国際家族農業年に考える-「脱成長」勉強会

 2014年6月15日(日)は日本フードシステム学会の大会2日目でしたが、午後からは江戸川橋に向かいました。
 前々日の夜、久しぶりに池袋のオーガニック・パー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」を訪ねた折、オーナーの高坂勝さんから、興味深い会合があるとお誘い頂いていたのです。
140615_1_convert_20140622115731.png メトロ有楽町線の江戸川橋で下車(この辺りの神田川中流部分はかつて江戸川と呼ばれていたとのこと)。
 駅前の定食屋さんで昼食後(美味!)、徒歩数分のビルの2階にあるピープルズ・プラン研究所へ。
 ピープルズ・プラン研究所とは、民衆(ピープル)の目線でオルタナティブな(もうひとつの)世界を探求するために1996年に設立された一般社団法人で、『季刊ピープルズ・プラン』の発行、各種研究会等の開催、提言等の活動を行っているとのこと。
 この日14時から開催されたのは「脱成長」に関する非公式の勉強会。2回目だそうで、5分前に到着した時には、すでに20名ほどの参加者で会議室は一杯です。
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 今回のテーマは「日本農業の再生と脱成長」。報告者は和服姿の関根佳恵(せきね・かえ)さん(愛知学院大学)です。
 これまで、多国籍企業に関する調査・研究等に携わられ、フランス国立農学研究所への留学経験もあり、2013年の国連世界食料保障委員会の専門家ハイレベル・パネルにも参加されたという、気鋭の農業経済学者です。
140615_3_convert_20140622115819.png 関根先生によると、最近、現在、食料安全保障や持続的な資源利用の面で、家族農業、小規模農業の役割が世界的に再評価されているそうです。
 今年(2014年)は国連が定めた「国際家族農業年」であり(日本ではあまり知られていませんが)、FAO、UNCTAD等の国際機関からは相次いで家族農業に関する報告書が出され、家族農業に関する国際会議も各地で開催されているとのこと。
 これらの背景には、新自由主義的な構造調整政策(途上国における食料危機や広がる農地争奪戦、先進国における長引く不況と格差拡大等の問題を生じさせている)への懐疑と見直しの動きがあると、関根先生は分析されています。
 また、比較可能な世界の81カ国のデータを基に、農地面積が1ha未満の農家が75%を占めるなど世界の農家の圧倒的多数は小規模・家族経営であることを統計的に示すとともに、小規模・家族農業には、国・地域・家庭における食料保障の基礎であり、生産性やエネルギー効率性も高く、環境や生物多様性の保全、文化伝承など多面的な役割も有しているとのこと。
 さらに、農家数の減少と規模拡大という従来の経済成長モデルに対して、ブラジル、インドといった新興国では逆に農家数は増加(平均規模は縮小)しており、多様な発展経路があることも明らかにされました。
 一方、日本国内ではTPP交渉への参加、輸出促進、減反廃止など「構造改革」の政策が推し進められ、国際的な潮流に逆行していると指摘されます。
 その上で「日本には有機農業、産消提携、里山保全など世界に誇る実践の歴史がある。これらを活かし、新自由主義的な成長戦略を乗り超えるための脱成長モデルの提示が鍵である」と結論付けられました。
 この講演に対して参加者の皆さんからは、内容を高く評価しつつも、様々な鋭い質問やコメントが出されました。
140615_4_convert_20140622115839.png 例えば、
 「これまでの日本農業は、小規模・家族農業だったから上手くいかなかったのではないか。」
 「最近の若い人の新規就農は、血のつながりが無い法人への就職というルートが増えているのではないか。」
 山形県から来られた著名な農家の方からは、
 「地域において、たすきを次世代に渡していくことが大事であり、そのためには必ずしも家族(血縁)である必要はない。担い手はNPO等でも構わない。旧ソ連のダーチャ(農園付き別荘)のように広く市民が農業をする取組も重要」とし、地元で『置賜自給圏構想』を立ち上げられた旨の紹介がありました。
 高坂氏からは自らの実経験を踏まえ、「小規模農業は無駄が出ないという面で高く評価される」とのコメント。
 私からは、個人的な意見・質問と断った上で、中国やインドを含めたデータを基に「世界では小規模経営が圧倒的多数」と断じるのはいかがか、ブラジルで農家数が増加しているのは農地解放政策が背景にあるのでは、日本農業はEUと比べても小規模であり規模拡大は必要であり、多面的機能の発揮については、別途、直接支払い施策で対応すべきではないか、等の質問をさせて頂きました。
140615_5_convert_20140622115905.png 関根先生からは、小規模・家族農家の有する多面的機能(資源管理や環境保全等)の重要性は途上国も先進国も変わらないこと、EUとは気候風土が異なること、直接支払い政策も新自由主義に基づく政策であること等の説明がありました。
 別の参加者の方(日本農業経営大学校教員)からも言及がありましたが、「極点社会」や自治体の半分が消滅する危機がある(日本創成会議レポート)と言われている現在、地域の多様性にも十分配慮した農業のあり方を模索していく必要があります。
 一律に規模拡大や企業化を進めることでも、単純に小規模・家族農業を重視することだけでも、問題は解決しません。
 関根先生の講演は、考えの異なる部分もありましたが、大変多くの示唆に富むものでした。
 関根先生も作成に携われた国連の報告書『人口・食料・資源・環境-家族農業が世界の未来を拓く』もしっかり拝読するなど、国際家族農業年に当たり、改めて家族農業の重要性等について勉強する必要があると思いました。
 
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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