「放射能」子どもにどう伝える?

 暑い日が続く3連休の中日に当たる2013年7月14日(日)は、東京・練馬の光が丘区民センターへ。
 センター前の広場では「よさこい祭り」が開催中、奇抜な衣装に身を包んだ男女のグループが踊りに興じています。平和な東京の風景です。
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 私の目当てはお祭りではなく、この日、開催された学習会「放射能、子どもにどう伝える-ニュースを見て子どもに聞かれた時どう答えますか?」
 
 企画・運営されたのは「子どもたちを放射能から守る ねりまネットワーク」。
 原発事故後、一人で悩むのはやめ、誰かが動いてくれるのを待つことなく、自ら子どもたちを守ろうと集まった親たちのグループです。
 そして、この日の講師はNPO法人「市民科学研究室」代表の上田昌文(あきふみ)さん
 「市民にとってよりよい科学技術とは?」をテーマに、食、医療、住環境、電磁波、放射線などの分野で勉強会の開催や調査研究・政策提言等を積極的に行われている方です。
 私も、これまで何度も学習会、講演会を聞かせて頂きました。そのたびに発見があります。
 この日の参加者は約20名。子育て世代の若いお母さん、お父さんが中心です。
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 主催者の方からの挨拶。練馬での上田先生の学習会は2回目とのこと。
 上田さんの講演は、過去2回の学習会以降の状況についてのやりとりから始まりました。
 参加者からは、学校等で実際に計測すると側溝など線量の高いところ(ミニホットスポット)がみつかり、泥を集めてブルーシートに包み校舎の裏に埋めたこと等が報告されました。
 上田先生からは、厚生労働省のデータを分析した結果、幸いに食品の汚染は大きく低減していることが明らかになったことの説明がありました(ただし海産物については要注意とのこと)。 
 続いて、この日のテーマである放射能教育については、学校では主に理科の教員が担当しているが社会科や家庭科等にも係る内容であることに留意すべきこと、子どもの成長に見合った授業を設計すること、地域に根差した内容とすること等の重要性が指摘されました。
 そして、子ども達の将来的な社会参加も視野に入れた対話型(“正解を知ってもらう”のではなく、状況を見据えて切り開く力をつける)教育の必要性が強調されました。
 一方で、文部科学省『副読本』は、原発事故に関する記述が無いこと等の問題を指摘しつつ、理解を深めるための何冊かのテキストも紹介して下さいました。
 (例えば、
  木村真三監修『放射線なんか、まけないぞ!』
  田崎晴明『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』
  やや高度な専門書としては、小佐古敏荘『原子力教科書 放射線安全学』  等。)
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 そして、被災地を含む各地で開催している「親子放射能ワークショップ」の概要について報告がありました。
 対話や手作業を通して、今、自分たちが置かれている状況を理解し、子どもと親がともに了解し合って放射能に向き合うためのきっかけとすることを目的としています。
 頂いた資料には「対話型放射線教育の試み」との副題が付されています。
 ここで、ワークショップでも行う「買い物ゲーム」を参加者で実際にやってみました。
 50品目ほどの食品の中から、子どもの晩ご飯として10種類を選び、その後、それぞれの食品について、最近で最も汚染度が高かったデータが提示されます。言わば最も「不運」な食材を選んでしまった、という仮定です。
130714_5_convert_20130715110616.png 摂取量に換算して合計すると、全ての参加者が1食当たり10ベクレル未満という結果でした。そもそも多くの食材では検出限界以下となっており、どのような食品が比較的検出されるか予備知識を持っている参加者も多く、4ベクレル以下という方も多数おられました。
 この簡単なゲームから、現在、食品からの被ばく量は大きくないことが理解できた一方、川魚や野生のきのこ、根菜の一部など現在も比較的汚染度が高い品目もあり、これらを避けることによって、より被ばく量を低減させていくことができることも実感できました。
 最後の質疑応答では、会場の参加者からは熱心な質問や意見が出されました。
 そのお一人、保育園児のお母さんという方からは
 「今年度から給食の検査もなくなった。確かに不検出ばかりで心配しなくてもいい状況なのかも知れないが、あたかも原発事故も何も無かったように、このまま忘れてしまっていいのだろうかと、もやもや感がある」との意見。
130714_4_convert_20130714213303.png 上田先生は
 「同じ思いを持っている。身の回りの放射能が危ない、危なくないというだけで済ませられる話ではない。事故から2年半近くたった現在も、故郷に帰ることのできない方が多数おられる。福島の人たち、避難してこられている人たちと、交流し、色々な話をする機会を持っていくことが必要。
 故郷を捨てざるを得なかった人たちがいることを考えると、やり切れない思い」との心境を吐露されました。
 市民目線で被災地にも寄り添う上田先生の活動の様子に改めて触れることができ、そして身の回りの安全性(もちろん最も重要なことですが)だけではなく、原発事故をより本質的な社会問題として捉え、被災者と繋がっていこうとする機運が市民レベルで高まっていることが実感できました。
 内容の充実した、心励まされる思いがした学習会でした。上田先生、主催者の皆さまに感謝申し上げます。
 その一方で、上田先生がおっしゃったように、福島県だけで今も15万人の避難者がいるという現実に、改めてやりきれない切なさを痛感した次第です。
 16時過ぎ、学習会が終わり外に出ると、ものすごい雷雨になっていました。
 ここ数日の猛暑も、畑の水不足も、少しは和らいだようです。
【ご参考】
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