【オーシャン・カレント】舘野廣幸さん(舘野かえる農場)

舘野廣幸(たてのひろゆき)さんは1954年、栃木・野木町生まれ。
 山形大学農学部を卒業後に実家の農業を継ぎ、1992年頃から稲作と原木しいたけを中心とした有機農業に取り組んでおられます(原木しいたけは2011年以降休止中)。現在、日本有機農業研究会理事、埼玉大学非常勤講師等を務められ、『有機農業・みんなの疑問』(2007、筑波書房)等の著作もあります。

農家の長男に生まれた舘野さんは、実はもともと農業が好きではなかったとのこと。
 家業を継ぐのが運命と半ばあきらめながら漠然と農作業を続けていたある年(約30年前)、病気が発生して稲の育苗に失敗。その翌年には何種類もの農薬を使用して消毒したものの、またも苗は壊滅。それで必死に勉強し、病気の原因は菌ではなく育てる環境にあることを知り、わらにもすがる思いで農薬を使わずに栽培したところ、病気が少なくなり光明が射してきたとそうです。
 これが、舘野さんが有機農業に取り組むきっかけとなったとのこと。

一般的に有機農業とは、「科学的に合成された肥料や農薬、あるいは遺伝子組換え技術を使用しない」農業のことです(「有機農業の推進に関する法律」第2条)。
 しかし舘野さんによると、有機農業とは「いのちの働きによっていのちを生み出す農業」です。それは、単に農業分野にとどまるものではなく、「いのちが本来持っている共生原理という、分かち合いによって生かされる道を選択しようとするもの」であり、「生命の法則と宇宙(自然)の法則に沿った世界に、農業や社会や生き方を変えることにもつながる、広大で深遠な世界観の転換」を促すものとのことです。
 つまり有機農業とは、哲学(生き方)そのものなのです。

また、舘野さんは、田中正造や宮沢賢治の研究者でもあり、栃木や東京で連続講座等も開催されています。
 去る4月28日(金)には東京・本郷で「みんなの有機農業公開講座-宮沢賢治の有機世界を求めて」(日本有機農業研究会主催)が開催されました。これまで毎月、宮沢賢治の童話を1話ずつ取り上げてきた連続講座も100回目の区切りを迎え、最終回のテキストは『農民芸術概論綱要』でした。
 舘野さんは「世界がぜんたい平和にならないうちは個人の幸福はありえない」「個人の意識は、集団、社会、さらには宇宙と進化する」「永久の未完成、これ完成である」「人生にも農業には完成はない。完成に近づくために永続的に努力する、人事を尽くすことこそ永遠の未完成」等について解説されながら、「100年前の賢治の主張は、これからの100年の道しるべである」と説明されました。
 なお、東京での連続講座は一区切りとのことですが、今後も不定期に開催して頂けることを期待しています。

舘野さんは、ご自身が経営する農場を「舘野かえる農場」と命名されています。
 有機農業に転換された時、それまで隠れ潜んでいた虫や鳥が姿を現し、田んぼや畑は生き物たちとの交流の場になっていったそうです。有機農業とは、さまざまな生き物と共にいのちの輝きを実感する「楽しい時間」であることを、この名前は現しているようです。
 舘野さんは、「いのちの舞台としての田畑に、できるだけたくさんの、そしてできるだけ多様いのちが、できるだけ幸せに暮らすことができる『有機社会』、すなわち『いのち優先の社会』創りの基礎」であるという有機農業を、自ら実践・証明されているのです。

[参考]
 舘野かえる農場
  http://tatenokaerufarm.blogspot.jp/
 「みんなの有機農業公開講座-宮沢賢治の有機世界を求めて」
  (第100回・最終会、2017.4/28)の模様(拙ブログ)
  http://food-mileage.jp/2017/05/01/blog-15/

F.M.Letter No.118, 2017.5/10】掲載