フェアトレードと地産地消

JICA地球広場(渋谷区広尾)で開催された開発教育全国集会に参加して来ました。

開発教育とは、私たち一人ひとりが、開発をめぐるさまざまな問題(途上国など世界で起こっている貧困や戦争、環境破壊、人権侵害等)を理解し、望ましい開発のあり方を考え、共に生きることのできる地球社会づくりに参加することをねらいとした教育活動とのこと。

 

今まであまり関わりのなかったこの分野の集会に参加しようと思ったのは、まずは西川潤先生(早稲田大学)の基調講演を聴きたかったから。私事ながら、食料や農業の問題に一生関わっていくことを決めたのは、学生時代に西川先生の「飢えの構造」という著書を読んだためです。

 

もう1つの理由はフェアトレード。現在、私が携わっている地産地消やフード・マイレージは、なるべく近くでとれたものを食べようという運動論です。食料の長距離輸送に伴う環境負荷の大きさに着目すれば、輸入品のチョコレートは、たとえフェアトレードのものであっても地球のためには食べない方がいい、という結論になります。一方で、フード・マイレージの考え方(世界では一般的には「フードマイルズ」)は、自由貿易を妨げ、途上国の経済発展を妨げるものだとの議論もあります。

これらについてどう整理すればよいかが以前から頭に引っかかっており、つまり、地産地消やフード・マイレージとフェアトレードは、当然ながら相反するものとして私は捉えていたのです。

 

ところが、基調講演に引き続き参加したフェアトレード分科会での議論は、正に「目から鱗」でした(旧知の明石祥子さん(フェアトレードくまもと代表)もパネリストとして参加しておられました)。

 

フェアトレードとは、経済的にも社会的にも弱い立場にある「南」の生産者や労働者に対しより良い(公正な)貿易条件を提供することによって生産者等を支援し、持続可能な発展に貢献することが目的です。

一方、地産地消の目的は、現在のあまりにも離れすぎた食と農の距離を、再び近づけることです。フード・マイレージは、日々の飽食に疑問を感じない多くの日本の消費者に、自分たちの食べものが、どこで誰によって作られ、運ばれてきているかを想像してもらうきっかけを用意するためのツールです。

つまり、まずは自分たちの食べものがどこでどのように作られているかを知り、できるところから実践につなげていくという面では、地産地消とフェアトレードのねらいとするところは全く同じなのです。違うのは、生産者がいる場所が地球の裏側の途上国か、地域(日本国内の農山漁村)であるか、というだけです。現に、フェアトレード先進国の英国では、途上国の商品とあわせ、地域の農産物等の地産地消にも積極的に取り組んでいるとのことです。

 

確かに数字だけみれば、フェアトレードのチョコレートのフード・マイレージは膨大です。しかし、フード・マイレージは一つの見方を紹介するヒントに過ぎません。輸送に伴う環境負荷の大きさは輸送機関によって大きな差があるし、そもそも輸送による部分は食料の生産から消費・廃棄に至るライフサイクル全体の中で排出される環境負荷のごく1部分に過ぎません。地産地消だけで全ての問題が解決するほど、世の中は単純ではありません。

 

近年は、開発教育の分野でも、日本国内の持続可能な農業生産や地産地消が注目されているとのことです。また、開発教育の分野には、子ども達や大人に様々な問題を気付いてもらい実践につなげるための様々なツールやノウハウが蓄積されています。最近、開発協会が作成した学習ツール「地球の食卓」は、世界24カ国30家族の1週間分の食料を並べた写真集と、これらを用いた具体的な学習プランのテキストからなる素晴らしいものです。

 

今回の集会に参加したことによって、自分の意識の中に新たな地平が拓けたような気がしています。開発教育について色々と教えて頂いた皆さんに感謝します。