【メルマガ】 F.M.Letter No.165

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.165◇
 2019年4月5日(金)[和暦 弥生朔日]発行
────────────────────
◆ F.M.豆知識  改元の回数と災異改元
◆ O.カレント  改元と食糧、農業
◆ ほんのさわり 工藤 隆『大嘗祭』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
 去る4月1日(月)、新しい元号『令和』が決定されました。お祭り騒ぎや便乗商法には辟易しつつも、今号も改元(元号)特集としました。
 本メルマガはは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
 和暦では弥生に入りました。草木が勢いを増して生い茂る「いやおい」の月です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連してちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるようなデータを、コツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

-改元の回数と災異改元の割合-

 新元号『令和』は、『大化』以来248番目の元号となります。来る5月1日(水)には皇太子殿下が即位され、247回目の改元が行われます。
 リンク先の図118の棒グラフは、平成までの改元の回数を50年ごとに図示したものです。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2019/04/118_gengou.pdf

明治時代に一世一元の制が採用されるまで、改元は比較的頻繁に行われていたことが分かります。1元号当たり平均の期間は5.3年に過ぎません。

改元の理由にはいくつかのタイプがありますが(「オーシャン・カレント」欄参照)、棒グラフのうち赤い部分が「災異改元」を表しています(注)。
 また、折れ線グラフは、改元回数に占める災異改元の割合を示しています。

平成までの246回の改元のうち災異改元が106回を占めており、実に43%が天変地異等を理由に改元が行われていることが分かります。特に西暦900年代から1400年代にかけては、多くの災異改元が行われています。

これまでの改元の歴史を振り返ると、日本がいかに多くの災害や飢饉に見舞われてきたかが伺えるのです。

(注)災異改元の回数等については、次を参考にさせて頂きました。
 グループSKIT『元号でたどる日本史』(PHP文庫、2016.7)
 https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-76581-5

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

-改元と食糧、農業-

元号は古代中国の発祥で、やがて東アジアのいくつかの国で採用されるようになりました。日本においては、大化の改新(645年)の際に『大化』が用いられたのが最初とされ、平成までで246回の改元が行われてきました。
 なお、現在も元号を用いているのは日本だけです(「本家」の中国では1911年の辛亥革命により元号は廃止され、現在は西暦(「公元」と称されます。)のみが用いられています)。

改元の理由は様々ですが、大きく分けて、天皇の交代による代始改元、吉兆とされる現象を賀して行われる祥瑞改元、天災地変など凶兆とみられる現象を理由にした災異改元、革命の年とされる三革(甲子、足辰、辛酉の年)に行われる革年改元の4タイプ(あるいはこれらの組合せ)があります。

ところで改元は、2つの意味で、食糧(注)や農業と大きな関連を有しています。
 1つは、「豆知識」欄でもみたように、改元のうち半数近くが災異改元であることです。

「災異」の具体的な内容は、台風、水害、干ばつ等による農業被害、地震や噴火の発生、これらの結果としての食糧不足(飢饉)、疫病等と記録されています。
 禁裏における大火の発生や彗星の出現など、食糧等とは直接の関連が薄いものもありますが、災異改元の多さは、日本の歴史において食糧不足等の事態が頻繁に起こっていたことを示しているのです。

もう1つは、改元(新天皇の即位)に伴って行われる大嘗祭が、農業(特に稲作)と密接に関連していることです。
 これについては、次の「ほんのさわり」欄で紹介します。

(注)「食糧」は穀物など主食を指し、野菜や畜産物など食べもの全てを含む場合は「食料」と表記するのが一般的です。

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/

-工藤 隆『大嘗祭-天皇制と日本文化の源流』 (2017.11、中公新書) -
 http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/11/102462.html

毎年秋に、その年に収穫された新穀を天皇が神に捧げ、自らも食し、社会の安寧と五穀豊穣を祈念する儀式が「新嘗祭」(にいなめさい)ですが、新たに即位した天皇が初めて行う新嘗祭が「大嘗祭」(だいじょうさい)です。
 宮中儀礼の中でも最も重要なものとされ、今回も11月に予定されています。

