【メルマガ】F.M.Letter No.122

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.122◇
 2017年7月8日(土)[和暦 閏皐月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 消費者への直接販売に取り組む農家
◆ O. カレント かんちゃんファーム体験農園
◆ ほんのさわり 國分功一郎『暇と退屈の倫理学』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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 梅雨が明けないうちに台風3号が九州~関東を縦断。その後も豪雨により、北九州を中心に大きな被害が発生しています。年々激しくなるかのような自然には、身をすくめるばかりです。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は閏皐月十五日の配信です。前回の「小農」特集からの流れを踏まえつつ、生産者と消費者の直接的なつながりについて考えてみました。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題やデータを毎回コツコツと紹介していきます。

-消費者への直接販売に取り組む農家-

2015年農林業センサスでは、農業生産関連事業を行っている農業経営体数についても把握しています。ここでいう農業生産関連事業とは、農産物の加工、消費者への直接販売、体験農園、観光農園、農家民宿、農家レストラン等のことで、これらいわゆる「六次産業化」は所得の向上と安定化に貢献するものと注目されています。

農産物の加工に取り組んでいる経営体は、全体の2%です。
 これを農産物販売金額規模別のグラフに表したものがリンク先の図77の青い棒グラフで、規模が拡大するにつれて加工に取り組んむ経営体の割合が上昇していることが分かります。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/07/77_kanren.pdf
 これは、農産物加工に取り組むためには加工施設や機器など設備投資が必要であるため、ある程度規模が大きな経営体でなければ取り組むことが困難であるという事情を反映しているものと思われます。
 一方、消費者への直接販売を行っている経営体は全体の19%(緑色の棒グラフ)となっていますが、これを農産物販売金額規模別にみると、販売金額1000万円程度までは上昇しているものの、それ以上の階層では減少しています(1億円以上では再び上昇)。
 さらに、赤い折れ線グラフは、出荷先別にみて「消費者への直接販売」が売上げ1位となっている経営体の割合です。これによると、規模の小さな農家ほど消費者に直接出荷しているウェイトが大きい状況がみて取れます。

このように、農産物を消費者に直接販売する取組みは比較的小規模の農家で多く行われています。言い換えれば、消費者と直接つながることについては、比較的規模の小さな経営の方が取り組みやすいことを表しているのかも知れません。

[参考]
 農林水産省「2015年農林業センサス
  農林業経営体調査報告書-経営形態別経営統計(個別経営)」
  http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001161744 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。

-かんちゃんファーム体験農園-

池袋から約1時間半という通勤圏ながら、丘陵に囲まれた緑豊かな地である埼玉・鳩山町に「かんちゃんファーム体験農園」はあります。
 農園主の閑野智道(かんの・ともみち)さんは埼玉・北本市のご出身。農業を志して公務員を退職、北海道や埼玉・小川町、地元の鳩山町での農業研修を経て2013年1月にこの地で新規就農されました。
 「自然の恵みから生まれた旬の農産物を通じて幸せの輪を広げたい」というモットーの下、約1.3haの農地で少量多品種の野菜等を有機栽培されています。近隣の天然原料(乗馬クラブの馬糞、豆腐屋のおから等)を用いた堆肥作り・土作りにも取り組んでおられます。
 生産された野菜等は、飲食店や個人への直売(宅配)のほか、毎週日曜日には仲間と開設した直売所(ときのこや)でも販売されています。

そのかんちゃんファームが、体験農園としての活動を本格化しつつあります。
 来る7月17日(月・海の日)には、「体験農園微完成」と銘打ったバーベキューパーティーを、11月5日(日)には正式なオープニングパーティーを計画されているとのこと。
 かんちゃんファーム体験農園の特徴は、サポーター制度をとっていることです。活動に関心のある方はウェブサイトから誰でも申し込むことができます。年会費も作業ノルマもありませんが、サポーター制度をとることでイベントを一過性なものに終わらせず、「顔の見える関係」が継続することが期待されるのです。

上記のイベント等を主に企画・主催されているのは、閑野さんのほか、東京・葛飾区在住の2人の女性。
 そのお一人、横山知代さんは週一回開催している「立石マルシェ」でかんちゃんファームの野菜を販売しているほか、「消費者の皆さんに畑に来て農作物の成長する様子を見て、収穫して楽しんでもらいたい」との閑野さんの思いを受け、閑野さんと協働して様々なイベントに関わっておられるのです。
 個人どうしの「顔の見える関係」に基づく取組みは、小規模ですが強靭です。このような取組みが各地に広がっていけば、現在の農業や食べものが抱える多くの問題点を解決(担い手の確保、耕作放棄地の再生、自給率の向上、食の安心の確保等)していく糸口になることが期待されます。

