【ブログ】寮美千子さん講演会「詩が開いた心の扉」

2019年4月7日(日)。
 東京・東村山駅前のさくら通りでは桜まつり(交通安全 市民の集い)開催中。子ども達のお囃子や模擬店で賑わっています。
 例年だと盛りを過ぎてしまっていることが多いのですが、今年は満開の下での開催です。

その前日・6日(土)の夜は、東京・新宿歌舞伎町のヒナタバーへ。

この日19時から開催されていたのは「空が青いから白をえらんだのです 逢坂泰精+寮美千子」。

空が青いから白をえらんだのです』とは、寮さんが書かれた奈良少年刑務所の受刑者の詩集。
 この日は寮さんによる詩の朗読と、詩に曲をつけた逢坂泰精さんの歌によるライブイベントです

先日、自身でもイベントを企画・主催したほどの素晴らしい詩と曲です。

生憎とこの日は所用があったのですが、ぜひ、寮さん(詩集をきっかけに、泉鏡花文学賞を受賞された『楽園の鳥』など何冊か読ませて頂きました。)にお目に掛かりたくて出かけた次第。

21時を過ぎて到着した時にはイベントは終了していましたが、熱心な参加者の方達の多くはまだ残っておられました。
 帰る方の入れ代わりには新しいお客さんが来られ、広くはない店内は満席です。

神田にある老舗カレー店のご主人は、美味しいカレーを差し入れて下さっています。

参加者同士で歓談。寮さんとも親しく話をさせて頂きました。
 寮さんは『絵本古事記 よみがえり』を朗読して下さるなど、暖かく、楽しい時間を過ごすことができました。

翌4月7日(日)は、桜祭りの賑わいを抜けて東京・銀座へ。
 14時からの教文堂書店9階ホールで、寮美千子さんの講演会「詩が開いた心の扉~奈良少年刑務所絵本と詩の教室~」が開催されました。『あふれでたのはやさしさだった』(西日本出版社) 刊行記念とのこと。
 会場は100人ほどの参加者で満席です。

定刻を回り、寮さんの講演が始まりました。前半はスライドを映写しながらです(文責・中田)。

「2006年7月、特に縁もなかった奈良に転居。奈良は文化遺産が豊富。東大寺大仏殿は世界最大の木造建築物で、見るたびに感動する。これは江戸時代の再建だが、1300年前の転害門も残っている」

「そのような一画に奈良少年刑務所はあった。引っ越した年の9月に一般公開と矯正展があり、建物が好きなので、早速、見に行った。

「レンガ造りの立派な建物だが威圧感はない。レンガは全て手作りで、微妙に色合いなどが違う。各所には美しい装飾も施されている。
 明治時代、欧米の監獄を視察してきた山下啓次郎が設計。受刑者が社会に戻ってくるための更正施設という、人権思想が反映されている」

「一般公開の時、廃止する計画があると聞き、建物の保存運動を始めた。啓次郎の孫に当たる山下洋輔氏に代表になってもらった。間もなく国の重要文化財に指定され、保存されることが決まった。地域の人たちにも愛されていた」

「しかし、高級ホテルにするという構想はいかがか。建物自体を残すだけで価値がある。遠隔地にある網走刑務所は入場料1000円だけで運営し、施設や展示も拡充している。奈良でできないはずがない」

「矯正展で展示されていた受刑者の作品を見て心打たれた。精密な水彩画や感性にあふれる花火の俳句など。
 その時、何かアドバイスをする位の軽い気持ちで、手伝いたいと申し出た。後日、刑務所の方(女性の教育統括)から電話があった。『社会性涵養プログラム』の一環として、授業を担当してくれないかという依頼だった」

「話を伺って、とても無理だと思った。強盗、殺人、レイプ等の重罪を犯した人達に、月1回、6か月の童話や絵本の授業が何の力があるかと。
 しかし受刑者のほとんどは、加害者になる前は虐待や貧困等の被害者だったとのこと。あまりの熱心さにほだされて、夫とともに(1人では恐かったので)お引き受けすることとなった」

「これが足かけ10年続いた。私にとって人生観、世界観が変わるような素晴らしい体験だった」

「集まった生徒は、刑務所の中でも特にコミュニケーション等に問題を抱えた少年達。ほとんど言葉を発しない生徒、威圧するような態度の生徒など」

「簡単な朗読劇から始めた。みんなの前に出て分担して絵本を読むだけ。
 ところが、みんなから拍手をもらったとたん、生徒達はいきなり変化した。これまで萎縮して生きてきたのが、初めて自己肯定感を得られたのだと思う。これっぽっちで人は変われるんだ、と思った」

「安心できる場を提供し、受け止める人が一人でもいれば、人は不要な鎧を脱ぐことができる。生き方を変えることができる。寄り添い、待ってあげることで人は育ってくる。優しい生徒達の言葉は、思い出すだけで涙が出る」

「刑務所は、福祉の網の目からこぼれ落ちた時の最後のセーフティネットでもある。刑務所の塀は受刑者を閉じ込めるためのものではなく、彼らを社会から守る防波堤。
 同じ境遇にある仲間達は優しく、素直な自分に戻ることができる。どんな言葉にも価値がある。分かち合うことで、さらに価値が出てくる」

そして最後に参加者に対して、
 「今後、もし元受刑者に会う機会があったら、仮に態度が悪かったりしても外見で判断せず、優しく受け止めてほしい。本当はいい子なんだ、と思ってほしい。ただ一人でも受け止めてくれる人がいれば、人は変わることができるのだから」と訴えられました。

終了後の7階のナルニア国でのサイン会には、大勢の方が列を作りました。寮さんの人気の高さとともに、この日の講演が多くの人に感動を与えたことが伺われました。

ところで、食の問題に関わっているなら必読と薦められたのが『イオマンテ-めぐるいのちの贈り物』。
 小熊のカムイ(肉)を食べたアイヌ(にんげん)の男の子は「小熊の肉をたべて、ぽろぽろ、なみだがこぼれてきた」。そして「すべては、めぐるいのちのめぐみ」と悟るのです。

やはりアイヌ民話を基にした『おおかみのこがはしってきて』(刑務所でのプログラムにも使われた本です。)には、「わたしたちはみんな、つちからうまれたきょうだいなんだ」との表現もあります。一番偉いのは、土だというのです。
 ちなみに、似た構成の日本民話『ねずみの嫁入り』では、一番偉いのは自分たち(ねずみ)ということになっています。

伺ったところでは、あれだけの成果を上げた刑務所でのプログラムは、現在は継続されていないとのこと。「出版不況」も深刻のようです。
 世の中、いい話ばかりではありません。

寮さんの、ますますのご活躍に期待したいと思います。奈良に伺いたくなりました。