◇フード・マイレージ資料室 通信 No.155◇
2018年11月8日(木)[和暦 神無月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 福島県における漁獲高の推移
◆ O.カレント 小松理虔さん
◆ ほんのさわり 小松理虔『新復興論』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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カレンダーは11月。昨日は立冬でした。年の瀬に向かって身が削られるような焦りを感じます。カンナ(神無)月だけに。
和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している拙メルマガ、今号は 和暦 神無月朔日の配信です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
-福島県における漁獲高の推移-
福島県沖は、親潮と黒潮がぶつかる海域(潮目)であるため豊かな漁場が形成され、そこで獲れる海産物は“常磐もの”と呼ばれ、市場でも高い評価を受けていました。
ところが、東日本大震災の津波により港湾が被災したことに加え、東京電力福島第一原発の事故により、福島県の漁獲量は大きく減少しています。
リンク先の図109の赤い折れ線グラフは、福島県における海面漁業の漁獲量の推移を示したものです。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/11/109_gyokaku.pdf
これによると、震災前の2010年には約7.9万トンあった漁獲量は2015年には約4.8万トンへと6割の水準にまで落ち込んでいることが分かります。
一方、長期的にみると、福島県の漁獲量のピークは58.3万トン(1987年)から震災前の時点で1割強にまで大きく減少していることが分かります。これは、各国の排他的経済水域の設定(いわゆる「200海里問題」)やマイワシの漁獲量の減少等によるもので、全国の漁獲量(青い折れ線)も同様の傾向を示しているのです。
このように長期的視点でみると、福島県における漁獲量の減少は大きなトレンドの中にあるもので、震災と原発事故は、この傾向をさらに加速化させたものと見ることもできるのです。
とはいえ、震災と原発事故の影響を軽くみることは決してできません。
この統計は漁業経営体の所在地に計上されていることから、実際に福島県の港湾に水揚げされた漁獲量は、沿岸漁業を中心に統計数値以上に大幅に減少しています。
現在、福島県では、試験操業を段階的に拡大しながら“常磐もの”の復活に取り組んでいます。
なお、モニタリング結果によると、2015年以降、基準値を超過した海産物は一検体もありません。
[資料等]
農林水産省「海面漁業生産統計調査」
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/
福島県「福島県の水産業」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/36035e/suisanka-suisangyo.html
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
-小松理虔さん-
小松理虔(こまつ・りけん)さんは1979年福島・いわき市小名浜生まれ。
東京の大学(文学部)を卒業後、地元テレビ局の社会部記者、中国・上海での日本語雑誌の編集や通訳等を経た後、東日本震災後の2012年からは地元のかまぼこメーカーの広報担当として、SNSも駆使し、福島の食に関する情報を全国に向けて積極的に発信されてきた方です。
現在はフリーランスの立場から、ローカル・アクティビスト(地域活動家)として、地域の食、福祉、観光、アートなど、様々な分野における企画や情報発信に取り組んでおられます。
『新復興論』(2018.9、ゲンロン叢書)(「ほんのさわり」欄参照)、『常磐線中心主義-ジョーバンセントリズム』(2015.3、共著、河出書房新社)等の著書もあります。
小松さんの多彩な活動の拠点となっているのが、小名浜中心部の商店街の一画にあるオルタナティブスペース「UDOK.」。
その名称には、晴耕(=本業)に対する雨読(=本業 以外のクリエイティブな活動)のための場という意味合いが込められています。
様々なアート作品等に埋もれた20坪ほどのスペースは、人が集まるミーティングやワークショップの会場として、時にはライブハウスや芝居小屋として活 用されるなど、様々なクリエイティブな活動の場となっています。
また、2013年冬から有志の方と始められた「いわき海洋調査隊・うみラボ」 は、民間の力で、定期的に福島第一原発沖で海底土や魚の放射線量を測るという活動です。
原発を眺めながら検体となる魚を釣り上げ、市内の水族館「アクアマリンふくしま」に持ち込んで分析したデータを復興に役立てるとともに、その場で試食も行われます (これが人気だそうです)。
多くの人に福島の海の現状を知ってもらうため、調査員は毎回公募されているとのこと。福島の魚に対して漠然とした不安を持っている人には、正確なデータ(科学)だけではなく、おいしさや魅力(情緒)を楽しみながら伝えていく必要があると小松さんは考えておられます。
