【ほんのさわり】生源寺眞一『(新版)農業がわかると社会のしくみが見えてくる』

-生源寺眞一『(新版)農業がわかると社会のしくみが見えてくる 高校生からの食と農の経済学入門』(2018.4、家の光協会) -
  http://www.ienohikari.net/book/9784259518660

著者は1951年愛知県生。農林水産省試験場研究員、東京大学農学部教授・同学部長等を経て、現在は今年度から開学した福島大食農学類の初代学類長を務めておられます。また、日本農業経済学会長、日本学術会議会員等を歴任されるなど、日本の農業経済学の分野における第一人者です。

本書は、2007~08年にかけて、世界的な食料価格の高騰や中国製冷凍ギョーザによる食中毒事件の発生など食料と農業をめぐる大きなニュースが相次いで報じられた時に、世界の農業、日本の農業、そして毎日の食生活がつながっていることを、分かりやすく「10代後半の若い君たちに向けたメッセージ」として書かれたもの。
 それが10年後に、最新のデータや知見等を元に「新版」として改めて刊行されたのです。

著者は何度も、農業や食料をめぐる問題は非常に複雑である(一筋縄ではいかない)と何度も強調しています。

例えば世界の飢餓の問題についても、途上国=農業国、先進国=脱農業国という常識に反して、食料の輸出超過国は北米、EU等であり、アジアやアフリカは純輸入国であるという事実が示され、その背景には、アフリカの驚異的な人口増加、先進国と途上国の間での農業生産性の格差等があり、さらには先進国の農業保護政策が途上国の農業の発展を阻害している面があることが説明されています。いずれもデータに基づいた記述です。

ほかにも食料自給率や食料安全保障をめぐる議論、必需品であって贅沢品でもあるという食料の二面性、土地に恵まれない日本の農業は本当に弱いのか、農業の持つ多面的機能と市場経済の限界など、農業や食料をめぐる複雑な議論が分かりやすく解説されています。

著者が重視しているのは、できるだけ広い視野に立って考える姿勢。途上国の現状、消費者や納税者の立場、将来の世代の福祉など、複眼的な接近が必要としています。
 そして最後に、「農業とは距離のあるところにある若者にも手に取ってもらい、食料と農業についてバランスのとれた知識と自分なりの意見を持って欲しい」と訴えています。

ちなみに、予備知識がほとんどない人を対象とした分かりやすい入門書ながら、内容としてはかなり高い水準のものも含んでおり、私も何度も目からうろこが落ちる思いがしました。

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出所:F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.167
 https://archives.mag2.com/0001579997/
(過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/