F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.053

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◇◆◇ F. M.Letter −フード・マイレージ資料室通信− ◇◆◇

     No.53; 2014.9/24(水)[和暦 長月朔日]発行

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 昨23日(火)は秋分の日、彼岸の中日でした。そして今日から和暦で

は長月に入りました。

 肌寒さが増し、次第に夜が長くなる夜長月。空は澄み渡り月が冴え、

地上は虫の声に包まれます。各地では収穫祭が開催されます。

 災害続きの今年、穏やかな秋を望みたいものです。

 

 時の流れを体感して頂くため、和暦の毎月一日(朔日=新月の日)と

十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今号は長月朔日の

発行です。

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  F.M.豆知識

  フード・マイレージを始めとする食や農に関わる話題について、毎

 回少しずつ取り上げていきます。

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5 フード・マイレージ基礎知識

(16) フード・マイレージ指標の有用性-2

 

 これまでフード・マイレージ指標が有する限界・問題点について述べ

てきました。

 それではフード・マイレージ指標は、前回紹介した有識者のコメント

のように「いかがわしい」「幻想を振りまいている」「距離だけで環境

に良いの悪いのと語る暴論」なのでしょうか。

 

 私はそうとは考えていません。

 これら限界・問題点はあるものの、それら以上に大きな有用性がある

と考えています。

 今回からは、フード・マイレージ指標には、どのような有用性がある

か(役に立つか)について、説明していきたいと思います。

 

 フード・マイレージ指標が有する最大の有用性(メリット)は「分か

りやすさ」ということです。

 

 前回まで述べてきたように、食料は、その原材料や資材の調達から廃

棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で温室効果ガスを排出

しています。

 この全体を意識する考え方がLCA(ライフサイクル・アセスメント)で

あり、ライフサイクル全体を通じた温室効果ガスの排出量を分かりやす

く表示する仕組みがカーボンフットプリント(Carbon Footprint)です。

 

 つまり、環境負荷を「見える化」することにより事業者と消費者の間

で「気づき」を共有し、サプライチェーンやライフスタイルの見直しに

つなげてCO2排出量を削減していこうというものです。

 民間主体の「CFPプログラム」も推進されており、ウェブサイトでは食

品を含むCFP対象商品の一覧も検索できるようになっています。

 

 このように、カーボンフットプリントは非常に有意義な仕組みなので

すが、残念ながら、これを表示した商品が広く普及している状況にはあ

りません。

 この背景には、カーボンフットプリントの概念や意味、さらには計算

方法等が、一般消費者等には必ずしも分かりやすいものとはなっていな

いという事情に起因しているものと思われます。

 

 これに対してフード・マイレージは、その食品の使用量と産地(輸送

距離)さえ明らかであれば、誰でも簡単に計算できます。

 この簡便さ、単純さは、これまで述べてきたような様々な誤解や混乱

をもたらすという負の側面と裏腹の関係にはあるものの、一般の消費者

(私も消費者の一人です。)にとって分かりやすいということは、非常

に大きなメリットなのです。

 

 なぜ分かりやすさが大事かということについても、追々、述べていき

たいと思います。次号に続きます。

 

[参考]

 カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム(CFPプログラム)

  https://www.cfp-japan.jp/

 

 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」

  http://food-mileage.jp/

 

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  オーシャン・カレント −潮目を変える−

  食や農の閉塞感を打ち破るためのユニークな活動や、それに取り組

 んでおられる方達を紹介するコーナーです。

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 大阪・貝塚市にある精肉店の家族の日常を描いた『ある精肉店のはな

し』というドキュメンタリ映画があります。

 

 冒頭のシーンは、住宅街の中を1人の男性に引かれていく大きな牛の姿。

着いた先は小さな「と畜場」です。

 ここで牛の額にハンマーを打ち込み(一撃で倒さないと危険だそうで

す)、血と内臓を抜き、電動ノコで背骨の真ん中から縦に2つ割にします。

血や肉片が飛び散ります。

 

 取り出された内臓は女性達によって手際良く処理され、肉はナイフで

骨から外され切り分けられていきます。

 その後、肉は店で丁寧にスライスしパックされて店頭に並び、あるい

は車で移動販売されます。

 皮は丹念になめされて、太鼓へと姿を変えていきます。

 

 これら全てが、7代続く肉屋さんの家族4人(男性2人、女性2人)によ

る熟練の手作業で進められているのです。

 

 歴史的な差別の問題、地元の盆踊りや岸和田だんじり祭の場面、と畜

場の脇にある「獣魂碑」の前で祈る姿など、牛のいのちと全身全霊で向

き合う様子が、家族一人ひとりへのインタビューも交えて丹念に描かれ

ていきます。

 

 201497日(日)、東京・自由が丘の「シェア奥沢」で開催された

自主上映会には、纐纈(はなぶさ)あや監督も見えられ、直接、様々な

話を伺うことができました。

 

