【メルマガ】 F.M.Letter No.157

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.157◇
 2018年12月7日(金)[和暦 霜月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識  福島県の観光客数の推移
◆ O.カレント  浪江まちものがたりつたえ隊
◆ ほんのさわり 古川日出男『馬たちよ、それでも光は無垢で』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 カレンダーは12月。時候は二十四節気の大雪(たいせつ)、冬も深まってきました。
 冬の語源は「殖ゆ」。魂(生命力)が増える季節という意味があるそうです。
 和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している拙メルマガ、今号は 霜月朔日の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。

-福島県を訪れる観光客数の推移-

リンク先の図111 は、福島県内の観光地を訪れる観光客の人数(入込客数、宿泊客と日帰り客の計)の推移を示したものです。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/12/111_f_kanko.pdf

これによると、2005年以降、観光客数は緩やかに増加し、2010年には5,713万人となりましたが、東日本大震災の発生と東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響により、2011年には3,521人と4割近く減少しました。
 福島県では観光業も大きな打撃を受けたのです。

その後は徐々に回復を続け、2017年には5,449万人と前年から3.3%増加しています。しかしながら2010年と比較すると4.7%減と、依然として震災前の水準を下回っています。

また、この状況は地域によって大きな差があります。
 中通り地方、会津地方では既に震災前の水準を上回っているのに対し、原発事故の影響をより直接的に受けた浜通り地方は、現在も大きく低迷している状況がみられます。

このように、福島県における観光業の復活・再生のためには、特に浜通り地方の観光客数の増加が課題であることが伺えます。
 ちなみに訪ねる人が多い浜通り地方の観光地としては、スパリゾートハワイアンズ(いわき市、2019年の入込数 184万人)、アクアマリンふくしま(同、52万人)、道の駅までい館(飯舘村、17万人)、相馬野馬追(相馬市、16万人)、天神岬スポーツ公園(楢葉町、13万人)等があります。

ぜひ福島に、特に浜通り地方に足をお運び下さい。

[出典]
 福島県商工労働部「福島県観光客入込数」
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/32031a/kanko-koryu2.html

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。

-浪江まち物語つたえ隊-

福島県浪江町(なみえまち)は、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故により、全ての町民が避難を強いられました。

翌2012年、避難先の仮設住宅で暮らしていた町民の方たちが立ち上げられたのが、浪江まち物語つたえ隊です。
 帰れない故郷の記憶、地域に伝わる昔話、東日本大震災や原発事故の体験等を、風化させないように紙芝居を通して伝えるという活動を始められたのです。

仮設住宅から始まった活動は、賛同した避難先の住民の方たちも加わるなどして次第に広がっていきました。
 紙芝居に加えてアニメーションも制作し、日本国内各地のみならず、海外においても上演・上映が行われています。

浪江町に出されていた避難指示は、2017年3月、一部の区域(帰還困難区域)を除いて解除されました。しかし、現在のところ、帰還された方は多くはありません。

浪江まち物語つたえ隊のメンバーのお1人・おか洋子さんのご自宅も、長い避難生活の間に野生鳥獣が侵入するなどして荒れ果ててしまいました。
 おかさんは母屋の解体を決意される一方、納屋だった建物を改装し、本年(2018)7月、「O Cafe」(オカフェ)をオープンさせました。住民が交流し、ボランティア等でこの場を訪れる方たちも憩える場をつくられたのです。

去る12月2日(日)、福島県有機農業ネットワークのスタディツアーの一環としてO Cafeにお邪魔し、おかさんと石井絹江さんのお2人による紙芝居を観る機会がありました。
 上演して下さった作品の一つである「浪江ちち牛物語」は、酪農を営んでおられた石井さんが、原発事故のために家族同然の牛を殺処分せざるを得なかったという実話に基づくものです。
 お2人は「読むのも辛いが、故郷でおこったことを伝えていかなければならない」としつつ、「夢の実現のために挑戦を続けていきたい。後悔はしたくない」と力強く語っておられました。

