図14 国内産トマトのカーボン・フットプリント(CO2排出量)


5 フード・マイレージ基礎知識
(14) フード・マイレージ指標の限界-2 (LCA-3)

フード・マイレージ指標は、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点からは輸送の過程に限定されているという限界があることに関連して、前回、前々回と、北海道のコープさっぽろ(札幌市)、ニュージーランドの研究者によるカーボンフットプリントの算定事例を紹介しました。

http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/12_CFP1.pdf

http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/13_NZ.pdf

今回は、国内におけるトマトの生産・流通を対象とした研究事例を紹介します。
トマトは生産額の面でも、機能性など栄養の観点からも重要な野菜ですが、栽培に適する温度帯は比較的狭く(暖地以外では温室栽培が必要)、同時に、生鮮品として流通させるためには低温での輸送が必要という特徴があります。つまり、生産の優位性を重視するのであれば温暖な地域の方が有利であり、一方、輸送面を優先するのであれば大消費地近郊での生産が望ましいことになります。

環境負荷の観点から、椎名ら(出典は記事末参照)は、生産及び流通条件の異なるケースを想定して生鮮トマトのLCA分析を行いました。

その結果、温室栽培においては暖房器や換気扇の運転など生産段階における二酸化炭素排出量が全体の90%近くを占めていること、暖房を必要としない(雨よけ栽培が可能な)地域でから遠距離輸送する場合でも輸送に伴う二酸化炭素排出量は10%強に過ぎないことを明らかにしています。

このことは、輸送距離を短縮するために東京近郊でトマトを温室栽培するよりも、南九州等で暖房せずに生産したトマトを長距離輸送した方が全体の二酸化炭素排出量は小さなものとなることを示しています。
冬場の築地市場におけるトマトの半分は熊本(特に八代地域)産ですが、このことはLCAの観点からも望ましい姿と言えます。

これまで3回にわたって紹介してきたLCAの事例からは、環境負荷低減のためといって地産地消を「やみくもに」推進することは望ましいことではないことか明らかとなりました。また、輸送面に限定されているフード・マイレージ指標の限界や問題点も明らかとなりました。

かといって、フード・マイレージの有用性が、全て否定されるものではないと考えます。次回からは、このことについて考えていきたいと思います。

[出典]
椎名武夫ほか『日本国内で消費される生鮮トマトのLCA』
(第2回日本LCA学会講演要旨集、2007.3)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ilcaj/2006/0/2006_0_49/_pdf