【メルマガ】F.M.Letter No.129

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.129◇
 2017年10月20日(金)[和暦 長月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識  新規参入者が就農した理由
◆ O. カレント  こじまんさん(山梨・北杜市)
◆ ほんのさわり 垣谷美雨『農ガール、農ライフ』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 秋の土用入り。今朝も冷たい時雨が落ちています。季節はずれの台風も接近。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は長月朔日の配信です。新規就農を特集します。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるようなデータの断片を、毎回一つずつ、コツコツと紹介していきます。

-新規参入者が就農した理由-

一般社団法人 全国農業会議所・全国新規就農相談センターは、2017年3月、「新規就農者の就農実態に関する調査結果-平成28年度」を公表しました。1996年度に最初の調査が行われて以来、6回目となります。
 都道府県農業会議や農業委員会等が選定した全13,282名の新規就農者を対象としたアンケート調査で、有効回収数は新規参入者(非農家出身者)2,370名、親元での 就農者2,007名です。

調査項目は、就農の経緯、農業経営の状況、地域農業や地域活動との関わりなど多岐にわたっていますが、ここでは新規参入者の「就農の理由」についての調査結果について紹介します。
 新規参入者が就農した理由(3つまで選択、リンク先の図84)をみると、「自ら経営の采配を振れるから」 が52.3%と全ての選択肢のうちで最も多く、「農業はやり方次第でもうかるから」も38.2%となっているなど、経営に関する理由を挙げる者が多くなっています。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/10/84_shunoriyu.pdf

また、「農業が好きだから」が40.4%、「自然や動物が好きだから」が18.8%など、自然や環境に関する理由を挙げる者も多くなっています。

これらを過去の結果と比較すると、「自ら経営の采配を振れるから」という回答は前々回 (2010年度)が33.7%、前回(2013)が45.8%であるのに対して今回は52.3%へと上昇しており、「農業はやり方次第でもうかるから」との回答も19.0%→32.3%→38.2%と上昇しているのです。
 一方、「農業が好きだから」との回答は微増、「農村の生活(田舎暮らし)が好きだから」は減少しており、相対的に「自然・環境」よりも「経営」を重視する傾向が近年の特徴です。

なお、これらの傾向は30歳代または40歳代層において特に顕著となっています。

[出典等]
 (一社)全国農業会議所・全国新規就農相談センター
  「新規就農者の就農実態に関する調査結果-2016年度」(2017.3)
   https://www.nca.or.jp/Be-farmer/statistics/pdf/OChagC5X8b3V3NsIcbsm201704071333.pdf
 
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。

-「こじまん」さん-
 「こじまん」さん(女性)は愛知県出身。今年の春、20年近く勤めた大手印刷関係の会社を退職して山梨県に移住し、就農を目指して研修(職業訓練)中です。

もともと農業にはそれほど興味は無かったというこじまんさんですが、10年ほど前に歩き旅で四国八十八カ所巡りをした際、「お接待」で頂いたおむすび等の美味しさと同時に力の源になることに感動。
 これをきっかけに、食べものや、それをつくる農業に関心を抱くようになったそうです。

その後、千葉・鴨川市の棚田での米づくり、東京・檜原村でのゴマ栽培、品川での野菜マルシェ等の活動に積極的に参加するなか、農業に対する関心がさらに強まっていきました。
 そして昨年、本格的に農業を始めたいと一念発起、今年3月には山梨・北杜市に移住、4月から山梨県立農業大学校に通っています。

山梨県立農業大学校は、農業改良助長法に基づく農業後継者育成機関として1970年に開設、2008年からは学校教育法による専門学校ともなり、山梨県の農業・農村を支える人材を育成している教育機関です。
 こじまんさんが通っているのは、新規就農や農業法人への就職を志す人を対象とした9ヶ月間の職業訓練農業科(有機農業コース)。座学と実習により、生産技術、経営管理、マーケティングなど実践的な知識を学んでいます。

すでに住居と、小面積ながら農地も手配済みとのこと。
 学業のかたわら、耕作放棄されていた農地の開墾や、しばらく人が住んでいなかった古民家(空き家バンクを活用)の片付けに汗を流しているそうです。
 ホップの栽培にも取り組み始めました。かつてこの地で作られていた「かいこがね」という品種です。地元の方から「次の世代の人がホップを作りたいと言ってくれて嬉しい」と言われた時には、思わず涙腺が緩んだそうです。

山梨県の中でも北杜市は、特に新規就農者が多い地域。こじまんさんは先輩達の力も借りながら、明春には農業の担い手としての第一歩を踏み出します。
 行動力があり、朗らかな性格のこじまんさんの奮闘を、応援していきたいと思います。

[参考]
 専門学校 山梨県立農業大学校
  https://www.pref.yamanashi.jp/noudai/

ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-垣谷美雨『農ガール、農ライフ』(2016.9、祥伝社)-
 http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396635060

