場を「舘野かえる農場」と命名されています。
有機農業に転換された時、それまで隠れ潜んでいた虫や鳥が姿を現し、田んぼや畑は生き物たちとの交流の場になっていったそうです。有機農業とは、さまざまな生き物と共にいのちの輝きを実感する「楽しい時間」であることを、この名前は現しているようです。
舘野さんは、「いのちの舞台としての田畑に、できるだけたくさんの、そしてできるだけ多様いのちが、できるだけ幸せに暮らすことができる『有機社会』、すなわち『いのち優先の社会』創りの基礎」であるという有機農業を、自ら実践・証明されているのです。
[参考]
舘野かえる農場
http://tatenokaerufarm.blogspot.jp/
「みんなの有機農業公開講座-宮沢賢治の有機世界を求めて」
(第100回・最終会、2017.4/28)の模様(拙ブログ)
http://food-mileage.jp/2017/05/01/blog-15/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
http://food-mileage.jp/category/pr/
◆ ほんのさわり
食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。
-飯田泰之、木下斉、川崎一泰、入山章栄、林直樹、熊谷俊人
『地域再生の失敗学』(2016.4、光文社新書)-
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334039158
1975年生まれの気鋭のマクロ経済学者・飯田恭之氏が、5人の有識者(プレーヤー、研究者、首長)との対談等を通じて、今後の地域再生策について鋭く考察しています。
著者は「地域再生」を、地域における平均所得が向上することと定義づけています。
所得向上がなければ地域の存続すら危ぶまれるとのこと。一方、地域の平均所得が増加することは、文化や伝統、コミュニティ再生等より広義の地域再生にとっての必要条件であるとしています。
その上で、これまでの国や自治体主体による振興策は基本的に失敗であったと評価。確かに工場・企業誘致は地域の雇用と所得確保に貢献したものの、「いかにして稼ぎを地域外に逃さないか」という内発的な循環経済の視点が乏しかったとのこと。
さらに従来型の振興策は、世界経済の大きな流れの中で、ますます効果が期待できなくなっているとします。
現在、多くの先進国では人口が減少し始めていることから、財・サービスへの需要は単純な「モノ」ではなく、そのモノに内在するアイデアやデザイン、ストーリー等(「コト」)に向かっている。
しかし、何が「稼げる」商品になるかは分からない。したがって「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」よろしく多くのアイデアが生み出されることが不可欠。そのアイデアの数は人間の数に強く依存すると同時に、人と人とが出会い、刺激を受けるコミュニケーションから生まれる。
そのために一定の人口集積と多様性を維持するとともに、地域内でクリエイティブな発想が生み出されやすい環境を整備していくことこそが決定的に重要と分析しているのです。
一方、現在の東京は人口密集によるデメリット(長時間通勤等)が顕在化しているともします。
これからは知の集積が進む都市と、その周辺でデフォルト・モード・ネットワーク(ひらめきや思いつきをもたらす仕組み)の状態がつくれる地方都市との間を行き来する人が増えるのでは、と予測しています。
著者は「書き手としては悲観論は楽でお手軽、しかもかっこいい」としつつも、あえて「では、どうするのか」という観点から、多くの刺激的な見方を提示してくれています。
[参考]
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 熊本地震復興支援コンサート~あれから一年~(4/27)
http://food-mileage.jp/2017/04/27/blog-14/
○ 宮沢賢治の有機世界を求めて(最終回)(5/1)
http://food-mileage.jp/2017/05/01/blog-15/
○ 2017GEW前半なあなあ日記 (5/4)
http://food-mileage.jp/2017/05/04/blog-16/
○ 屋敷林 お別れ製材ワークショップ(5/8)
http://food-mileage.jp/2017/05/08/blog-17/
▼ クラウドファンディングのご紹介
○ みんなでつくろう! ぼくらの学校(Redyfor)
-あの日から不登校になった子どもの為にフリースクールを創りたい-
東日本大震災の翌年から陸前高田に住まわれ、被災された母子家庭等への支援を継続されている寝占理絵さんのプロジェクトです。
私もささやかながら応援させて頂くことにしました。
https://readyfor.jp/projects/koodomotatino31
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ ジャガイモの土寄せ&山菜採り
日時:5月13日(土)9:30~16:30
場所:山梨・上野原市西原(さいはら)地区
主催:しごと塾さいはら
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/296590717448148/
○ Bbq&農作業&交流会@お台場
日時:5月13日(土)10:00~15:30
場所:都会の農園 バーベキューテラス(東京・江東区青海1)
主催:乃庭
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1326182047431257/
○ 八王子の江戸東京野菜「川口エンドウ」を知る講座&ランチ会
日時:5月14日(日)10:30~13:00
場所:アミダステーション(東京・八王子市東町3)
主催:多摩・八王子江戸東京野菜研究会.
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1917655285185107/
○ イラク緊急報告と対談 高遠菜穂子氏×雨宮処凛氏
-私たちは今どこに立っているのか
日時:5月22日(月)18:30~21:00
場所:専修大学神田キャンパス1号館(東京・千代田区神田神保町3)
主催:ヒューマンライツ・ナウ
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1316891368359809/
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*今号のコツコツ小咄。
「連休は財散しちゃったな。まるで中村のホームランだよ」
「えっ、どういうこと?」
「白球(薄給)が消えましたから」
(注:5/7、メットライフドームでのおかわり君の場外弾は強烈でした。)
注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
拙ウェブサイトにも掲載しています。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.119は、5月26日(金)[皐月朔日]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
http://food-mileage.jp/category/blog/
発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/