【ブログ】堅田香緒里さんのベーシック・インカム(脱成長MTG)

2018年4月も後半。春を通り過ぎて夏の陽気の日が続きます。
 自宅近くに一画を借りている市民農園では、収穫しそびれた白菜の花に早くもナガメの姿。今年もカメムシ達との熾烈な闘いが予想されます。

2018年4月21日(土)17時30分から、ピープルズ・プラン研究所(PP研、東京・江戸川橋)で「脱成長ミーティング(MTG)公開研究会」が開催されました。

脱成長社会(経済成長至上主義からの脱却)の構想を練り上げることを目的に2014年4月にスタートした本研究会も、15回目を数えます。

この日のテーマはベーシック・インカム(BI)です。
 冒頭、脱成長MTG発起人の高坂勝さん(元たまTSUKI店主)から挨拶。
 「今日は代々木公園でアースディのイベントに参加してきた。
 BIについては新自由主義的な立場からのものも含め様々な議論があり、しっかりと見識を広げていく必要がある」とし、堅田香緒里さん(法政大・社会学部准教授)を紹介されました。

堅田さんからは、簡単な自己紹介に続き、「ベーシック・インカムの意義と実現可能性を探る:再生産労働を忘却するな(魔女化に向けた序章)」とのタイトルで話題提供がありました(文責・中田(えっ「魔女化」!?))。

「4年前に法政大に来たのが生まれて初めての終身雇用職。それまではいわゆるプレカリアート。特に学生時代はお金がなく、奨学金をもらい(実は借金)毎日アルバイトをしても、結婚する友人への祝儀にも事欠くような日々。このような原体験がありBIに関心を持つようになった」

「今の日本にはびこっている『3大ちゃんとしろ』イデオロギーとは、『ちゃんと働け、ちゃんと結婚しろ、ちゃんと子どもを産め』というもの。それらが就活、婚活、妊活という言葉で制度化され、今の若い人はどんどんしんどくなっている」

「現代の社会は賃労働偏重の生産至上主義で、家事等の不払い労働・再生産労働は軽視。経済成長と生活/生命がトレードオフにされている。福祉よりも経済成長が優先され、長時間労働や過労死に支えられている。それを主婦の家事労働が補完。日本政府は現在まで、ナショナルミニマムの保障ということを放棄している」

「年金をもらえるのは4割程度で生活保護の捕捉率は2~3割。国民の多くが社会保障や公的扶助というセーフティネットの網の目から落ちてしまっている。もはや、これまでの労働中心・生産主義では貧困に対応できないことは明らかで、新たな政策構想(BI)が必要となっている」

「BIは世界でも南(2000年代のインド、ナミビア等)から北(2010年代以降、ヨーロッパや北米での社会実験)へと広がりつつある。AI(人工知能)の普及も背景にある」

「BIとは、全ての個人に(世帯でなく)、生活に必要な所得を保障するというもの。
 生活保護のミーンズテスト(資力調査)のような手続きは不要になるなど、現行制度に比べてシンプル・効率的。無条件であることが最大のメリットで、『貧困の罠』(生活保護は働いた分だけ減額される)や、生活保護を受けているという『スティグマ』も解消できる」

「ちなみにスティグマとは、中世の英国で、地主が綿羊生産のために土地を囲い込んだために追い出された人たち(不労者)の胸や額に烙印を押したことに由来」

ちなみに堅田さんは、経済的に余裕があれば画家になりたかったそうです(ホワイトボードに描かれた羊の絵は、なかなか味がありました)。

「日本経済を支えてきた標準家族モデル(性別分業)が、男女間の賃金格差、雇用形態の差(非正規が多い)、職務の分離(看護師、介護師等ピンクカラー従事者が多い)等の影響をもたらしている」

「女性がフルタイムの場合を含め、家事関連労働時間の男女間格差は大きい。女たちは二重、三重に搾取されている。企業や国家はこれにフリーライドしている。
 この植民地化から自由になるために『魔女』になろう。家事労働を拒否することで資本主義的秩序を乱す女に」

そして最後に
 「BIの導入により、労働の意味が大きく違ってくる可能性がある。さらには、労働に隷属しない生のあり方を示すことにもつながるのでは」とまとめられました。

ジェンダーの視点も含んだ問題提起は興味深く、刺激的な(男性には耳が痛い)ものでした。
 休憩を挟んだ後半は、もう一人の発起人・白川真澄さん(PP研)の進行により、参加者との間で意見交換。

まずは財源についての質問に、堅田さんからは
 「消費税、所得税、環境税など様々な具体的な提案が出されている。
 しかし財源論は、私には政治的恫喝に聞こえる。本当に必要なものであれば財源は何とでもなるはず。禁欲的になることなく、声を上げて要求することが重要」との回答。

「憲法に定められた生存権の実現の方が優先順位が高いのではないか」「BIと社会保障をどう組み合わせていくかという視点が必要ではないか」等の質問には、堅田さんは
 「BIは万能薬ではなく、全てを解決できるものではない。むしろこの程度のものさえ保証されていないのかという感覚。カネの給付とモノやサービスの給付とは別で、BIを導入しても社会保障は必要。両方、要求すべきとの考え」

これには会場から「民主主義社会なのだから、私たち(主権者)は要求者であると同時に供給者でもあるのでは」といったコメントも。

BIの対象として、国籍や反社会的勢力をどのように考えるかとの質問には、堅田さんからは
 「現行制度でも生活保護以外は国籍は要件になっていない(居住者であることが要件)。一方で、生活保護受給者が反社会的勢力による『貧困ビジネス』に囲い込まれるといった問題もある」等の回答。

ほかにも会場からは、かつてのウーマンリヴ運動の重要さ、BIの規範・理論を整理していく必要があるのでは等の指摘や意見が出されました。

これらの議論を受けて高坂さんからは、
 「評論家のようなことばかり言う人が多く腹立たしく思うことがある。自分たちが望む社会を自ら作っていくという覚悟が必要。私たちが本気で実現しようとするかどうかにかかっている」等のコメント。

最後に白川さんから、
 「現行の税制や社会保障の複雑さが、人を黙らせる役割を果たしている面がある。BIの仕組みはシンプル。制度はシンプルであることが大切ということを教えてもらった」とまとめられました。

その後はいつもの中華料理店に移動。懇親会でも活発な意見交換は続きました。