【ほんのさわり273】阮 蔚『世界食料危機』

−阮 蔚『世界食料危機』(2023.9、日経プレミアシリーズ)−
 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/08/08/00308/

著者(るあん・うえい氏)は中国・湖南省生まれ。上海外国語大学日本語学部を卒業し上智大学大学院で経営学修士を修了。現在は農林中金総合研究所の理事研究員を務めておられます。
 著者は農業調査のために世界を回る中で、アメリカ等の大規模で工業化された農業と、途上国などの零細個人農家の間に埋めがたい格差があることに気付きました。… 続きを読む

【ほんのさわり272】福岡伸一、伊藤亜紗、藤原辰史『ポストコロナの生命哲学』

−福岡伸一、伊藤亜紗、藤原辰史『ポストコロナの生命哲学』(2021.9、集英社新書)−
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1085-c/

生物学者、美学者、歴史学者による論考と鼎談により、現在の政治、経済、社会、科学からは「いのち」に対する基本的態度(「生命哲学」)が抜け落ちていることに警鐘を鳴らしている本です。
 「ウィルス同様、自らの身体も制御不能な自然物。ウィルスとは共生するしかない」と断じる生物学者(福岡)、「今こそ自然に耳を研ぎ澄ませて、効率優先の食と農のシステムを見直すチャンス」とする歴史学者(藤原)など、多くの示唆に富む本書ですが、今号のメルマガで特に紹介したいのは、美学者・伊藤亜紗の論考です。

障がいのことを考える時、本書等で伊藤が紹介する「はとバスツアー」のエピソードが、私の頭から離れることはありません。… 続きを読む

【ほんのさわり271】富山和子『水の文化史−4つの川の物語』

−富山和子『水の文化史−4つの川の物語』(2013.8、中公文庫)−
 https://www.chuko.co.jp/ebook/2014/11/515157.html
 (注:電子書籍しか掲載されていませんが、紙の書籍もあります。)

著者は1933年群馬県生まれ。出版社の編集者を経て、水、緑、土などについてユニークかつ先駆的な評論活動を続けて来られた方で、著者が監修された「日本の米カレンダー」は私も毎年愛用していました。
 1980年に初版が刊行された本書は、大規模な水源開発や河川改修が進められつつあった時代に、歴史的な観点を踏まえて、水と人間との関係について根本的な見直しを迫った名著です。… 続きを読む

【ほんのさわり270】堤 未果『ルポ 食が壊れる』

−堤 未果『ルポ 食が壊れるルポ-私たちは何を食べさせられるのか?』(2022.1、文春新書)−
 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166613854

著者は東京生まれ。ニューヨーク州立大学で学位を取得した後、国連、証券会社での勤務を経て、現在は国際ジャーナリストとして貧困問題や公共政策等について鋭い警鐘を鳴らし続けています。… 続きを読む

【ほんのさわり269】辻 信一『ナマケモノ教授のムダのてつがく』

−辻 信一『ナマケモノ教授のムダのてつがく-「役に立つ」を超える生き方とは』(2023/1、さくら舎)−
 https://namakemono.shop-pro.jp/?pid=171926845

著者は1952年東京生まれの文化人類学者、NGO「ナマケモノ倶楽部」代表、明治学院大学名誉教授。インドのサティシュ・クマールの思想や南米の民話「ハチドリのひとしずく」を日本に紹介した方としても著名です。

本書で著者は、コロナ禍のなか「不要不急を避けよ」と叫ばれるなど、ムダに対する風当たりが強まり、ムダが忌避・敵視されることで、世の中はずいぶんと生きづらくなっているのではないかと警鐘を鳴らしています。… 続きを読む

【ほんのさわり268】島村菜津『シチリアの奇跡』

−島村菜津『シチリアの奇跡−マフィアからエシカルへ』(2022/12、新潮新書)−
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610978/

