【ほんのさわり】岩手県農村文化懇談会編『戦没農民兵士の手紙』

岩手県農村文化懇談会 編『戦没農民兵士の手紙』(1961/7、岩波新書)

1950年代末、岩手県農村文化懇談会は、戦争で亡くなった農家出身兵の手紙を収集する運動に着手しました。それは、日本の歴史の上に、異郷で戦死した若い農民の「たましい」による戦争証言を加えたいという意図からでした。
 集められた手紙は、岩手県内を中心に全国から2,873通(728人)。本書には、その一部が解説抜きで掲載されています。
 手紙のあて先は、両親(主に父親)、兄弟、あるいは妻、幼い子ども。戦争の辛さや戦局の厳しさに触れているものはほとんどなく(軍による検閲もありました)、両親や親戚、家族を労わる内容のものがほとんどです。

また、季節ごとの留守宅での農耕への配慮や、農作業に携わる家族への思いやりなど、農民ならではの記述もあります。
 「軍隊も忙しい時もあるけれど、家の忙しさよりはるかに楽です。朝の起床は6時、農村だったら恥ずかしい」「家の方でも田かき頃だ。山で鳴くカッコ鳥と競争して起床し、ずいぶん忙しい目に合わされた」(岩手・湯田村、小作三反の農家の長男、1945年4月ブーゲンビル島で戦死。24歳)
 「家の方も晩秋蚕で忙しく非常時ですね。本当に申し訳ないです」(埼玉・吉岡村、自小作農家の次男、1945年千葉・茂原市で戦死、19歳)
 「朝は暗い中から、夕は星をみるまでせっせと働くお前の姿が目に浮かぶ」(岩手・花泉町、自小作農家の長男、1945年2月フィリピンにて戦死。27歳)

本書は、「現代という時代が自由で、民主的であるというならば、そのことはこのような若者の血にぬれた生けにえのうえに咲いていることを噛みしめること」の大切さは、「黒い雲のようなものがおそいかかっている民族の今の時点で、いくら強調されても、すぎることはないであろう」と訴えています。
 本書が刊行されたのは1961年7月。大学入学の翌年(1983年)に購入した私の蔵書も、だいぶ黄ばみ、傷んできました。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

F.M.Letter No.125, 2017.8/22配信】掲載