32歳の水沢久美子は、派遣ギリに遭ったその日に、何年も同棲していた相手から突然別れを切り出されます。
 絶望の底に落ち込むなか、偶然、放映されていたTVの「農業女子特集」に触発されて農業を目指すことを決意。さっそく農村部に引っ越して農業大学校に入学、仲間とともに研修を受け、充実した日々を送ります(ここまでのストーリー展開は、やや安易とも感じられました)。

ところが、いざ就農しようという段階になって、久美子の前に多くの壁が立ちはだかります(この辺りから物語は生々しいリアリティを帯びてきます)。
 市主催の就農説明会に出てきた担当者はヤル気がなく(「農業をやりたいなら農家の嫁にいくのが一番」とアドバイス)、親切だった研修先の農家は肥料や農薬の量もカン頼り、農地をもてあましているはずの高齢農家からは「どこの馬の骨か分からない者に農地を貸せるか」と門前払いされます。
 自分を商品(メス)としてアピールするだけの「婚活パーティー」、大家族の農家には根強い男尊女卑の考え方が根強く残っていること等も描かれます。
 ようやく借りられた農地で野菜をつくっても、手間賃を賄えるだけの収入も得られません。

それでも地元の女性たちや仲間の支援もあり、幾多の試練を克服する中で、人の幸せを素直に喜ぶことができなかった久美子は、「自分の力で暮らしを切り拓いていく方が、性格的に向いているのだろう。大変だけど面白いもの。たった一度の人生なんだし」と自らを肯定するのです。
 新規就農された(しようとしている)全ての「農業女子」の皆さんに、エールを送りたくなる本です。

[参考]
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ from a & e [フロマエカフェ][10/4]
 http://food-mileage.jp/2017/10/04/blog-43/
○ 稲刈り@新潟・上越市大賀[10/7]
 http://food-mileage.jp/2017/10/07/blog-44/
○ 芋大明神、棡原の獅子、前夜祭[10/14]
 http://food-mileage.jp/2017/10/14/blog-45/
○ 第26回 西原ふるさと祭り[10/15]
 http://food-mileage.jp/2017/10/15/blog-46/
○ 市民講座「みんなで考える『食』の未来」(小金井市)[10/18]
 http://food-mileage.jp/2017/10/18/blog-47/

▼ 筆者が説明者となることを予定しているセミナー等です。
 参加を希望される方等がおられれば、主催者等にお問い合せ下さい。

○ フード・マイレージ-あなたの食が私たちの社会を変える
 日時:11月10日(金)19:00~21:00
 場所:番來舎(東京・目黒区駒場1)
 主催:番來舎
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/108282553198782/

○ 江戸東京野菜コンシェルジュ育成講座総合コース(第7期、3日目)
「フード・マイレージと地産地消」「グループワークショップ」
 日時:11月11 日(土)10:30~16:30[3日目]
 場所:JA 東京南新宿ビル(JR新宿駅南口より徒歩4分)
 主催:NPO法人江戸東京野菜コンシェルジュ協会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.edo831.tokyo/kouza/2111

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ ふくしま再生の会 第16回活動報告会
 日時:10月22日(日)15:00~18:00
 場所:東京大学弥生講堂アネックス(東京大学農学部正門)
 主催:ふくしま再生の会
 (詳細、お問合せ等↓)
  http://www.fukushima-saisei.jp/

○ 共奏キッチン♪@自由が丘シェア奥沢78
 日時:10月23日(月)18:00~22:00
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2)
 主催:共奏キッチン
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/2032886730276782/

○ 経済学っぽい思考の技術
 日時:10月24日(火)19:00~20:30
 場所:明治大学駿河台キャンパス(東京・千代田区神田駿河台1)
 講師:飯田 泰之
 主催:明治大学リバティアカデミー
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://academy.meiji.jp/course/detail/3865/ 

○ 都市農山漁村交流しごと塾「田舎でくらすしごとをつくる」2
  作物をつなぎ食と文化を保つ 循環的農林業を
 日時:10月26日(木)9:30東武東上線小川町駅前集合
 場所:がんばれ!子供村(東京・豊島区雑司が谷3)
 お話:冨澤太郎さん(山梨・上野原市西原、やまはた農園)
 主催:ECOM エコ・コミュニケーションセンター
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/135010430578128/

○ 教会で考える、原発神話からの「再生」
 日時:11月1日(水)18:30~21:00
 場所:日本福音ルーテル東京教会(東京・新宿区大久保1)
 主催:認定NPOまちぽっと
 (詳細、お問合せ等↓)
  http://machi-pot.org/modules/info/index.php?page=article&storyid=150

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*今号のコツコツ小咄。
「天明の飢饉の際に導入されたジャガイモは、インフルエンザのように拡がっていったそうです」
「そうですか。でも、変な例えですね」
「どちらも、救荒(休校)になりますから」

「コツコツ小咄」は拙ウェブサイトにも掲載しています。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.130は、11月3日(金)[和暦 長月十五日]の配信予定です。
 より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
  http://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
  http://food-mileage.jp/category/blog/ 
 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/

【出典:フード・マイレージ資料室 通信 No.129、2017年10月20日(金)[和暦 長月朔日]発行】