【ブログ】吉田裕先生講演会「兵士の目線で戦場を見る」

2019年の4月。
 毎年のように開花が早くなる桜ですが、今年は気温が低い日が続いたこともあって長く楽しませてくれています。
 4月1日(月)には新元号・令和の発表もありました。

4月4日(木)の終業後は、東京・大手町の読売新聞ビル3F新聞教室へ。
 ホールには、歴史資料や新聞の作り方といった企画展示スペースがあります。


 
ここで19時から開催されたのは、吉田裕先生の講演会「兵士の目線で戦場を見る」。
 ご著書『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(2017.12、中公新書)が、この度、「新書大賞」(中央公論新社主催)を受賞されたことを記念したものです。

冒頭、新書大賞の賞状授与式がありました。
 丹念な戦史資料等の調査を基に、異常に高い餓死率、30万人を超えた海没死、頻発した自決など、日本軍兵士が体験した凄惨な現実を明らかにしたこと等が評価されたようです。

「思いがけず大きな賞を頂き喜んでいる。読者の皆様に感謝したい」との言葉から、吉田先生の講演が始まりました(文責・中田)。

「若手研究者の頃は市ヶ谷にあった防衛研修所資料室に通い詰めた。一般(旧軍・自衛隊関係者以外)の研究者による軍事史研究の『神代の時代』。旧軍時代の建物も残っており、楽しい思い出」

「戦争犯罪研究を進める中、切り捨てているものに対するぼんやりとした自覚があった。それは、元兵士の方々の心情を理解できていたかということ」

「横井庄一氏の帰国は1972年だが、マスコミも歴史学者も正面から受け止めなかった。師の藤原彰が『飢え死にした英霊たち』が出版したのはそれから30年後。藤原は自らも戦争を体験しており、兵士の視線、兵士の立ち位置から『死の現場をみる』という問題意識があった」

「戦争の問題を、今を生きる若い人たち等にも、自分自身の問題に引き付けて考えることのできる回路を設定しようと思った。その一つが、兵士の身体(こころの問題を含め)を重視するということ。
 現代の私たちにとって、一番身近な問題は自らの身体に関わる問題ではないか(例えば虫歯など)。

「日中戦争期から国民の栄養摂取量は大幅に低下。専門家からは出されていた疑問を無視して開戦を決定」

「今回の本のネット上のレビューや頂いた手紙をみると、固定読者以外の層が読んでくれていることが分かる。日本社会は、当時と変わっていないのではないかとの感想も。
 日本軍は、パイロットにも休暇を与えず酷使していた。日本の組織特有の問題かもしれない」

「『先の大戦』という表現には、戦死者数なじ、満州事変を含んでいない。国内政治の面でも画期となった満州事変が軽視されているのでは」

「映画『この世界の片隅に』など、戦争を日常の身近なところから捉えた作品が評判になるなど、かなりの人たちが戦争に目を向け始めたのではと感じている」

「18歳未満の少年兵の問題にも注目したい。特攻についても明らかにされていない面が多い(通常の爆撃に比べて破壊力が乏しかったことなど)」

「今後については、ちょっと休みたいというのが正直な気持ち(笑)。これからも身の丈にあったことを調べていきたい。今回の『日本軍兵士』ももっと深掘りし、大きな本にすることが最終的な目標」

講演終了後、列に並んで頂いたサインには、「読者を支えとして」という文字がありました。
 話しぶりと同様、戦史研究に対する吉田先生の真摯な姿勢を伺うことができました。

間もなく新しい「令和」の時代を迎えようとる中、改めて昭和の戦争の実相を振り返ることの大切さを教えて下さったご講演でした。