【ほんのさわり】小谷敏『怠ける権利!』

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
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-小谷敏『怠ける権利!』(2018.7、高文研)-
 http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

 1956年鳥取市生まれの大妻女子大・人間関係学部教授(現代文化論)による「怠惰」の勧めの本です。

ポール・ラファルグ(フランスの社会学者)は、1880年に発表した論文で「1日3時間以上働くべきではない」と主張しました。過剰な労働は民衆の健康状態を損なうだけではなく、それがもたらす過剰生産が帝国主義の対立を強めると考えたためです。
 バートランド・ラッセル(イギリスの数学者、哲学者)は『怠惰への賛歌』と題するエッセイ(1935)のなかで、「人間の勤勉の産物の多くは戦争とその準備のために費やされている」としています。

ジョン・メイナード・ケインズ(イギリスの経済学者)は1930年に行った講演の中で、「100年後に生きる孫たちは1日3時間も働けば生活の必要を満たすことができる」と予言しましたが、これが外れたのは、人間は「足るを知る」存在ではなく、他者に優越したい(見下されたくない)という「嫉妬や羨望」に支配されているためと著者は分析しています。

著者は、日本人の労働時間が依然として長く過労死が増加しているのは、高度経済成長期における成功体験の呪縛から逃れられていないためであるとし、「勤勉は死に至る病」と断じています。

一方、著者と同郷の漫画家・水木しげるは、「なまけ者になりなさい」という言葉(「幸福になるための七箇条」の第6条)を遺しています。
 また、ソーステン・ヴェブレン(アメリカの経済学者、社会学者)は、人間の知的活動はプラグマティズム(卑俗な実用主義)の対極にある「怠惰な好奇心」に突き動かされるものであると主張しています。

著者は、水木の「なまけ者になりなさい」という言葉は、ヴェブレンの言う「怠惰な好奇心」の赴くままに生きよという意味と同じであるとしています。
 つまり、「成功や勝ち負けにこだわるのではなく、自分のやりたいことに忠実であれ」という、卑俗なプラグマティズムの支配に窒息しかかっている日本人への叱咤激励の言葉でもあるのです。