日本フードシステム学会 「大震災」特別研究会

 秋分の日・9月23日(金)は晴天、風は秋の気配。文京区弥生の東京大学農学部キャンパスには大量の銀杏が。
 日本フードシステム学会の特別研究会「フードシステムと東日本大震災」が開催され、今般の未曾有の大災害の中でのフードシステム(食料の生産から加工、流通、消費までの一連の流れ)の現状、今後の復興に向けての方策等について報告と討論が行われました。
 齋藤修会長(千葉大学園芸学部)の挨拶に続き、10名の方から報告・コメントが行われ、多くの新しい事実や視点が明らかにされました。その一部を紹介します。
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 この日は座長も務められた川村保先生(宮城大学食産業学部)からは、個人商店の役割について。
 震災直後、個人商店は食料供給に大きな役割を果たしたとのこと。小規模な家族経営であるため柔軟な対応が可能で安全確認も容易で、問屋や地域住民との信頼関係があること等が、その強みだそうです。一方、効率性という観点から全国展開しているコンビニや大手スーパーは、震災直後は機能不全に陥りました(ただし回復は速やかで、自治体との協定もあり復興に重要な役割を果たしているとのこと)。個人商店の頑強性とコンビニ等の効率性は相反する面があるものの、両方を持ったシステムが考えられないか、というのが川村先生の問題提起でした。
 同じく宮城大学の谷口葉子先生からは、原発事故が有機農業者に及ぼしている影響についての実態調査結果の報告。
 福島県は全国でも有数の有機農業に熱心な県で、新規就農者も多いそうです。ところが今回の原発事故により、首都圏の消費者等との契約が大幅に減少したり、出荷そのものを休止されているような影響がみられるそうです。また、自主的に測定器を導入しようという動き(みんなの放射線測定室)もあるとのこと。
 放射能汚染については共通の法的枠組みや認識が無く、農家は個別に自主的な判断を強いられているのが現状であり、消費者も一緒になってコストを共有する仕組み作りの重要性を強調されていました。
 筑波大学の氏家清和先生は、放射能汚染について、京浜、京阪神の既婚女性を対象に3月、6月、8月の3回にわたって実施した消費者アンケートの分析結果について報告されました。
 事故後、時間が経過しても消費者の放射能に対する不安が薄まっているわけではないこと、国や専門家に対する信頼感が徐々に低下していること、特に若年層において国産品に対する評価が大きく低下していること等が明らかとされました。
 消費者に対しては、例えば単に規制値を下回っているというだけではなく、汚染の程度を細かく伝えていくことが重要というのが氏家先生の結論です。
 
 生協のパルシステム連合会・山本伸司理事長からは、会員生協や物流センターの被災の状況、ガソリン不足と計画停電等の状況の中で、3月15日には先遣隊を現地に派遣、支援体制づくりを始め、石巻市災害対策協議会等と連携しての炊き出し隊の派遣、物資支援、カンパ、復興基金の創設等の取組について報告がありました。
 また、放射能汚染に関して独自のガイドラインを設定し、自主基準の導入と自主検査体制の整備に取り組んでおられるとのこと。一方で、産地では生産者とも協力して除染の取組も行い、ひまわりによる吸収実験では除染効果が確認されたとのことです。
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 他にも多くの興味深い報告・コメントと会場との討論がなされました。本日の成果については、改めて取りまとめ、本として出版する予定とのことです。