著者は1963年長崎生まれ、福岡育ちのノンフィクション作家。イタリアのスローフード運動を紹介した『スローフードな人生!』(2000年)は大きな話題となり、私自身も当時、大いに触発されたことを覚えています。
 その著者が10年以上にわたって取材を続けてきたのがイタリアのシチリア島。シチリア島と言えば映画『ゴッドファーザー』で描かれているように、マフィアの本場というイメージがあります。

本書でもマフィアによる凶悪な事件の数々が描かれています。… 続きを読む

【ほんのさわり267】白川真澄著『脱成長のポスト資本主義』

−白川真澄著『脱成長のポスト資本主義』 (2023/4、社会評論社)−
 https://www.shahyo.com/?p=11707

著者は1942年京都市生まれ。かつて60年安保闘争、ベトナム反戦運動、三里塚闘争等に関わり、現在はピープルズ・プラン研究所などで研究・普及、ネットワークづくり等に取り組んでおられます。私も、高坂勝さん(SOSAプロジェクト)と共催されている「脱成長研究会」に何度も参加させて頂くなど、多くの学びを頂いています。
 
 本書によると、現代の世界は深い危機(ウクライナ戦争、新型コロナの流行、気候危機、社会内部の格差の拡大と分断等)のただ中にあり、資本主義という現代の支配的なシステムは行き詰まりを見せているものの、予想以上の強い延命力を持っており、その手直しや自己修正では問題は根本的に解決できないとしています。… 続きを読む

【ほんのさわり266】谷口吉光 編著『有機農業はこうして広がった』

−谷口吉光 編著『有機農業はこうして広がった』 (2023/2、コモンズ)−
 http://www.commonsonline.co.jp/new_books/2023/04/19/sensho9/

編著者の谷口吉光先生(秋田県立大教授、社会学)によると、「日本では有機農業は広がっていない」との通説は間違っているとのこと。農地面積等の統計でみれば全体の0.6%に過ぎないものの、有機農業を「ひとつの社会現象という物差し」で見ると、様々な形(運動、ビジネス、思想、政策)で広がっていると主張されています。… 続きを読む

【ほんのさわり265】桐村里紗『腸と森の「土」を育てる』

−桐村里紗『腸と森の「土」を育てる−微生物が健康にする人と環境』 (2021/8、光文社新書)−
 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045562

著者は1980年岡山県生まれの内科医・認定産業医。
 臨床現場では生活習慣病から終末期医療まで幅広い診療経験を積まれると同時に、「ヘルスケア」の再定義など情報発信等に努めておられます。… 続きを読む

【ほんのさわり264】宮台真司『日本の難点』

−宮台真司『日本の難点』 (2009/4、幻冬舎新書)−
 https://www.gentosha.jp/store/ebook/detail/1599

著者は1959年宮城県生まれの社会学者、評論家。
 昨年11月29日夕、教授を務める首都大学東京での講義を終えて1人でキャンパス内を歩いていた際、男に襲われて重傷を負ったとのニュースには驚きましたが、その後、快復されて活動を再開されていると伺い安堵しています。なお、容疑者とみられる男は12月に死亡(自死)が確認されています。… 続きを読む

【ほんのさわり263】谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ』

−谷口信和ほか『食料安保とみどり戦略を組み込んだ基本法改正へ−正念場を迎えた日本農政への提言』(日本農業年報68、2023年3月、筑波書房)−
 https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_81190645/

気候危機、パンデミック、ロシアによるウクライナ武力侵攻により世界的な食料危機および各国の農業の持続性の危機が顕在化するなか、現在、食料・農業・農村基本法の見直し作業が行われています。しかし、本書においては、現在までのところ日本農政の立て直しの方向は見えていないとして、11名の識者による基本法の改正の方向及び具体的な提言が収録されています。

編集代表でもある谷口信和(東京大学 名誉教授)は、新たな基本法の最重要目標は食料自給率の向上であるとし、その実現のためには、耕作放棄地の復旧を軸とした農地の拡大、農業への幅広い国民の参加、地産地消など循環型の地域農業の構築が重要であるとしています。… 続きを読む

