【ほんのさわり】原田信男『コメを選んだ日本の歴史』

-原田信男『コメを選んだ日本の歴史』(2006/5、文春新書)-
 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166605057

1949年生まれの著者の専門は生活文化史で、食文化についても多くの著作があります。本書は、日本の歴史を通して、いかに米が大きな役割を果たしてきたかを明らかにしています。

弥生時代に渡ってきた水田稲作システムは、日本の人口や社会に大きなインパクトを与えました。
 その生産力の高さにより社会的剰余を生み出すことで、クニ(古代国家)の形成が始まり、やがて激しくなった戦争(軍事力の背景にも米がありました。)を経て統一国家(ヤマト政権)が成立します。

律令国家における天皇の統治力の源泉は、米を中心とした祭祀権(新嘗祭など)でした。
 やがて米は“聖なる”食べものとしての地位を高めていきます。肉食禁止令も水田稲作の円滑な推進のための方便(米の生産手段であるウシ、ウマの保護)だったとのこと。
「太閤検地」は全国の土地生産力を米に換算することにより行われました。そして米を経済的価値の基準とする体制は、江戸幕府による石高制により完成したのです。

明治政府による近代国家建設の基礎も米に置かれました。地租改正の基準は米価であり、朝鮮・台湾等の植民地でも米作が奨励され、第二次大戦中には、主食を国家が直接的に管理するという世界的にも珍しい仕組み(食糧管理法)まで導入されたのです。

戦後の高度経済成長に入ると食生活の多様化により米の需要は激減しましたが、著者は、それでも日本人の米に対するこだわりには根強いものがあるとしています。
 コシヒカリなどに対する過度のブランド志向は作付品種の均一化を招いており、異常気象等による不作のリスクが高まっているとし、「今後、どのようにコメと付き合っていくのか、改めて考えていく必要がある」と警鐘を鳴らしているのです。
 日本における米と稲作の「通史」を知るためには、大いに参考になる本です。

ちなみに最近、新聞を含めて米を「コメ」とカタカナ表記するのが一般的になっています。
 これは米国(アメリカ)との混同を避けるためなのでしょうが、本書のように米の重要性を論じる本においてもカタカナ表記されていることには、違和感を禁じ得ません。
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出典:フード・マイレージ資料室通信 No.151
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