 と畜場には無機質で冷たいイメージを持っていたという纐纈監督、し

かし実際に足を踏み入れてみると、その熱気に驚かれたそうです。

「作業する人も汗まみれ、命がけで牛と向き合っている様子に圧倒され

た」とのこと。

 

 そして手際よい作業を見ているうちに「有り難うございます」という

気持ちがガツンとわいてきたそうです。「ああ、これを食べていたんだ、

命を頂いていたのだ」と。

 同時に、絶対に映画に撮りたいと強く思ったそうです。

 

 映画の完成後、上映会等で全国を回られるうち、各地のと畜場で働く

人達と話されたエピソードも紹介して下さいました。

「と畜場で働いていることを明かすと『大変な仕事ですね、残酷で可哀

想」等の反応が返ってきて悲しい、等と語る人も多い。

 しかし残酷というなら、食べることこそが最も残酷なことではないか。

死というものがあって初めて、その先に私たちの食べ物がある。もう一

度、食べる人と作る人のつながりを取り戻していかなければ」。

 纐纈監督は訴えておられました。

 

 お忙しい身ながら、交流会も遅くまで参加して下さいました。

 この映画は、監督の暖かく飾らない人柄があって初めて生み出された

ものであることが分かりました。

 

 なお、この数日後、嬉しいニュースが飛び込んできました。

 文化庁映画賞・文化記録映画大賞を受賞されたというのです。贈賞理

由には「牛のいのちと向き合ってきた家業の深奥で光る明るさが、映画

全編のトーンを作っている」等とあります。

 

 ぜひ、多くの方に観て頂きたい映画です。

 

 参考

 『ある精肉店のはなし』公式サイト

  http://www.seinikuten-eiga.com/

 

 平成26年度文化庁映画賞について

  http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/03eigashou/12th_eigashou.html

 

 シェア奥沢での自主上映会の様子(拙ブログ)

  http://food-mileage.jp/2014/09/12/

 

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  情報ひろば

  食や農に関わるセミナーや勉強会の情報、拙ブログの更新情報、各

 種イベントの開催情報等をお知らせします。

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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報

 農山村と都市の新しい結びつきを考える
(09/11)

 國學院大学で開催されたシンポジウム。星寛治さんからは「若い世代

の農村回帰のうねりに大きな希望を抱いている」等の講演。一方、菅野

正寿さんからは原発事故被災地で続く厳しい状況についての報告も。

  http://food-mileage.jp/2014/09/11/

 

 『ある精肉店のはなし』上映会@シェア奥沢
(09/12)

 自由が丘・シェア奥沢で開催された自主上映会には纐纈(はなぶさ)

あや監督も来て下さり、映画に込めた様々な思いを話して下さいました。

  http://food-mileage.jp/2014/09/12/

 

 ふくしまオーガニックコットン・ボラバス2014(第3回)
(09/16)

 福島・広野町の綿畑ではコットンが弾け始めていました。午後は綿繰

りと糸紡ぎのワークショップ。今回も現地の方の様々な話を伺えました。

  http://food-mileage.jp/2014/09/16/

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には

 必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

 

 新潟の棚田へ稲刈りに行こう

 日時:927日(土)9:0028日(日)12:00

 場所:新潟県上越市吉川区大賀集落(東京から4時間弱)

 世話人:大賀米作り世話人・八木和美さん、高田あきかずさん

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/685219248233417/

 

 秋の選択除草−創造的な植栽管理

 日時:927日(土)10:3016:00

 場所:味の素スタジアム西競技場(東京都調布市飛田給1-1-4

 主催:プランタゴ

 (詳細、お問合せ等

  http://www.5baimidori.com/news/OFF%20CAMPUS%2030%E5%9B%9E20140927.pdf

 

 共奏キッチン

 日時:106日(月)17:0022:00

 場所:シェア奥沢(世田谷区奥沢2-32-11

 主催:共奏事ム局

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/kyosokitchen

 

 共奏Weekend「きく」から始まる次の一歩。1分プレゼンを共創しよう!(第2回)

 日時:1012日(日)10:0017:30

 場所:コクヨ Eco Liveoffice 品川(品川駅港南口徒歩5分)

 主催:共奏Weekend実行委員会(7名)

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/1480908908825232/

 

 2014年度 有機米づくり体験会「稲刈り」

 日時:1012日(火)10:00 東武東上線・小川町駅前集合

 場所:埼玉・小川町

 主催:US.Peace ファーム

 (詳細、お問合せ等

  http://uspeace.jp/user_data/event.php#taikenkai

 

【ゴマ01収穫祭】東京ゴマ01in檜原村

 日時:1025日(土)9:30 JR武蔵五日市駅前集合

 場所:東京・西多摩郡檜原村小沢

 主催:greensmile(グリーンスマイル)

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/583614825094004/

 

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* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 の部分は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

 

* 次号No.54108日(水)[和暦
長月十五日]の配信予定です。

 

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて

 頂いています。いつもありがとうございます。

  http://www.lunaworks.jp/

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 F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997

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  発行者:中田哲也