大嘗祭は国事行為ではなく、皇室の行事として行われるものですが、公費の支出等については政教分離を定めた憲法の規定との関連で議論があります。
 昨年11月には、秋篠宮さまが簡素化すべきとのお考えを示されたことがニュースにもなりました。

1942 年生まれの著者(大東文化大・名誉教授)は、本書において、大嘗祭の内容や歴史的な経緯等について丹念に整理しています。

大嘗祭が、天皇位継承儀礼として整備されたのは西暦600年代後半とのこと。
 当時、日本は白村江の戦い(663年)に完敗すねなど、国際社会に適応する国家体制の構築が急務となっていました。そこで壬申の乱を経て即位した天武天皇(第40代、673~)は、それ以前からあった稲作儀礼を基にして、中国(唐)から輸入した形式等を加味することにより、天皇の神格化儀礼としての制度化を図ったのです。
 天皇の権威の正当性と大きさを誇示するという、政治的な目的によるものでした。

その後、天皇の代替わりのたびに大嘗祭が行われることとなりましたが、実は、後土御門天皇(103代、1466~)から東山天皇(113代、1687~)までは、22年間にわたり断絶していたそうです。

著者が最も注目しているのは、大嘗祭の原型となった縄文晩期・弥生時代から続く稲作儀礼です。

それは、アニミズム(自然界のあらゆるものに神の存在を感じる信仰)、シャーマニズム(アニミズムに基づく呪術体系)、神話世界性(あらゆる現象をアニミズム的な神々の作り上げた秩序の枠組みとして把握)に特徴づけられているとのこと。
 これらは日本固有のものではなく、広く長江以南・東南アジア稲作文化圏に共通するもので、日本への稲作技術の伝播とともに輸入されたものと考えられるそうです。

日本文化は、これらアニミズム等を基層としつつ、特有な島国文化・ムラ社会性のなかで洗練され、21世紀の現代にまで継承・維持されてきました。
 著者は日本文化には、自然が与えてくれる恩恵への感謝、節度ある欲望、寛容さ、平和志向等の特質があるとします。そしてこれら美点は、近代国家としては希有な、誇るべきものと高く評価しているのです(合理的判断を軽視しがち等の弱点も指摘しています)。

大嘗祭は、その日本文化の象徴の一つです。
 果たして著者の指摘する「日本文化の美質」が現在も続いているかどうか、新しい時代を迎える前に、改めて身の回りを見直してみたいと思います。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 石戸諭さん「3.11からの8年を生きる」[3/29]
 http://food-mileage.jp/2019/03/29/blog-185/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 寮美千子さん講演会“詩が開いた心の扉”【受付終了】
 日時:4月7日(日)14:00~15:30
 場所:教文館(東京・中央区銀座4)
 主催:教文館ナルニア国
 (詳細、お問合せ先等↓) 
 https://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/info/1e8627df

○ 奥沢ブッククラブ第44回・三島由紀夫『金閣寺』
 日時:4月8日(月)18:30~21:00
 場所:シェア奥沢(東京・自由が丘)
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/2419976214687476/

○ 在来種のジャガイモ『ネガタ』の植えつけ
 日時:4月14日(日)9:30~16:30
 場所:山梨・上野原市西原地区
 主催:しごと塾西原
 (詳細、お問合せ先等↓)
 https://www.facebook.com/events/380888689431189/

────────────────────
*舞麗児忽々の今号のコツコツ小咄。
「分かりやすいし、発音もしやすいね」
「言語(元号)明瞭ですね」

コツコツ小咄(まとめ)は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号 No.166は4月19日(金)[和暦 弥生十五日]の配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
────────────────────
◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
  https://archives.mag2.com/0001579997/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
  http://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
  http://food-mileage.jp/category/blog/
 発行システム:『まぐまぐ!』
  http://www.mag2.com/