土木と学校教育フォーラム

 猛暑の日々が続きます。
 7月28日(土)、第4回「土木と学校教育フォーラム」が開催されました。
 会場は、四ツ谷の外堀公園内。巨大な江戸城や多くの大名屋敷があった東京は、都心部にも多くの緑地が残されています。四ツ谷駅に隣接する外堀公園も緑が多く、家族連れが蝉の抜け殻を見つけて喜んでいました。
 それにしても暑い。
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 土木学会とはこれまで全く縁が無かったのですが、この日登壇された林美帆さん(大阪・あおぞら財団。後述)に紹介頂き、土木と学校教育学習の双方の専門家による事例報告があると聞き、伺ったものです。
 冒頭、筑波大学大学院・唐木清志先生から開会の挨拶と趣旨の説明。
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 学校教育の方がご専門で、福祉関係についても活動されてきたとのこと。
 その体験に基づく話として、ある小学校で車椅子を送ろうという話になり、先生は熱意があって子ども達も一生懸命、空き缶等を集めてプレゼントが実現したそうです。贈られた障がい者の方はその時は喜ばれましたが、実は、障がいの程度は人によって様々で既成品は役に立たないとのこと。使えない車椅子が倉庫に何台もある福祉施設もあるそうです。
 つまり、事前に、あるいは途中で、しっかりと専門家とつながることが重要とのお話。
 実際の体験に基づいたお話で感じさせられるところが多く、同時に、この日のフォーラムのテーマ「専門家とつながる土木学習」の意義がよく理解できました。
 さて、プログラムの最初は模擬授業ワークショップとして(株)建設技術研究所の宇井正之氏から「環境学習支援による土木分野への興味・意識向上の一手法」。
 同社は、地域活動への参画と社員のボランティア活動の支援を経営方針としており、各地のモデル小学校と協力して「みずしらべ」学習を展開されているとのこと。多摩川の流水の働き、生物と環境といった実践事例の報告をお聞きした後、4グループの分かれて水の汚染度を調べる「模擬授業」です。
 
 先生の手許にはAからDの4本の2リットル入りペットボトル。水は透明なものから少し濁っているものまで、これが各グループに1本ずつ配られます。私の入ったグループには、幸運にも(?)一番濁っているように見えるDが当たりました。底には茶色っぽい沈殿物もあります。
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 これを各自、透明のプラスチックのコップに入れて、水道水と比べながら、まず「体を使って」みる、かぐ、さわる。結果を手許のシートに書き込んでいきます。続いて「道具を使う」。取り扱いが簡単なスポイト状の試薬を使い、各自、自分のコップの水質を検査。変わった色によってCOD(化学的酸素要求量)を計測します。
 その後、各グループから報告。
 Aは透明で無臭、Bは透明ながら少しぬるぬる、Cは少し濁りがあってかすかに甘いような香り、Dは濁っているけれども無臭で手触りも変わらず。ところが試薬で判明した結果によると、Bが最も汚れていて次がC、AとDは、ほとんど汚染は確認できないという結果でした。
 そして宇井さんから、種明かし。
 実はAは水道水そのもの。Bは水道水に甘いものを少し、Cは同じく美味しいものを少し混ぜたもの(ネタばれになるので書きません)。そしてDは、普通の土を混ぜたものでした。
 そして、水を汚さないためなにができるか、例えば1杯分の味噌汁を、魚が住めるようにするためにきれいにするためには、風呂おけ5杯分の水で薄めることが必要、等ということを伝えていくそうです。
 実験結果は意外性があり、宇井さんの興味を引く話ぶりもあって、子ども達の授業が盛り上がっていることが想像できました。
 この日は、小学校側で総合学習をコーディネートされている方も見えられており、会場からの質問、意見交換も活発に行われました。
 さて、続く実践・研究報告の3番目に登場されたのが、あおぞら財団の林美帆さんです。
 あおぞら財団は、早くからフード・マイレージに着目され、独自の買い物ゲームを2005年に作られるなど、活発に活動されています。
 実践の様子を見学したいと思っていたのに果たせずにいたのですが、この日の土木学会で報告されると林さんから伺い、ようやく実際に取組の様子をお聞きすることができたものです。
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 あおぞら財団の「フードマイレージ買い物ゲーム」は、なかなか手の込んだものです。
 まず、1970年代と現代のグループに分かれ、予算の範囲内で夕食のメニューを考えます。手作りの食材のカードは季節ごとに分かれていて、表には産地と値段が書いており、裏返すと小型のカードが添付されていて、これを地図の上に貼っていきます。
 さらには、交通手段も選べるようになっています。そして、星の数(星一つが輸送に伴い排出された二酸化炭素20グラムに相当)を数えて、気づいたこと等について話し合い、環境に優しい食生活のあり方について考える、というものです。
 2011年度までに、西日本を中心に500か所近くで貸し出し、2万人以上が体験しているとのこと。
 よく指摘されるフード・マイレージの欠点として、輸送手段による差や生産面の環境負荷が考慮されていないい、というものがありますが、この買い物ゲームでは、これらについても配慮されています。
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 会場からも熱心な質問が続きました。
 その一つ、社会科の先生からは、社会科では遠隔地の生産者の思いを考えようと教えており、距離だけに着目したフードマイレージの考え方と相容れない面があるのでは、との指摘。
 林さんの回答は、「このゲームは、やっていて結構もやもやする。地産地消だけが全ていいという結論にはならないし、輸入が全てだめとも言えない。しかし、安さや便利さだけではなく、大気汚染等の問題を考えることも重要であり、その場面場面によって様々な使い方ができると考えている」等の回答。
 後のポスターセッションの場でも、ゲームを考案された松村暢彦先生(大阪大学大学院)と林さんから、引き続き詳しい説明をお聞きすることができました。
 関西弁バリバリの(失礼)林さんの迫力ある説明もあって、多くの参加者の興味と強い関心を引いたようで、これまで実績が乏しかった東京、関東圏でも買い物ゲームの実践が実現する日も近いかも知れません。
 ところで、土木学会とはこれまで縁がなく、土木そのものについても(仕事で関わりのある農業土木はともかくとして)、正直、あまり考えたことはありませんでした
 「土木のイメージは、工事現場、泥や土、そして環境破壊? 普通の暮らしのために、道や緑や川のことを考えて行くのが土木の仕事」(土木学会のパンフレットより)。
 今般の大震災では、改めて安全な国土づくりの必要性が痛感されました。会場では、東北地方整備局による救命・救援ルート確保と復興に関するパネル展示『忘れない』も行われていました。
 さらに、全国建設研修センターからは、国土づくりに尽くした多くの先人達についての報告と展示もありましたが、台湾でダム建設に携わり今も現地で慕われているという土木技師・八田與一のことは知りませんでした。
 色々いと実りの多いフォーラムでしたが、午前のプログラムだけで失礼して、猛暑の都心から涼しいところへ移動することに。(続く)
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