【ほんのさわり】正岡子規『仰臥漫録』

-正岡子規『仰臥漫録』(1983/11、岩波文庫)-
 https://www.iwanami.co.jp/book/b248901.html

 病床において子規は多くの優れた随筆・日記文学を残しますが、その一つ『仰臥漫録』(ぎょうがまんろく)は他人に見せることを想定していなかった私的な日誌であるため、子規自身の率直な思いや身の回りの出来事が綴られています。
 自ら寝返りを打つこともできない子規は、仰向けに寝たまま、日々食べたものについても克明に記録しました。

例えば, 明治34(1901)年9月24日の食事は次のようなものでした。
[朝]ぬく飯3椀、佃煮、奈良漬、牛乳ココア入り、餅菓子、塩せんべい
[昼]粥3椀、かじきの刺身、芋、奈良漬
[間食]餅菓子、牛乳ココア入り、ぼたもち、菓子パン、塩せんべい
[タ]生鮭照焼、粥3椀、ふじ豆、奈良漬、ぶどう
 このような記録が、明治34年9月2日から翌年(死去の年)3月12日の間まで続いているのです。

死期が近い子規にとって、食べることは生きることそのものでした。
 食べることの楽しみ、食べられることの嬉しさ。そして、それが叶わなくなったときの悲しみと絶望。
 人間にとって、いかに「食」が絶対的に重要なものであるかをこの本は教えてくれます。
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出典:メルマガ「F.M.Letter」 No.152
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