市民研20周年シンポのテーマは「地域」

 2014年1月18日(土)も冬晴れの一日。
 NPO法人「市民科学研究室」(市民研)の20周年記念シンポジウムに足を運びました。
 会場は、東急・池尻大橋駅に近い「せたがや がやがや館」。
 「市民研」は、リビングサイエンス(生活を基点にした科学)等を理念に「市民にとってよりよい科学技術とは」を考え提言するNPO。
 代表の上田昌文(うえだ・あきふみ)さんは食の問題に対する造詣も深く、各地で開催されている「放射能に関する親子ワークショップ」には私も何度か参加させて頂きました。
 14時に開会。70名ほどの参加者で会場は溢れています。
 シンポジウムのテーマは「豊かな地域をつくる~「消費」と「所有」を超えて、科学・技術を生かすために~」。
 冒頭、上田さんから趣旨説明。
 科学技術の発展に伴い発生している諸問題の解決のためには、自然との共生、人々の共感や共有をベースにした新たな「地域の豊かさ」の創造と、地域のために活用される科学技術の姿を具体化していくことが必要ではないか、とのこと。
 そして、地域でできる具体的な取組として、「電力OFFの日」の設定、地域食材を活かした「子ども料理科学教室」、耕作放棄地や空き家の“公有化”と若者への無償貸与、地域防災の確立などの提案がなされました。
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 地域と関わって先進的かつユニークな活動を展開されている4人の方からの講演は、いずれも充実した素晴らしい内容でした。
140118_3_convert_20140123004703.png 最初に登壇されたのは、長尾彰さん。
 教師の経験もあり、いくつかの会社やNPOの代表、ラフティング女子代表コーチなど様々な分野で活躍されている方ですが、この日は一般社団法人「プロジェクト結コンソーシアム」の活動報告です。
 震災直後、宮城・石巻市の友人(水産加工会社)からの電話を受けて支援活動を開始。被災地を訪れ、空き地や公園は仮設住宅で埋まり子ども達が安心して遊べる場がないこと、親が子どもを預けられるところもないという実態をみました。
 そこで、個人・NPO・企業・行政など立場の垣根を越え、スキルと専門性を有する多くのボランティア(多くは友達の友達等)の参加を得て、託児・就労支援のための「結のいえ」と放課後の学童の居場所「みんなの場」を開設するとともに、幅広い学校サポート活動(例えばプール掃除、津波に流された学歴簿の洗浄、卒業名簿の宛名書き等)に取り組んでおられるそうです。
 行政は公平性重視、民間は利益追求のため「隙間」に落ちる事柄も多い。その中で自分たちができることを一所懸命探し、参加と自治を促しつつ支援していくことの重要性を強調されていました。
140118_4_convert_20140123004754.png 続いて、NPO法人「オブセリズム」の花井裕一郎さん。
 テレビ局の映像作家時代に取材に訪れた長野・小布施町に魅せられ、自ら移住。小布施町立図書館の館長(公募)を経て、現在は図書館の設計・運営や街づくり演出のアドバイザーとして活躍されている方です。被災した岩手・大槌町立図書館を再興する「大槌メディアコモンズ検討委員会」の委員も務められているそうです。
 図書館をワクワクする交流と創造の場に変えていくためには、発想の転換が必要。
 そのために「禁止を禁止」。飲食、おしゃべり、スキップ等を禁止しない。年末年始も開ける。BGMを流す。貼り紙はしない。面倒くさいことをきちんとして、もてなす心構えが大切。
 美術や太極拳の教室、議員報告会等も積極的に開催し、年間2万人だった利用者は14万人に増加したそうです。「死ぬまでに行ってみたい世界の図書館15選」にも選ばれ、地元の人が図書館自慢をするようになったとのこと。
 カフェや民家など17箇所の玄関先に本棚を並べ開放する「おぶせまちじゅう図書館」という取組も拡がっているそうで、これは被災地支援の活動にも応用されているそうです。
 大事にされている言葉は「ないのに、ある」。
 目には見えない歴史や物語、エネルギーに気づいてもらい可視化するのが演出家の仕事、という言葉が印象に残りました。
140118_5_convert_20140123004818.png 3番目は佐々木健二さん。
 ラジオやイベントの企画・制作やプロデュース事業を行う(株)ジェイクランプの代表。岩手県出身で、京都から岩手1100kmの単独徒歩による路上ライブツアー、全国のコミュニティFM(178局)をカブで訪問されたなど、ユニークな経歴の持ち主です。
 プレゼンは福島・南相馬の状況から始まりました。
南相馬市は大きく6つの地区(旧3町のそれぞれ沿岸・内陸部)に分けられるそうですが、福島第一原発に最も近い小高区では、この年末年始に認められた自宅への宿泊をする人はほとんどいなかったとのこと。
 誰もおらず、醤油を買う商店もなく、被災した建物は崩れていくだけという様子がスライドに映されます。
 それでも土地に対する愛着はある。地域に密着したコミュニティFMは人と人とを結びつけるメディアとして重要で、特に災害が発生した場合には臨時災害放送局に切り替わり、緊急性のある「今、必要な」情報を出す機能がある。
 東日本大震災後、被災地のコミュニティFM局を回り、支援物資届けるとともに、番組の制作支援の活動もされています。「南相馬ひばりエフエム」の現状も報告して下さいました。