【ほんのさわり262】ジェシカ・ファンゾ『食卓から地球を変える』

−ジェシカ・ファンゾ『食卓から地球を変える−あなたと未来をつなぐフードシステム』(2022年3月、日本評論社)−
 https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8763.html

著者はジョンズ・ホプキンス大学(アメリカ・ボルチモア)公衆衛生大学院の特別教授等を務めており、専攻は世界食料・農業政策及び倫理学とのことです。
 大学院で分子栄養学の学位を取得した著者は、「無菌実験室」を離れ、ウガンダやケニア、東チモール、ミャンマーなどの「現場」で、エイズなど公衆衛生や栄養改善の課題解決に向けて取り組みました。さらにその後は、よりグローバルな視点からのフードシステム(農場から食卓まで、食べものに関わる全てのもの)の課題解決のため、FAO等の国際機関において調査研究に従事し、イート・ランセット委員会の報告書(「オーシャンカレント」欄参照)作成にも委員として参画しています。

著者によると、私たちが口にする食べものは単なる栄養源ではなく、個人や地域の栄養や健康、地球全体の天然資源や気候変動、公平性など社会正義の課題に直接大きな影響を与えているとのこと。つまり、食べものは私たちと世界を繋ぐものなのです。… 続きを読む

【ほんのさわり261】田口幹人『まちの本屋』

−田口幹人『まちの本屋−知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(2019年5月、ポプラ文庫)−
 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8101380.html

著者は1973年岩手県生まれ。盛岡市の書店での5年半の勤務を経て実家の書店を継ぐも、倒産。別の盛岡市内の書店に再就職し、独自の店づくりと情報発信によって全国的に注目された方です。

著者によると、「本屋は農業」とのこと。
 普段から客とのコミュニケーションを図り、常に棚にも手を加えて変えていくという(本屋を耕す)努力がなければ、いくらPOPやパネルを置いても、客との信頼感は生まれないとしています。… 続きを読む

【ほんのさわり260】松尾康範『居酒屋おやじがタイで平和を考える』

−松尾康範『居酒屋おやじがタイで平和を考える』(2018年7月、コモンズ)
http://www.commonsonline.co.jp/books2018/2018/07/28/%e5%b1%85%e9%85%92%e5%b1%8b%e3%81%8a%e3%82%84%e3%81%98%e3%81%8c%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%81%a7%e5%b9%b3%e5%92%8c%e3%82%92%e8%80%83%e3%81%88%e3%82%8b/

昨年12月18日(日)に東京で開催された「山下惣一さんを偲ぶ会」の呼びかけ人のお一人で、懇親会の進行を軽妙に務められていたのが松尾康範さんでした。私はこの時に初めてお目にかかり、会場で本書を求めさせて頂きました。

1969年生まれの著者は、学生時代から(特非)日本国際ボランティアセンター(JVC)の活動に関わり、94年にはJVCボランティアとして1年間東北タイに滞在。その後、JVCのタイ現地代表、故・山下さんが共同代表を務められていたアジア農民交流センター(AFEC)の事務局長等として国際協力に尽力し、現在は神奈川・横須賀市久里浜で居酒屋「百年の杜」を営んでおられます。

著者は2017年11月、AFECのメンバーとともに改めてタイを訪ねました。「ちょっと真面目に平和って何?」ということを考えながらの旅だったそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり259】後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』

−後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』(1996年1月、日本教文社)−
 https://www.kyobunsha.co.jp/product/9784531062799/book.html

著者は1930年岐阜市生。(株)後藤孵卵場社長、日本養鶏農業協同組合連合会(日鶏連)会長等を務められたのち、1999年に没。
 本書は、著者の父親である後藤靜一(しずいち)氏を主人公とする、日本における養鶏業の黎明期からの「半世紀にわたるドラマ」です。

静一氏は1902年、岐阜県の山間部にある旧根尾村(現本巣市)の裕福とは言えない家に生まれ、高等小学校を中退して大阪の薬問屋に奉公に出ました。その時に肺結核を病みましたが、鶏卵の食事療法で快復した経験から、郷里に戻って養鶏を始めることを決意します。… 続きを読む