著者は1948年宮城県生まれ。(株)農林中金総合研究所で永く調査・研究に携わられた後、現在は自ら設立した農的社会デザイン研究所の代表を務めておられます。
本書は著者にとっての13冊目の単著で、前著『農的社会をひらく』から2年半の間の実践や思索の成果を踏まえ、農的社会(生命原理を最優先する社会)をいかにして創造していくかを、理論と実践(ノウハウ等)両面から広範に論じられています。
第1、2章では、狭義の農業(産業)と広義の農業(百姓仕事、市民参画)との関連、日本農業の強み(地域性、多様性に富む等)が整理された上で、消費者との交流等を通じたコミュニティ農業の推進という方向性が示されます。
第3章(経済学と農業)では、ケネー、スミス、マルクス、ポランニー、宇沢弘文らの文献がレビューされ、農業を論じる上での既存の経済学の限界等が論じられています。
第4章(協同論)では、川崎平右衛門(江戸自体の農政家)、賀川豊彦、木村快氏(演出家)らの業績や活動が紹介され、第5章ではキューバ、第6章冒頭ではロシアのダーチャの事例が取り上げられます。
そして第6、7章が、農的社会をいかに創造していくかを論じた章です。
まず著者は「農的社会を創造していく取組は個別的、自立的であり、安易にモデル化できるものではなく、交流し試行錯誤しながらやっていくしかない」と釘を刺しています。
その上で、ご自身の取組みを紹介されています。
例えば、山梨市牧丘町の山林を開墾して農業と二地域居住を始められた経緯、子ども達の農業体験の受け入れ(「農土香」)、西東京市における「おむすびハウス」(学童の居場所づくの)「蔦谷さんち」(自宅の地域への開放)等が、具体的に詳細に紹介されています。
著者は「一人ひとりの取り組み、実践が出発点であり、これを積み重ね広げていくことでしか社会を変えていくことはできない」と訴えておられます。そして、正に率先垂範されているのです。
多くの示唆に富む好著です。
[参考]農的社会デザイン研究所
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出典:メルマガ「F.M.Letter」 No.154
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