 今後、発生するかもしれない災害の際にも、コミュニティFM局は大きな役割を果たす可能性があることを強調されました。
140118_6_convert_20140123005201.png 最後に、ロハス・ビジネス・アライアンス共同代表の大和田順子さん。
 ロハス(LOHAS=Lifestyle for healthy and Sustainability)という言葉を最初に日本に紹介された方です。
 村や町には魅力がたくさんあるものの、住んでいる人は気が付かないことが多い。それらを企業等と結びつけ、事業化する取組を各地で進められているそうです。
 東日本大震災後は、NPO女子教育奨励会(JKSK)の理事として、まずできることとして、被災地の女性のネットワークづくりに取り組まれたとのこと。
 そのために各地で「車座座談会」を開催し、その成果の一つとして「いわきおてんとSUNプロジェクト」が立ち上がり、オーガニックコットンの栽培と商品化、市民のためのコミュニティ電力の立ち上げ、スタディツアーの各事業に取り組んでいます。
 JKSKが主催するボランティア・バスツアーには、私も昨年4度ほど参加させて頂きました。
 さらに、津波被災地で整備されつつある巨大防潮堤の実情(不要とする地元の方も多い)を東京の人に伝えるための取組も行っておられるとのこと。
 適正技術とは何かを考えていくことの必要性を強調されていました。
 後半は、会場の参加者全員が7~8名程度のグループに分かれてのワークショップ。
 地域と科学技術という観点からどのような取組ができるか等について討論。
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 各グループの代表者からは、地域の科学技術を学ぶ「サイエンス散歩」、防災訓練を兼ねた「避難訓練遠足」と「野外煮炊きバーベキュー」、伝統野菜を活用した料理教室やレストラン、空き家の農園付き別荘としての活用、認知症の方の名簿を作成し地域で見守れるような体制づくり等が提案されました。
 「回転寿司型LRT」というユニークなアイディアも。日用品の店舗等を兼ねた電車を運行し、交流のための停車場等も設けるというもの。
 18時からは 交流会。
 市民研の交流会は、単なる立食パーティーではありません。飲食が一段落したところでクイズ大会。10問のクイズが出され、誕生月順に作ったグループで相談して解答するというもの。
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 その後、出題者(10名)が正解ととともに活動のアピールも。
 私は大した活動もしていないのですが、上田さんから依頼を頂いたので「私たちの食を考える-自給率、フード・マイレージ、伝統野菜等」と題したプレゼン。
 ちなみに私が出題したクイズは「日本の農業生産額は、米、野菜、畜産で約8割を占めていますが、これらを生産額が多い順番に並べて下さい」。(正解は畜産、野菜、米)
140118_9_convert_20140119012130.png 他に、細胞の動画撮影、健康食品等の表示と効能、日本とベトナムの街の風景、宇宙に知的生命体は確実にいる、スマートメーターと個人情報との関わり等について、クイズの出題とプレゼンが行われ、最後には持ち寄った品のバザーもあり、予定の時間を超過して盛り上がりました。
 私たちの日々の暮らしは、あらゆる分野で複雑・専門化した科学技術と深く関わっています。
 ともすれば思考が停止し専門家任せになってしまいがちな科学技術(その代表が原子力発電でした)を、改めて市民の目線で捉え、専門家と市民の橋渡しをする市民研の役割は、ますます重要なものとなっていると思われます。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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“市民研20周年シンポのテーマは「地域」” への2件の返信

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    こんばんは
    先日は、市民研20周年パーティにて誠にお世話になりました。フリーライターの眞鍋じゅんこと申します。
    あのぎっちり実沢山のイベントを、見事にまとめて下さり、感謝です。拝読して改めて面白さをかみしめました。
    それにしても、こんなに記録されていたのでは、ご飯ちゃんと食べられなかったのでは? 飲めましたか?
    これからもいろいろ教えていただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
         じゅんこ拝

  2. SECRET: 0
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    プロのライターの方にお褒め頂き、汗顔の至りです。「中古民家主義」は拝読しました。あのような文章と写真に憧れます。ところで、センター試験が無事に終了して良かったですね。これからもよろしくお願いします。

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