「市民皆農」のとき

 2013年(平成25年)が明けました。平成も四半世紀です。
 北日本や北陸では「大吹雪」とのニュースが伝えられる中、東京地方は申し訳ないくらいの青空、穏やかな正月を迎えました。
 元日は、いつもの近所の稲荷神社へ。小さな神社ですが、地元の初詣の方達で、そこそこ人出があります。
 毎年、境内には「地口行燈」(じぐちあんどん)が飾られています。地口とは駄洒落のような言葉遊びの一種だそうで、軽妙なイラスト(戯画)とともに行燈に書かれています。
 東京に来てから初めて見ましたが、これも、初詣の楽しみの一つです。
130101_shogatu_convert_20130101231939.png
 この日、見たのは「八百屋おしし」。言うまでもなく「八百屋お七」のパロディで、獅子の足もとに大根や茄子が描かれています。
 やはり縁起物で「柿のもとのひのまる(柿本人麻呂)」というのも。
130101_hon_convert_20130101232007.png さて、この暮れから年をまたいで、『市民皆農-食と農のこれまで・これから』(2012.7、創森社)という本を読みました。山下惣一さんと中島正さんの往復書簡集です。
(テレビの紅白を聴きながら本を読んでいたのですが、美輪明宏「ヨイトマケノ唄」には引き込まれました。)
 1936年、佐賀・唐津生まれの山下さんについては、学生時代に初めて著作に接して以来、これまで折に触れて読んできた大好きな作家のひとりで、個人的にも大いに影響を受けた方です。
 九州農政局在勤中、シンポジウムでの講演をお願いするためにご自宅をお訪ねしたこともあり、その後、縁があって鈴木宣弘先生(東京大)と3名の共編著で本を出版するという幸甚な機会もありました。
 今回の著作も、いつもの山下さんらしく、ユーモアある語り口にくるみつつも、斬れ味鋭いものでした。
 日本農業のモデルを求めて世界を回った山下さんの結論は、どこにも「青い鳥」はいなかったということ。
 むしろ、フランスの国立農業試験場の広報官から「日本が経済発展しながらも小農を温存しているのは賢い選択。長い目で見れは社会コストは安くつく」と言われ、考えが変わったそうです。
 農業の裾野を支え地域社会を構成している小規模農家や自給農家は、もっと評価されるべきではないか。石垣も、大小の石が支えあってこそ崩れないではないか、と。
130101_hon2_convert_20130101232030.png 東日本大震災は山下さんにも大きな衝撃を与えました。
 そして、「がれき」と呼ばれるものの大半が物質文明そのものであったことに気づきます。
 経済は「損得」の問題であるのに対して、農業・食料は「生死」の問題であって、そもそも「儲け」は存在しない。農業は人類の生存とともに続いてきたが、農業、百姓が儲かった時代がどれだけあったか。
 人が生きていくために必要なことは、何よりもまず食べること。
 特に「3.11」以降、揺るぎなき土台の上にしっかりとした暮らしを築きたいという若い世代の願望が農業に向かっていることは間違いなく、今後は農業回帰、皆農の時代になると予想されています。
 もう一人の中島正さんは、これまで存じ上げなかったのですが、1920年岐阜県下呂市の生まれということですので、山下さんよりも16歳年上です(お2方の合計年齢は168歳!)。
 台湾で終戦を迎えた後、飛騨の実家の農業を継がれ、自然卵養鶏に永く取り組んでおられる方です。
 中島さんは、江戸中期の思想家・安藤昌益の思想(万人直耕)を引用されつつ、工業優先型経済から自然循環型自給自立経済へ、皆農社会へと向かうのは、好むと否とに関わらず、歴史的必然と喝破されています。
 皆農社会とは、「自分の食い扶持は自分で賄う」という「大自然の摂理」に順応した生き方を、全ての人々が平等に実践することとのこと。現に世界でも日本でも、市民農園や「半農半X」など、様々なスタイルの「週末ファーマー」が驚くほどたくさん増えているではないか、と。
 山下さんも、日本版「ダーチャ」(ロシアの農場付き別荘)の出現を期待されています。
 現代文明は化石エネルギーや地球環境問題の制約に直面し、さらに「3.11」を経験(被災は継続中)して、持続可能性の重要性が共通認識となりつつあります。
130101_shogatu3_convert_20130102104208.png 食の分野も例外ではありません。むしろ、食は一人ひとりが自ら主体的に選択できる余地が大きく、かつ、地域の資源や風土と密接に結びついていることからは、ほかの分野以上に持続可能性を追求し実現できる可能性が大きいといえます。
 世界でスローフード運動等が拡がっているのは、その証とも言えます。
 「市民皆農」という言葉は、これからの時代の重要なキーワードの一つになると思われます。
 このようなことを考えた2013年の始まりでした。
 もっとも呑みながら、食べながらですが。ちなみに我が家の雑煮は、毎年、白味噌に丸餅です。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 ◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
(↓ランキングに参加しています。よろしかったらクリックして下さい。)

人気ブログランキングへ