出生率と食料自給率の不思議な関係

 先日5月9日 (金) 付けの朝刊各紙にはショッキングな見出しが並びました。
 2040年、全国の約半数に当たる 896市町村が「消滅」の危機に直面するという ものです。
 民間の有識者で構成される 「日本創成会議」 の人口減少問題検討分科会 (座長 ・ 増田寛也元総務相) が発表した提言 「ス トップ少子化 ・ 地方元気戦略」 の内容を紹介したもので、改めて少子化・人口減少問題が「待ったなし」の状況であることが明らかとなりました。
 ところで、 この10頁には各国の合計特殊出生率のグラフが掲載されています。
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 多くの線が重なっているのでちょっと見にくいのですが、日本のグラフ(赤線)の形を眺めるうち、「あれ、どこかでみたことがあるような」、と。
 思い当って、試しに総合食料自給率(生産額ベース、カロリーベース)の推移のグラフと重ねてみると・・・、
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 何とソックリではありませんか。
 いずれも、ほぼ一貫して低下傾向で推移。2000年代に入ると低下の度合いは緩やか、 あるいは横ばいとなり、最近はやや上昇に転じています (カロリーベース自給率は横ばい)。
 どのくらい似ているかを確かめるため、横軸にカロリーベース食料自給率、縦軸に合計特殊出生率をと り、散布図としてプロッ トしてみました。
 そして決定係数 (R2) を求めてみると、0.92と極めて高い値となりました(t値は41.4)。
 これは、1967 年(丙午の翌年)から 2012年までの合計特殊出生率の水準の92%は、 カロリーベース食料自給率によって説明できることを表しています。
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 この結果から導かれる結論は、以下のようなものです。
 現在まで出生率が低下してきたのは食料自給率が低下してきたためであり、今後、 出生率を上昇させて人口問題を解決していくためには、食料自給率を向上させていく必要があるのです。
 ・・・という単純な話は、典型的な 「統計でウソをつく」 例です。
 決定係数が大きいからといって、因果関係があることを証明しているわけではないからです。
 とはいえ、出生率と自給率のグラフは偶然にしては似過ぎています。その理由は何か考えてみました。
 一つは「経済的な側面」ではないかと。
 戦後の復興期が過ぎ経済成長が始まり、産業構造は製造業へ、さらにサービス業へと転換していきます。その過程で女性の就業率が高まり所得が増加、社会進出も進み、これらが晩婚化、未婚化につながり出生率は次第に低下していきました。
 所得水準の上昇は食生活の欧米化(自給できる米の消費半減、畜産物や油脂の消費急増)をもたらし、飼料穀物や大豆・菜種等の輸入が大きく増加しました。また、ライフスタイルの変化により食の外部化・簡便化が進行し、相対的に輸入原料が使用されることが多い加工食品や外食、中食の増加も、食料自給率を押し下げる方向に作用したのです。
 もう一つは「社会的な側面」ではないかと。
 経済成長と産業構造変化の過程で、農村地域から大都市圏に多くの人口が移動しました。農村地域の過疎化と大都市圏の過密の同時進行は、家族数の減少(核家族化)や地縁関係の薄まりにつながり、家庭内で、あるいは地域で子どもを産み育てる機能が低下していきました。
 また、農村地域からの人口流出による農業の担い手の減少・高齢化や耕作放棄地の増加は、食料自給率低迷の一因となりました。
140522_4_convert_20140524080726.png 様々な要因が相互に複雑に絡まっていてうまく整理できないのですが、ざっとしたシナリオは以上のようなものでしょうか。要するに、出生率と食料自給率の低下は、どちらかがどちらかの原因という訳ではなく、共通する要因・時代背景のもとに同時並行的に進行したと思われるのです。
 とすれば、共通する要因を排除ないし改善していけば、両者ともに上昇させていく可能性があるのでは。
 所得水準やライフスタイルは元に戻すことはできないかもしれません。しかし、戦後ほぼ一貫して現在まで続いている農村地域から大都市圏(特に東京圏)への人口移動の動きは、変えられるかもしれません。
 現に昨今、「田舎暮らし」「定年帰農」等のキーワードが注目され、農村や農業に関心を持つ若い世代も増えています(右の写真は東京・檜原村での「ゴマ・ゼロワンプロジェクト」)。
 日本ほど、大都市圏への集中度が高い国はないとも言われます。
 農村地域を元気にしてバランスのとれた国土を形成していくこと。都市でも農村でも、住みやすく働きやすい地域社会とコミュニティを再生していくこと。
 迂遠なようですが、これらが将来の出生率と食料自給率をともに向上させていくために大事なことと思われます。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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