奥山文弥著、木戸川漁協監修『サケが帰ってきた!』(2017年10月、小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09227191
お節料理に欠かせない魚といえば、サケ(西日本出身の筆者にはブリの方が馴染みですが)。
サケは産卵のために生まれた川に戻ってくるという習性があります。この時に親魚を捕獲して採卵・受精させ、ふ化・飼育した稚魚を川に放流するという事業によって、日本のサケ資源は守られています。
福島・楢葉町にある木戸川は、かつて本州太平洋側において最も多くのサケが遡上してくる川として有名で、木戸川漁業協同組合は毎年1000万尾以上の稚魚を放流していました。
ところが、2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波で大きな被害を受け、さらに福島第一原発事故もあり、ふ化放流事業は中断されていました。
本書は、2000年に福島・いわき市の水産高校を卒業して木戸川漁協に就職した鈴木謙太郎青年(現ふ化場長)の奮闘の記です。
小さい頃から釣りが大好き、夢だった水産関係の仕事に就けて「サケまみれ」の日々を送っていた鈴木青年は、突然の大地震でふ化場が津波に飲み込まれる様子を目の当たりにします。さらに、原発事故で立ち入ることさえできなくなった時の絶望感と混乱は、想像することも困難です。
しかし謙太郎青年と木戸川漁協は、いま、着実に復興の歩みを始めています。
2015年夏には避難指示が解除され、再建されたふ化場により2017年から放流事業が再開されました。モニタリング検査の結果、放射能汚染の問題はないこと(検出限界以下)も明らかとなっています。
2017年11月26日、木戸川漁協を訪ね、鈴木謙太郎さんから直接話を伺う機会がありました。穏やかな表情で、放流事業の現状等について丁寧に説明して下さいました。
遡上してくるサケの数は、放流事業の中断により、震災前の10万尾近くから2017年は3400尾へと激減しているそうですが、鈴木さんは「今年帰ってきたサケは、全て人の手を掛けていない天然のもの。自然の力に感動した」と述べられていたのが印象的でした。
大自然は大きな災いをもたらすこともありますが、命もつないでくれるのです。未曾有の困難のなか、真摯に命にかかわる仕事に向き合っておられる鈴木さんならではの言葉かも知れません。
[参考]
木戸川漁協を訪問した時の様子(拙ブログより)
http://food-mileage.jp/2017/12/09/blog-63/
【F.M.Letter No.134、2018.1/1[霜月十五日]所収】