[参考]
 かんちゃんファーム体験農園(ウェブサイト)
  http://taiken-farm.com/
 かんちゃんファーム体験農園(フェイスブック)
  https://www.facebook.com/eventkanchanfarm/
 有機農家の直売所・ときのこや
  https://tokinokoya.jimdo.com/
 立石マルシェ
  https://www.facebook.com/立石マルシェ-872852929515857/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(増補新版、2015/3、太田出版)-
  http://www.ohtabooks.com/publish/2015/03/07000000.html

読書の醍醐味の一つは思いがけず刺激的な本に巡り会うことです。本書も奇抜なタイトルにひかれて読み始めたのですが、ぐいぐいと引き込まれました。
 440ページに及ぶ哲学・倫理学書を簡潔に紹介する力量はありませんが、ポイントは概ね以下のようなものです。
 人間は部屋でじっとしていられないため、熱中できる気晴らしを求める。それが全ての不幸の源泉となる(ファシズムやテロリズムにさえ通じる)。現代の消費社会はそこにつけ込んで、現代人は「終わりなき消費のゲーム」を強要され、その結果、私たちは「非人間的状況」(疎外)に陥ってしまっている。
 この状況を脱するには、人間らしく「退屈」を楽しむしかない。

そして著者は「楽しむためには訓練が必要」とし、その身近な例として「食」をあげているのです(p.356~)。
 その部分を引用すると
 「たしかに私たちは毎日食べている。しかし、実は食べてはいないかも知れない。単なる栄養として物を口から摂取しているかも知れない。あるいは、おいしいものをおいしいと感じているのではなくて、おいしいと言われているものをおいしいと言うために口を動かしているかも知れない。
 もしそうならば、私たちは食べることができるようにならねばならない」

また、ファストフードとスローフードの違いについても説明されています(p.411~)。
 ファストフードには含まれている情報が少ないから早く食べられる(インフォ・プア・フード)一方、味わうに値する食事には大量の情報が含まれているため、身体で処理するのに大変な時間がかかり、その結果としてスローになる(インフォ・リッチ・フード)とのこと。
 情報量が少ない料理を、いくらゆっくり食べても何の意味もないと断じています。

食に含まれる「情報」とは、見た目や価格、味や香り、栄養分等だけではなく、その食品がどこで、誰によって、どのように作られたかという素性や履歴も含まれるものと思われます。
 私は、そのような「情報」をもしっかりと噛み分けられるような食事を心がけていきたいと思います。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ かんちゃんファーム訪問記(埼玉・鳩山町)(6/16)
  http://food-mileage.jp/2017/06/26/blog-27/

○ 「街の木ものづくりネットワーク」(マチモノ)設立記念収穫祭(7/1)
  http://food-mileage.jp/2017/07/01/blog-28/

▼ 筆者が参加予定または関心のある公開イベント等を勝手に紹介します。
  既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 福島からローカルSDGsを考える~持続可能な食と農の再生のために~
 日時:7月11日(火)18:30~20:30
 場所:地球環境パートナーシッププラザ(東京・渋谷区神宮前5)
 主催:国際青年環境NGO A SEED JAPAN
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/203445773513778/

○ 比企ツーリズム(歴史)無料講演会「武蔵武士の背景と舞台」
 日時:7月14日(金)19:00~21:00
 場所:豊島区地域活動交流センター(東京・豊島区西池袋2)
 主催:ECOM エコ・コミュニケーションセンター
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/111514142806373/

○ ベグライテン7月例会-本田由紀先生「日本社会の現状と課題」
 日時:7月16日(日)14:00~16:00
 場所:上智大学四谷キャンパス12号館3F(千代田区紀尾井町7)
 主催:ベグライテン
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/begleiten2/photos/a.183850321806438.1073741828.164523850405752/671837153007750/

○ 里山で雑穀をつくろう!プロジェクト(3)
  -キビ・アワに“やた(支柱)”を入れる
 日時:7月22日(土)9:30~16:00
 場所:びりゅう館(山梨・上野原市西原)集合
 主催:雑穀の村復活プロジェクト
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/242048909628921/

○ 井之口喜實夫さん「江戸東京野菜の栽培と野菜栽培に対する向き合い方」
  (ベテラン農家は語る vol.1、講師はミョウガタケ栽培の第一人者)
 日時:7月22日(土)13:30~16:00
 場所:JA東京南新宿ビル3階(渋谷区代々木2-10-12)
 主催:江戸東京野菜コンシェルジュ協会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.edo831.tokyo/kouza/2033#more-2033

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*今号のコツコツ小咄。
「インドの鶏料理は、調理する手順が大切なんです」
「そうなんですか」
「タンドリー(段取り)チキンだけに」

注:「コツコツ小咄」は拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
  拙ウェブサイトにも掲載しています。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.123は、7月23日(日)[和暦 水無月朔日]の配信予定です。
  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/