浪江まち物語つたえ隊は、40本以上の紙芝居、3本のアニメーションの上演・上映活動を続けられています。ぜひ多くの方に観て頂きたいと思います。

[参考]
 浪江まち物語つたえ隊
 https://www.facebook.com/namie.machimonogatari/
 浪江まち物語コンサート
 http://matimonogatari.iinaa.net/eotoshibai/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。

-古川日出男『馬たちよ、それでも光は無垢で』(2018.2、新潮文庫)-
 https://www.shinchosha.co.jp/book/306073/

作者は1966年、福島・郡山市生まれ。実家はシイタケ農家で、原発事故の際には出荷制限を課されたそうです。
 2011年3月11日、作者は取材のために京都市に滞在していました。
 最初は「関西でも長い地震はあるのだな」と感じただけでしたが、ホテルに戻ってテレビを付けたとたん画面に釘付けになります。火柱を噴き上げるコンビナート、水没した空港の滑走路、茶色い濁流に呑み込まれる無数の車輛・・・。

やがて作者は、日付や曜日の感覚を失い、「神隠しの時間」の内部に囚われます。
 「どうして犠牲者は私でないのか。のうのうと生きている理由を述べろ」という罪悪感に苛まれるなか、「声」が聞こえました。「そこへ活け。見ろ」と。
 作者は「浜通りに行かなければならない」と決意し、出版社の知人とともにレンタカーで相馬地方に入ります。
 そこで目撃したものは津波の「洗いざらいのパワー」。鉄骨だけが残る建築物の断面、百もの千もの部分(パーツ)の集まりである瓦礫、冠水して「死んだ」田圃、そして相馬神社境内の傷ついた馬たち。

気が付くと、レンタカーには同乗者が増えていました。かつて執筆したメガノベル『聖家族』の主人公の一人です。彼は、言葉を失っていた作家に「書け」と語りかけます。ルポルタージュは、ここで鮮やかに小説に転換します。
 彼は、「できること」をします。傷つき飢餓状態にあった白馬を、閉じ込めてあった埒(らち)を開け放ったのです。解き放たれた白馬は歩き出し、すばらしく透き通った光が育てている雑草を食み始めます。ここで「死」の文章は終わり、再生の物語が始まります。

東日本大震災と原発事故から7年9ヶ月。
 忘れかけていた、ひりひりするような当時の感覚を、この小説は思い出させてくれました。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 山梨へのプチ遠足[11/24]
 http://food-mileage.jp/2018/11/24/blog-159/

○ 郷土史と科学から見る地域の防災 @西東京市[11/26]
 http://food-mileage.jp/2018/11/26/blog-160/

○ クロストーク 林田光弘 vs 高坂勝@たまTSUKI [11/30]
 http://food-mileage.jp/2018/11/30/blog-161/

○ いまここファームの小豆収穫祭[12/4]
 http://food-mileage.jp/2018/12/04/blog-162/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 新鮮野菜の即売会
 日時:12月7日(金)11:00~19:00、8日(土)11:00~17:00
 場所:DNPプラザ1Fエントランス(東京・新宿区市谷田町1)
 企画:(株)アットテーブル
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/dnpplaza/photos/a.1369519726421112/2120506587989085/

○ め~ど in ひらかわ(青森・平川市の食を楽しむ)
 日時:12月14日(金)、15日(土)18:00~
 場所:なみへい(東京・中央区日本橋本石町4)
 主催:なみへい-全国うまいもの交流サロン
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/708806822814786/

○ ミシュカの森2018 Part 2
  共感・共苦のコミュニティの形成を目指して
 日時:12月22日(土)14:00~16:30
 場所:上智大・中央図書館()
 主催:上智大学グリーフケア研究会、ミシュカの森
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/mforest/posts/1925074164224884

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*今号のコツコツ小咄
「こんな季節外れの穏やかな日は、おやつでも食べたくなるね」
「小春(小腹)日和だからね」
 コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.158は12月21日(金)[和暦 霜月朔日]の配信予定です(2018年最後の号です)。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
  https://archives.mag2.com/0001579997/
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