小松さんは、いわき・小名浜という地にしっかりと足を着け、アートや観光など多彩な視点から、復興=地域づくりに取り組んでおられるのです。
[参考]
小松理虔さんツイッター
https://twitter.com/riken_komatsu
いわき海洋調べ隊「うみラボ」公式サイト
http://www.umilabo.jp/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
-小松理虔『新復興論』(2018.9、ゲンロン叢書)-
https://genron.co.jp/books/shinfukkou/
東日本大震災と原発事故による被災が今も継続している「福島」の復興について、心に引っかかりを感じている人にとっては必読の書です。
潮目の地・いわきの歴史と宿命、アート、障害福祉などの広範な観点から、復興(イコール地域づくり)が語られています。なお、400ページ近い大著ですが、文章は平易かつ明晰で、非常に読みやすい本です。
小松さんは食品メーカーに勤務する「当事者」だったこともあり、食についても多くのページが割かれています。
原発事故(放射能汚染)は、福島の農水産物や食品を「食べる/食べない」という大きな社会的分断を生んでしまいました。
食べることとは「生きることそのもの」であり「先人の知恵や文化、地域をまるごと体内にとり込むという行為」である以上、食を巡る分断は、生(活)を巡る分断でもあったとします。
悪質なデマや差別的な発言に対しては、かつて小松さんは怒りをこめてSNS等で「当事者づらして無知や理解不足を叩いた時期」があったそうです。
しかし、やがて「商品を選ぶ権利は誰にでもある。農薬や添加物などのように放射能を『避ける』という行為自体は差別とは言えない」と考えるようになりました。
そして、科学的に正確な情報を発信することを大前提としつつ(小松さんは「うみラボ」で独自にデータ収集を続けておられます)、「正しい情報だけでは人は動かない。自分が楽しんだり食を満喫することが、結果的に福島の正しい理解を促し、差別的な言説を減らす」ことに思い到った時、小松さんは「気持ちがだいぶ楽になった」そうです。
正しさをぶつけ合わせるのではなく、違う判断をする人とどのように対話するか。いかに多様な選択を受け止めるか。
福島の食を巡る小松さんの論点は、私たちの社会がいかに多様性を受け止めていくかという大きなテーマにもつながっているのです。
[参考]
ゲンロン『新復興論』特別イベントの模様(拙ブログ)。
http://food-mileage.jp/2018/09/06/blog-133/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ カンボジアのいろいろ[10/25]
http://food-mileage.jp/2018/10/25/blog-152/
○ ふるさとカフェ矢塚分校@ちよだいちば[10/28]
http://food-mileage.jp/2018/10/28/blog-153/
○ フード・マイレージ@霞ヶ関ばたけ[11/2]
http://food-mileage.jp/2018/11/02/blog-154/
○「つながり」からはじまる雄勝花物語(Fw:東北)[11/6]
http://food-mileage.jp/2018/11/06/blog-155/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 800日目のグランドデザイン-今だからこそ繋げたい、多彩な福島
日時:11月8日(木)18:30~20:30
場所:「LINK Café-結」(東京・港区東新橋1)
主催:フォワード東北
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.facebook.com/events/346817992543427/
○ はたけっとまーけっと2018
日時:11月11日(日)10:00~16:00
場所:山梨・上野原市西原(さいはら)地区
主催:はたけっとまーけっと実行委員会
(詳細、お問合せ先等↓)
https://www.hataketto.com/
○ ぴたらファーム収穫祭
日時:11月18日(日)11:00~15:00
場所:ぴたらファーム(山梨・北杜市白州町)
主催:ぴたらファーム
(詳細、お問合せ先等↓)
http://pitarafarm.com/blog/category/festival/
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*今号のコツコツ小咄
「熱燗を呑ませてくれないと、いたずらしちゃうぞ」
「えっ、何それ?」
「トックリ(徳利)・オア・トリート!」
コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号 No.156は11月22日(木)[和暦 神無月十五日]の配信予定です。
より役立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
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